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ほか全員は、別の駅に向かった。

「どうだった?」

あこちゃんが聞いてきた。

「楽しい会だね。」

含み笑いをして俺を見てる。


「そうじゃなくて。」

そうか。やっぱり。

「まあ、なんというか。」

「なんというか何?」

「先生には彼氏が居るのかなと思って。」

「自分で聞きなさい。」

「厳しいんだな、俺には。」

「そう?」と言って笑った。


あこちゃんは、俺をなんだと思っているんだろう。

俺には手助けなんか要らないと思ってるんだろう。

今回は違うんだけどな。

「知ってるの?」

「さあ。」

どこまでも手を貸さないつもりか。

ちょっと小突きたくなったが、

「優しいんだね!」と言って怒ったような顔をしてあこちゃんをにらんだ。

「お手並み拝見。」

まったく。ゲームかなんかのつもりでいるらしい。


俺がこんなに苦しんでいるっていうのに。

まあ今までのツケか。


そんな会話で拉致があかなかったが、それでもその夜は、幸せな気分を損なうこともなく楽しく終えた。


しかし、どう切り出したものか。

次はライブでそのチャンスがあるかか。

あるいはレッスン終わりにおばさんに先を越される前とかか。

なかなか険しいな。

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