9話 魔人として。


 3機の戦闘機と、一体の巨人、計4体の魔人となった化け物に、ジグルゼは全身に緊張を走らせる。


「せっかく人間らしくしてやったのによぉ、そりゃないだろ? あんたらそれでも”人間”かよ」


 そういいながらもジグルゼは機体を後ろへとバッグさせ、ある程度の距離を保ったままに、魔人たちの出方を見る。


「私たちが望む世界の形は君たちのいない世界だ。そこで私たちが生きる必要はない、世界を在るべき姿に戻す。それが私たちの望みだ」


 3機の戦闘機、それから放たれるのは、ミサイルなどではなく見様見真似の魔法。 が、本来まだ足りぬ魔への理解、それゆえに不細工な魔法、それでも高い威力を再現しうるのは、その未来への羨望からなのだろうか。


 しかし、ジグルゼも一度盾を空中に固定化したことで、さらにその先へと魔法を理解を深めていた。


 疑似魔法、モノにしたその力を、ジグルゼはいかんなく発揮する。


「《疑似防壁魔法 空中城壁スカイウォール》」


 作り上げられるは空の盾、ジグルゼは戦闘機から放たれた不細工な魔法をすべて覆いつくす大きさの盾でふさぐ。


 一度盾を空中に固定したことで盾を空中に作り出すという新技を会得したジグルゼの鬼才、それは遺憾なく発揮される。


「弱ってんじゃねぇのかぁ!!

 《疑似砲撃魔法 魔弾マジックバレット》」


 それは、魔力の弾丸、はじめは《ダウナー》が使用した不細工な魔力の塊だったのを模したジグルゼの《亜弾》、それをさらに正確に昇華した《魔弾》は、魔法を受け止めた空中城壁の形を弾丸へと変えることで魔力を最小限に抑えながらも高い攻撃力をもたらす。


 新たなる魔法の制作、それはジグルゼの才能であり才であったが、それすらジグルゼの才能のほんの一部にすぎない、そしてその才能は、一度虚獣と同じ疑似魔法を退官したことで確かにジグルゼの力となった。


 魔法の再現、思い描いた空想を、感覚的に魔法へと変える才、それこそが、ジグルゼの才である。


「まだまだまだぁ!!!」


 放たれる《魔弾》の数々、それと同時にジグルゼの掛け声に呼応するように現れるのは10の魔球だった。


 《空中城壁スカイウォール》を形を変えることで《魔弾マジックバレット》を作り上げる荒業、それにより得た経験値、ジグルゼは新たな防壁を完成させる。


「《疑似防壁魔法 球体防壁オーブ》」


 作り上げられた10個の魔球、防壁の名を冠するそれは、戦闘機から魔法を繰り出し反撃する彼らの魔法を、空を舞う様に相殺していく。

 放たれ続ける不細工な魔法、それを相殺し打ち砕く魔球オーブ、それはもはや、一つの防壁の完成形である。


 鬼才を遺憾なく発揮するジグルゼ、戦いの中で磨かれていくその才は、魔法を放つごとに、より深い理解を手にしていた。

 

 ジグルゼの脳内に次々と思い描かれる新たなる魔法の数々、それと同時に抑えることのできあに高揚感が、ジグルゼの身を支配していた。


 空を舞う10の球体と放たれ続ける魔の弾丸、が、それが効かなくなっていることに、ジグルゼは気づいていなかった。


 そう、忘れていたのだ。その戦闘機は元は何を持っていたのかを。


「青年!! 私たちが何を以て君たちを超えようとしていたか忘れたのかね?」


 それは、雨を避けることをやめた戦闘機、それは明らかに吸収していた。

 放たれ続ける魔の雨を。


「ルナリング……システム……」


 気が付いた時にはもう遅く、放たれ続けた餌を3機の戦闘機は喰らいつくしていた。

 

 与えられた膨大な魔力、それを食らった戦闘機は、その姿を進化させる。

 いや、進化なのかはわからない、ある人がみれば退化かもしれない、それでも、戦闘機に起こったその変化は、ジグルゼの目には進化に映った。


 角ばった機械的だった戦闘機の羽は、丸みを帯びた生物的な羽へと化す。

 翼、そう呼ぶにふさわしい姿へと形を変えたその姿は、いうなれば”魔に魅せられた者”らしかった。


「だ・か・ら!! 人間らしくしとけよ、クソ野郎が」


 目に映ったその変化に、呆れながら言葉を放つジグルゼも、内心は少し焦っていた。


 今、ジグルゼが使っているのは疑似魔法である。それは、ジグルゼの才を一番に発揮する方法であり、それゆえに《オーブ》や《マジックバレット》を可能としていた。

 が、それが効かない、それはジグルゼにとって不利であることを示していた。


 そしてフィールドは、もう一度魔人の物へとなる。


 戦闘機を生み出した魔人も攻撃に加わり、ジグルゼは4体の魔人からの攻撃を避ける防ぐの防戦へと、状況は巻き戻る。


 時間が経つにつれ、魔球もその形を崩れさせ、無理に空を舞うせいか、燃料の魔力も底が見えてくる。


 《イーリアス》は、機体への外損こそないものの、それは無理やりな操作を続けているからであり、内部や燃料的にはぎりぎりと言っても差し支えなかった。


「さあて、どうするか……どうせぎりぎりなら、試してみるか」


 そう呟いた途端、ジグルゼはもう一度魔法を放つ。それは食わせるための餌、が、ここは隔絶した空間ではない、ましてや相手は魔力の消費と吸収を行えるハイブリット、魔人であるが故、それにあるべき上限すらない。が、しかしそれをわかってなお、ジグルゼは餌を与えた。


「疑似砲撃魔法 《魔弾マジックバレット》」


 新しく新造される魔の雨は、狙いどおり戦闘機に吸収される。

 機械的な形を失った魔人を守るように陣形を取り、そのすべてを捕食した。

 ジグルゼの狙い通りに。


 そして、ジクルゼは逃さなかった。喰われるというその感覚を。


 放たれた雨を捕食し終えた魔人たちは、巨人を守る陣を壊さずジグルゼに攻撃を加える。


 避ける、防ぐ、いなす、かわす。どの選択肢も、ジグルゼの頭にはなかった。

 あるのは己の才能への自信その先を求める渇望だった。


「やってやるさ……俺にだってなぁ!!プライドってのがあるんだよ」


その言葉と同時に現れたのは10の球体、先程と同じ守りの球体だった。


「《擬似侵食魔法 侵食球体オーブ》」


作られた10の魔球、もう一度宙を舞うその星々は、魔人から放たれた魔法の数々を捕食する。

 

 喰われ続ける魔法、それは明らかに魔人が魔の雨にしたもとと同様のものだった。

 つまり、この時点でジグルゼは、魔人と同位の技術を作り上げた。


 その光景に、すこし空に止まる戦闘機、両者の間に緊張が走る。


 同様の技術、数で勝る魔人、それを覆すわジグルゼの才能。

 先陣を切ったのは、巨人だった。



 それは、空を飛び跳ねるような動き、仲間であるはずの戦闘機を踏み台に、ジグルゼへと駆け上る巨人に、《イーリアス》は構えをとる。


 握られたのは刀だった。それは、ジグルゼが魔法で作り上げた器。

 先ほど握り締めた刀身のない剣を模倣したものだった。


「お前らもう……人間にはもどれねぇぜ!!」

 

 迫り来る巨人の片腕が、その人と共に引き裂かれる。


「《雷式一番 閃光 

  刀身錬成 侵食エクリプス》」


  ジグルゼの側を舞う星々の一つ、星が形を変えた刀身は、明らかに巨人の身を切り裂いた。


 切り裂かれた腕は空中で魔力に分解され、その等身に捕食される。


「まだまだぁぁぁぁ!!!!」


 その叫びと共に、ジグルゼは空を駆け巡る。


 自らの衛星軌道上にある星々を踏み台に、自らの体を雷のように、走り出すその速度はもはや戦闘機でも追いつけず、巨人は一瞬にして、駆逐される。


「さぁ、次はどいつが死ぬ?

 もう人間としてじゃない、魔人として殺してやる。」


 



 







 


 

 


 


 


 




 


 


 


 

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