第42話 大好評

 考え事をしていて、少し目の前がおろそかになってしまった。慌ててステーキを切って、お皿によそっていく。


 パンパンと手をたたいて、笑顔を人々の方へとむけた。


「皆さん、ステーキ美味しいですよ。ぜひ食べてください」


 このステーキの香りと、評判のおかげか周囲から人がたくさん寄ってくる。これは忙しくなりそうね。


 ジュゥゥゥという豪快な音。そして、そこにワインを入れてフランベ。やっぱり、ワインを入れると味が良くなるのよね。

 おまけに香りもよくなるし──それだけじゃない。豪快な音につられてさらにお客さんを呼んでくる。


「ここのステーキとパスタ、すごい美味しいぞ。食ってみ食ってみ」


「マジかよ」


 噂や口コミで、あっという間に行列ができてしまった。


 大好評で、休む間もないくらい忙しかった。それでも、一人でも多くの人に料理を味わってほしいからずっと料理を作る。

 コルルも大変そうだ。


 額の汗をぬぐって、料理を作り続ける。休む暇もないくらい疲れちゃったけど、それを感じさえないくらい充実な時間だった。だって、みんなが美味しいって言ってくれたんだもん!


 しばらくたつと、ヒータが戻ってくる。今度はコルルが他を回る番だ。


「コルルありがとう。汗かいて頑張ってくれたおかげで、みんなから大好評な評価を受けられたわ」


「ありがとうございます。でも人多いですし、私手伝いますよ」


 コルルらしく謙遜してくる。そう来るんじゃなかと思ってた。コルルは周囲をよく見れて、自分がすべきことをよく理解できる。だから、自分を犠牲にしてでも力になろうとしたのだろう。


 でもね──。


 コルルの両肩をつかんで、笑顔でウィンクした。


「こっちこそありがとう、気を使ってくれて。でもいいよ、たまにはコルルも楽しんでよ」


「え……」


 フリーズするコルル。そういう所はとっても大好き、だけど──いつも頼ってばかりじゃいられない。


「私達だってやるときはやるんだから。色々と美味しいものを食べておいで」


 そう言って、少し首を傾けた。コルルは表情を次第に柔らかくさせる。そしてコクリと頷いた。


「わかりました。あとはよろしくお願いします」


 そしてコルルはこの場を去っていった。

 この場を去っていくコルルの背中を見て、料理に入っていく。


 コルル──美味しい料理がいっぱいあるから、しっかり楽しんでいってね!


「ヒータ、がんばろ!」


「当たり前じゃない」


 ヒータが笑顔でウィンクした。とってもかわいいし、この料理にかける情熱を感じさせる。そう来なくっちゃ。


 それからも、ずっと2人で料理を作り続けた。

 行列が続く中、懸命に。忙しいけど──評判を聞きながら料理に集中していたら意外とあっという間に時間が過ぎてしまった。


 そして、パーティーが終わってコルルが戻ってくる。


「おかえり、コルル」


「こちらこそお疲れ様です」


 コルルは楽しんでくれたのかな? それはそうとしてコルルの隣には金の王冠をかぶって白いひげを人。だれ?


「初めましてアスキス様。私が国王のバルテッリじゃ」


「えっ? ええ──そうなんですか?」


 わっと、思わず驚いてしまった。なんで国王様私のところに?仮にも国王様たる人が私に何かあるのかな?


「とても素晴らしかったのう。そなたの料理は」


「あ、あ、ありがとうございます」

 思わずぺこぺこと頭を下げた。まさか、こんなことになるなんて。オーバーよ、お世辞なのかな? でも嬉しい、自然と表情がにやけてしまう。


「はっきり言わせてもらうのう。この中で一番おいしかったのがそなたの料理じゃった。本当に素晴らしかったのう」


 パチパチパチパチ──。


「俺も思う」


「私も、あのパスタとステーキは最高だったわ」


 周囲から、大きな拍手の声。みんな同じ意見だと言わんばかりの大きさだ。こんなに喜ばれていたなんてとても嬉しい。

 大変だったけど、作ってよかったって気分になる。それから、隣にいた王子様がこっちにやってきた。


「アスキス様──とても素晴らしいものだと感じました。そなたたちの作った料理。素晴らしいものでした。今度そちらの国に行かせていただきたい」


「ありがとう、今度来たら素晴らしい料理をご馳走するわ」


 王子様が「その時は、楽しみに待ってるぞ」といって頭を下げた。ぜひ来てね、しっかりおもてなしするから。


 そして調理をしていた場所に戻ると、コルルの元に誰かやってきた。花柄の、見たこともないロングスカート? を着ている女の人がコルルと話している。長身で、黒髪のロングヘアの女の人。


「いやあ、そなたの料理は格別でござるな」


「そちらこそさっきいただいた照り焼きのタレ。あとうどん。すごかったですね」


「そうでござろう。まあ、そなたの方がすごかったでござるがな」


 見る限り仲がよさそう、何を話しているのかな? 近づいて、気さくに話しかけてみた。


「コルル、何の話をしているの?」


「ああ、こちらにの着物を着た女の人が淀姫さんです」


 コルルがご機嫌そうに言葉を返す。着物っていうんだ、きれいで個性的な服ね。そして淀姫がこっちを見るなり近くに寄ってきた。


「おお、そなたがアスキスでござるか、淀と申しまする。以降、お見知りおきを」


「私アスキス、よろしくね!」

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