第11話【天誅】
〖最強を倒す最強〗
前回まで、ボルトは『scp-076 アベル』との戦闘が始まろうとしていた。そこで出した切り札は、ブラパと同じようなものであり、武装系の禁技の類である。竜魔神を纏い、我が防具として武装する禁技。ボルトはその武装名を『竜魔神武装 空竜の雷』(りゅうまじんぶそう くうりゅうのいかづち)と名付けた。その新たな技をまだ"一度"も使ってないボルトは新の恐ろしさを知らなかった…
「さぁ、お遊びの時間だぜ。アベル」
ボルトは、アベルに向かって片手で煽るように手招きをする。それに答えるかのようにアベルの口は少し微笑し、走り出す。
「貴様、いいのが?死ぬぞ?」
アベルはボルトの周りを俊敏に移動しながら問いかける。その問いには答える必要もなく面倒臭そうに適当にボルトは返す。
「殺したいなら、来いよ。ま、殺せたらな…」
「ッ!舐めるナ"ァ"!!」
そして、怒りに触れたアベルはボルトに突撃し、拳を振るが、とてつもない音と共に片手でボルトはその攻撃を受け止めた。それには驚きの顔をするアベル。
「驚いた…まさか、オレの攻撃を受け止めたなんて…」
「まぁな、少し効いたけどな…」
「そうか、なら貴様には、本気が出せそうだ」
ビリィッ!と肌へと危険信号が流れ、ボルトは即座に離れる。その危険信号は脳へと伝わり、その目に映ったのはアベルが赤黒い片手剣を懐から取り出す。その剣から溢れるように憎悪と復讐心で満たされていた。
「物騒な物持ってんな」
「ここからが本番だ。"壊れんなよ"」
「誰に言ってんだよ!!」
そしてお互いは再び打ち合いとなり、周りの建物が壊れ、崩れていく。
「いつまでも、逃げてもオレは殺せないぞ!」
「知ってる…」
キンッ!ザシュ!!
すると、アベルは剣を振るうと建物が真っ二つに割れ、ボルトの肩にも斬撃が掠り血が噴き出す。完全なる防具こと竜魔神武装はまだ"完全"ではなかったのだ。遂にはボルトの限界高度まで来てしまい竜魔神武装は次第に崩れていく。感覚、意識、察知能力が壊れ、反動によりボルトの竜魔神武装は完全に解けてしまった。
「しまッ…」
バキィ!!
ドドォォォォォォォォォンッ!!!
パラッ…
「ゲホッ…!」
その瞬間、好機を逃さずアベルはボルトの腹部に剣を直撃させ、近くのビルまで吹き飛ばす。瓦礫を退けてボルトは立ち上がろうとしたが体が言うことを聞かないことに気付くと共に目が眩んだ。ふと、ボルト考える、"この世で最も怖いものは死ぬことではなく、何も守れない"ことだと…
アベルはビルの瓦礫へと横たわるボルトを見つめていた。
「…もう終いか。まぁ楽しかったぞ、貴様との戦いでオレは学べた。感謝する」
そう言ってボルトに背を向けて去ろうとした時だった。足に違和感を感じ、アベルは足元を見る。すると、ボルトがアベルの右足を掴んでいた。それには驚きと再び戦いで見つけた好奇心がアベルの心の中で疼く。
「まだ、遊んでくれるのかぁ?」
「…そうだな、まだ…遊び足りねぇ!!」
全身から血を流し、ボロボロでも再び立ち上がったボルトは掴んでいたアベルの足をそのまま自身の体を起こすのと共に持ち上げ、アベルはバランスは崩れる。
そしてそのまま、勢いをつけてアベルを放り投げる。
ズガァァァァァァァァァン!!!
そして、アベルはいくつものビルを貫通して飛んでいった。ボルトはそれを追いかけるようにビルを飛び越し、空中で吹き飛ばされているアベルに一瞬で追い付いた。そこから飛び降り、次のビルへと貫通する前にアベルの正面まで降りた瞬間に拳を強く握り締め、魔力と魂を込める。その技名はふと頭に浮かび、その名を強く言い放った。
「『魂魄』!!」"こんぱく"
バヂヂ…!!
鈍い音が響き渡り、放たれた一撃はアベルの顔面にヒットする。そして、反対側のビルに再び貫通して飛んでいき、ビルは衝撃に耐えられず倒壊していった。
カンカンッ…っと足音を立てて倒壊したビルの上を歩き、さっきの立場とは逆転してボルトは瓦礫に寝そべるアベルをポケットに手を入れて見ていた。すると、少しずつ口を開けてアベルは、上の空のまま喋りだした。
「ゲホッ…強いな。せめて、またあんな狭い檻に入る前に貴様の名でも聞いておきたい」
「俺はボルトだ」
「ボルトか…強そうな名だな…」
ボルトは、少し頭にもやもやと何かが引っ掛かっていた。このままscp財団に引き渡すのが少し気が引けたのだ。しばらくして良いことを思い付いたボルトは口についた血を手で拭き取り、反対の手でアベルへと差し出した。
「何のつもりだ?」
「あぁ、このままお前を財団に引き渡すのが嫌なんだ。だから、俺達の所に来いよ」
するとその言葉には驚いた顔と同時に高笑いをしながら涙を拭った。
「ハハハッ!面白い、貴様も含めて全員殺せるしな」
「そうか?俺と殺し合いをする分だったら、俺の仲間に手を出さないって約束すればお前を殺したって報告して、庇ってやってもいいんだけど、どうしよかなぁ~」
「…はぁ」
アベルは深いため息をついて、その口を再び動かした。
「良いだろう。貴様を殺すのが楽しみじゃ」
そして、アベルはボルトの手を掴むと瞬きした時にはボルトの心境へと足を踏み入れていた。
「…此処は何処だ…」
「何だお前。見たことない類だな」
キィィィィィィン!っと耳鳴りがしたのと共にアベルは今まで感じたことのない恐怖を覚えた。振り向けば、石で造られた王座に破壊神が退屈そうな顔で冷たい視線を送っていた。すると、フッとボルトが現れて、破壊神に事情を説明しようとした。
「実はな、アベルを…」
「よいよい、そんな減らず口は聞き飽きた。心配するな。俺はコイツを殺したりなどせぬ。それより、いい加減に此処から出してくれ。退屈だ」
ピリッとボルトの皮膚に血管が浮き出て、少し前に暴走してブラパ達に危険な目に遭わしたことを思い出す。
「無理だな。お前を外に出す理由なんて無い」
「そう怒るまでもないだろう。まぁ暇ならお前の視覚を共有して見るだけだがな…」
そして、ボルトとアベルは心境から出て、元の場所に戻ってくる。アベルの鼓動は早く、あそこでは呼吸すら困難だった。破壊神への恐怖が頭に残り、ボルトと共に歩き出したのだった。
(アイツ"破壊神"は絶対、オレが殺す!!)
ー忠犬ハチ公像付近ー
息を潜め、まるしぃは『隠』と書かれた札を自身に張っていた。その近くでは『scp-1048 ビルダーベア』が彷徨いていた。ビルダーベアのオブジェクトはケテルクラス、そして最もビルダーベアの恐ろし力は、"レプリカ"が作成出来ると言うこと。そして、そのレプリカには『A』『B』『C』が存在する。人間の耳で形成された『A』。腹部から子供の手が飛び出ている『B』。スクラップで体が構成されてい『C』。そのどれもが狂暴な性格である。そんな奴らにあってしまったまるしぃは正に終わりだった。
(お願い…どうかバレませんように…)
一応『隠』の札は、姿を消すことが可能だが一定時間だけ。もし、それが解けてしまったら…
「あっ…」
そして、札が解けてしまい目の前のビルダーベアのAと目が遭ってしまった。その瞬間にAが甲高い金切り声を張り上げる。
(耳が…痛い…やだ、まだ死にたく…な)
すると、空に4つの影が現れると共に目の前にいたビルダーベアAが粉々にされた。
(えっ…誰?けいちゃん…じゃない…)
「お姉ちゃん大丈夫!?」
「何よ、コイツら気持ち悪い…」
「僕は、あの機械で出来たテディベアを相手にするから、アミちゃん!姉ちゃん治せそう?」
「やってみる。じっとしててお姉様」
キュィィィィィン!
一人の青髪の少女がまるしぃに手をかざす。すると、まるしぃの体は回復されていき、耳から流血していたがそれも治まり、回復されていった。
「君達、家に居てって言ったじゃん。どうして…」
「心配だったの」
「え?」
「貴方の帰りが遅いから、心配だったの」
(え、嬉しい!)
まるしぃの目に涙が浮かぶが、この娘達を戦わせるにはいかないと感じ、立ち上がり、『爆』の札を全方位に集まったテディベア達に向かって投げる。そして、札は爆裂し、テディベア達はバラバラに爆ぜた。しかし、一体が後ろから現れたのに気が付かず、一瞬の判断を過ってしまい、札を取り出せなかった。機械で出来たテディベアの鋭い鉤爪がまるしぃに触れる瞬間に赤髪の娘がまるしぃを庇い、鉤爪が直撃する。
「痛い!!」
そして、赤髪の娘を薙ぎ払ってまるしぃの懐まで近付く。赤髪の娘が倒れる姿が目に映り、怒りと苦しみに怯え、まるしぃの拳は青いオーラに包まれる。テディベアは再び鉤爪をまるしぃに向けて突撃してくるが、その10倍の速さでまるしぃは拳を構え、振るった。
「年齢限らずレディーに手上げたらだめでしょーが!」
(『魂魄』!!)
そして、青いオーラが機械で出来たテディベアの胴体を貫いた。そしてテディベアは事切れた。
ズキッ!
「うっ!」
拳に痛みが伝わり、手が痙攣してしまう。
そんなのも気にせず、赤髪の娘に歩み寄り話しかける。
「大丈夫!?返事して!!」
「大丈夫!生きてるよ」
赤髪の娘がそう答え、まるしぃは安堵のため息をついたのだった。
〖その拳に込められた強い思い〗
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