~~メシマズ国家の公爵令嬢~~ 食文化を失った国家のお姫様は、おいしい料理を作るために世界中を旅するようです
静内(しずない)@救済のダークフルード
第1話 屈辱のサミット
ブリタニカ王国の王都「マクレスター」。
王国一の長さ誇る河川「テミズ川」を中心に大きな平野に作られた国一番の町。
工業化により汚れた灰色の大気、急激に乱開発された雑然とした家屋が立ち並ぶ街並み。そんな場所を見下ろす王宮の最上階の大広間、十数名ほどの近隣諸国の国王とその側近たちが集まっていた。
地方の各国王たちはこの王都マクレスターに集まり、このベネルクス地方での今後の協定についての会議を行っている。
午前中は、東側のウラル帝国に対抗するように軍事に関する安全保障のことなどの会話。
そして、ウラル帝国と接する国が攻撃を受けた場合、全員で武器や冒険者の提供をする「相互安全保障条約」ことが決まって、昼食の時間となった時のこと。
「それでは、食事にしましょう。案内しますよ」
ピンク色のふわりとウェーブがかかったセミロングの髪。モデルにも負けないくらいのスタイル。
濃いピンク色を主体とした、胸元と太ももを露出したセクシー系のドレス。
そんな服装をしたこの私、ウィンストン=アスキスが案内していく。
会議は重ね順調に終わり、どことなくふわふわした雰囲気。仲の良い国王同士で、歩きながら談笑している人もいるくらいだ。
宮殿の会議室から、一番上にあるおもてなし用の部屋へ移動。すでに食事の準備はできているわね──無意識に鼻をつまんで、すぐにそれをやめてくるりとステップを踏んで後ろを歩いていた各国王たちに案内。
「それでは、食事の時間です」
それぞれの席に誘導。机の上にある料理が視界に入ったものから、表情が曇りだした。
「それでは、我が国の名物料理、マーマイトのトーストとスカイウナギのゼリー、紅茶をお楽しみください」
席の案内が終わり、我が国一の侍女が頭を下げ食事が始まる。しかし、彼女の言葉とは裏腹に各国の国王たちの雰囲気は、重苦しいものになっていた。
皆、苦々しそうな表情で与えられた料理に視線を向けている。
その理由は、私にもわかる。外見もそうだが、まずは見た目だ。
生臭く、不快に鼻を刺激してくるようなつ~~んとしたにおい。これだけで、食欲が8割増しに失せていくのがわかる。それでも、外交の場という以上何もしないわけにはいかない。
こんなところでボイコットなどしたら、下手をしたら外交問題になるのはわかりきっているからだ。
わかっていてなお、みな嫌悪感をあらわにしているのだが。
「とりあえず、食べてみましょうか」
「まあ、これしか料理がないですし」
そして、周囲の各国の国王達はため息をついたり、けげんな表情をしながら出された料理をゆっくりと食べていく。みんな、うわさで知っているのだ。わが王国の伝統料理がどんなものかを。
ベネルクス地方は、狭い国土に山がちでいくつもの河川がこの地方を分断し、そのせいで統一国家ができたことがなく、小さな王国が乱立している。
そのため王国同士で競うあう文化が根付いており、どこもライバル関係になったり、利益によって手を結んだりしていた歴史があった。
言葉も元々は一つだったため、いろんな国の文化は周囲に伝わりやすいのだ。
料理についても。
正直、私もこいつらの味を知っているから罪悪感を感じている。それでも、何もしないわけないはいかない。
私も、主催者として責任を果たさなきゃ──。まずは私が先頭を切って食べなきゃ──。
大きく息をして、覚悟を決めた。目の前に出されたマーマイトのトーストとスカイうなぎのゼリーに目を細めた。嗅いでみると、マーマイトの濃厚な香りが直に鼻腔を刺激してくる。発酵臭のような、焦げたようなにおい。彼は、まだ食べていないのに既に胃が痛くなりそうだった。
「うえっ……」
催してくる吐き気を気力で抑えた。
皿の上に盛られたうなぎのゼリーの方も、しかしながら相当な威圧感を放っている。
がんばれ私……。
ゆっくりと、パンにマーマイトを塗る。
もちろん、あまりマーマイトを取らないように少なめに。
そして、マーマイトのトーストから食べようと試みた。喉元がつっかえるほど味が悪い。味も、濃くしょっぱいだけで、全く美味しくない。
口の中から、しょっぱい味、生臭いにおい。
「うっ……おえっ」
はきそう。でもここで食べなきゃみんな食べない。気力を振り絞って笑顔を作り、何とか口に入れていく。
次に目を向けたのがうなぎのゼリーだった。見た目はまだまだ良く、舌に乗せる瞬間には、厭な味は感じず、皿にある全てを一口で完食しようかと思ったが、柔らかいゼリーに噛み切れなかった。口の中でぐにゃっと押し潰されていく様に、ただ味わいに耐えているだけだった。
こっちは──さっきほどまずくはないが、さばき方が下手なのだろうか、生臭い。そして、触感が気持ち悪い。
彼は、口の中に残ったマーマイトのトーストとうなぎのゼリーに一瞥を送り、味が全く印象に残らなかったのを嘆いた。彼にとっては、これほど残念な食事体験はなかった。
そして、各国国王も、ゆがんだ表情でマーマイトを食べながら、それぞれ感想を口にしてくる。
「予想通りですな……」
「まあ、ブリタニカの飯が世界一まずいのは、世界中で有名ですから」
「そういうジョークなら、耳が腐るほど聞いてる。誇張したギャグだと思っていたが、本当にまずいとは思わなかった」
フランソワ共和国、バスク王国、キルフ大公国──各国の国王たちがあるものはうなだれながら、あるものは皮肉交じりで談笑しあっている。
各国の国王がブリタニカの料理をどんな形で認識したか、一目瞭然だった。
最悪だ……。
そして、一人の人間が立ち上がるなり声高に叫んだ。
「フン! こんな飯のまずい国と、まともな外交ができるか!」
その言葉に、突っ込む者はいない。シーンとした、なんとも気まずい時間が訪れた。
やがて、不機嫌そうに侍女に話すバスク王国の国王。
「おい、この後の予定は何だ。その後、口直しに何か食べさせてくれるんだろうな」
「この後は、まずは我が国が世界中から集めてきた貴重品が展示してある大皇博物館へのご案内──」
「集めたんじゃんなくて、略奪してきたんだろ。盗品保管庫だろ」
フランソワ共和国の国王。ミッテラン=ウェイガンが厭味ったらしく突っ込んでくる。隣国で、争いあったり手を組んだりしていた、わが王国一番のライバル国家の王様だ。
「そして──戦争中のキルフ大公国へ輸出予定、我が国の最新兵器『パンジャンドラム』の見学会。そこで、フランソワ共和国から来た料理人がタルトとチーズケーキをふるまう予定となっております」
「ここの料理人じゃないならまずくはないだろよかったよかった」
誰かが言ったその言葉に、この場の雰囲気が大きく和む。
よかった、二度とこんなまずい料理を食わなくて済むのだ。
そんな心の声が、聞こえてくるようだ。
そして、要人たちは馬車へと歩を進めていく。
その足取りは……明らかに機嫌が悪そうで重いものだった。
夜、王都一番の高級ホテルに要人たちを送って、私が担当する一日が終わった。
後は、父上である皇帝様に任せよう。
そして、馬車で控室に戻る。夜景を見ながらこれからのことを考えて──ちょっぴりさみし気もちになった。
そんなことを考えながら、王宮に到着。
広い庭を抜けて、建物の中へ。
警備の兵士以外誰もいない、赤いじゅうたんが敷かれていた廊下を歩く。
壁は磨きこまれた木製で、アンティーク調のランプが柔らかい光を投げかけている。
この大皇帝国。ずば抜けた航海技術を生かして世界中に交易網を発達させ、世界にも類を見ないほどの富を築いていた。
その蓄積させた富で、豪華絢爛な宮殿はできたのだ。
疲れで足が重い中階段を一番上まで登って、絨毯を踏んで歩いていくと、両開きの扉。
私の部屋だ──ようやく、くつろげそう。
コンコンとノックして、鍵を開けて中へ。
「おかえりなさいませ、アスキス様」
部屋に戻っていきなり、女の人が一人。
気を付けの姿勢から、行儀よくお辞儀をしてくる。
白と黒を基調とした、メイド服。
整った黒髪、サラサラのロングヘア。メイドのコルルだ。幼いころから私の専属侍女を務めており、私にとって一番の理解者となっている。
「ただいま、疲れちゃった」
☆ ☆ ☆
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