裂空鎧装シロガネ
横島孝太郎
01 エピローグ:遊馬日奈子の自由研究
シロガネ・カンパニー。
銀河全体に流通網を敷く巨大企業シロガネ・ユニオン、その最初期の名前だ。
同社の名前のもとになったのは、かの有名な真鎧装のシロガネ。起業当時はそれと母船兼サポートマシンのボルテイザーを駆り、便利屋紛いの仕事をしていたのだという。それもたったの二人で。
不思議な話だ。どうしてそんな人達が、先銀河文明の『空』を破壊するなんて事が出来たのか。記録は色々残っているけれど、地球人の私が納得出来る形式というか、内容のものがあんまり無いのだ。
「これくらい知ってて当然でしょ?」みたいな描写があまりに多すぎるというか。
例えば前述の真鎧装がそうだ。機種によって大きさとか能力とか違いはあるけれど、基本的にこれは先銀河文明で作られた十メートルサイズの人型兵器で、現在でも再現不可能な機構が多々あるという、いわゆるオーパーツだ。
これを既存技術で可能な限り解析、再現したのが現在銀河中で流通している鎧装、という事になるらしい。
けど、大抵の資料でそうした説明はまず見かけない。鎧装という巨大ロボット自体は『空』が崩壊する数百年前から流通していたそうなので、地球外の人達からすれば知ってて当たり前であるらしい。
前に一度友達に聞いた事があるけど、それはケーキのレシピ内で冷蔵庫の構造について論じるようなものだね、との事。私としてはそんなレシピもちょっと見てみたい気もするけど。
そうそう、何より問題なのがその『空』だ。
地球人の文明が公式に二重環惑星連合に接触して条約を結んだ時、『空』はもう無害な残骸しか残っていなかった。前述の通りシロガネ・カンパニーが完全粉砕したからだ。
では、その『空』とは何か。
それは先銀河文明が残した、最も巨大で危険な遺産。かつてこの銀河系を三つに分割していた、超巨大エネルギーフィールドの通称だ。
遮断自体は完全なものではなかったらしく、往来できる数か所の穴があったらしい。その近辺の利権を巡り、争いが絶えなかったらしい事も記録にある。
シロガネ・カンパニーは、それを終わらせた。前述の通り『空』を破壊する事によって。そこに秘められていた先銀河文明の企み諸共に。
そうした一部始終を称える記録は、それこそ星の数ほど存在している。その戦いに地球人が関わっていたのだ、同じ出身星の者として誇りに思いなさい。歴史のシャミドン先生は良くそう言ったものだ。
ましてや、アナタは同じ「遊馬」の血を引く地球人なのだから――。
「……はあ」
ため息が出る。そんな事言われても困るんだよねえ。私は先生と違ってメイジュ星人じゃないから、どうにもピンとこない。
そりゃあ褒められる事自体は悪い気しないよ。そんな人なかなかいないと思う。
けど名前しか知らない、遠ーい親戚の業績だけでちやほやされるのは、思った以上に座りが良くない。何より私自身が全然納得出来てない。
なので、良い機会だから今年の自由研究は徹底的にそれを調べる事にしたのだ。
とは言え、まずはどこから手をつけるか。やっぱり最初の仕事の依頼からだろうか。
「ディルバル・シノート大王だったっけ。カティクタ星の。いきなり大物だなあ」
そもそもまともに取り合ってもらえるのだろうか。何せこちらはただの地球人の高校生なのだ。
「まあ、ダメで元々かな」
果たして「遊馬鉄郎」の血縁とやらはどこまで通じるのだろうか。
小さじ一杯分くらいの期待を込めて、私はカティクタ星の外星省へメールを送信した。
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