第30話 相談


 初めての儀式で倒れるような失態を晒してしまい、順序通りに式を終えられなかったことに落ち込んでいると、ルーク様が慰めるように説明してくれた。


「初めて大霊石と自身を共鳴させると大抵はこうなるんだ。私も十歳の時に初めて経験したが次の日まで寝込んでしまった」

「十歳ですか!?」


 あの体験をそんな幼い体で行っていたことに驚いた。この国は法で十五歳未満が精霊の力を扱うことを禁じているのだけれど、王子となるとさすがに違うらしい。


「ああ。弟のロイも、ディノやエイデンのような守護司の家も皆同じようにその頃から経験している。前に教室で霊石を使った測定をしただろう? 彼らの力が強く現れるのもそれが一つの理由だ」


 ルーク様の話は自分で体感してなんとなくわかるような気がした。

 大霊石の前に跪いて手をかざした時、自分の精霊力がゆるやかに体中を巡り力がみなぎるのを感じた。それは次第に大霊石へと流れ、自分と大霊石の間を見えない力が循環しているような感覚があった。

 初めは荒く雑な流れのようなものが、次第に練り上げられて淀みが無くなっていくような。

 例えるなら何だろう。ぼそぼそでダマのあるカスタードクリームが、練り込むうちに上質で艶やかになっていく感じ?

 

 自分自身が滑らかクリームになってしまったような不思議な心地よさを感じているうちに、いつの間にか終了を知らせる音が聞こえたというわけだ。


「ということは今頃はマリーもこんな風になってしまっているかもしれませんね」

 

 事前に疲労のことは説明されていたけれど、まさか介抱されるほどとは考えていなかった。


「健康上の影響はないし、あっちはエイデンがいるから心配はいらないだろう。あいつはずっと今日を楽しみにしていたしな」


 教室でご機嫌だったエイデンを思い出して苦笑いした。そういえばマリーに風の精霊殿を最初に選んでもらうよう一生懸命アピールしてたなぁ。


 なんて事を思い返していたら大事なことを思い出した。

 そうだ、今日はルーク様にジュリアの事を相談しようとしていたんだった。

 どう切り出そうか。少しの間思案していると、ルーク様がそんな私の様子に気付いたらしく問いかけられた。


「どうした? 何か言いたいことを躊躇っているようだが」

「えっと、その……」


 私は教室でのジュリアの孤立を心配をしているという事から話し始めた。学園がジュリアを招いている立場でいながら今の扱いでいること、クラスで浮いた存在になってしまっていることを変えたいと伝える。


「今の教室の雰囲気がとても残念なんです。一年生の時みたい和気あいあいと出来たらいいのにと思うけれど、皆が戸惑う気持ちもわかるから難しくて」


 ルーク様は黙って聞いてくれている。私は意を決して言葉にした。


「ルーク様がジュリアの友人になってくださったら、学園や皆の意識も少しは変わるんじゃないかと考えていたんです。ルーク様、どうかご協力していただけないでしょうか……?」

「そういえば、そんなことをカトルにも言われたな」


 ルーク様は特に不快になった様子もなく、思い出したようにそう語る。そのまま指を顎にあてて少しの間考えている様子だったけれど、私がじっと見つめているのに気付いてその態度を解いた。


「わかった、私も考えておく。ライラがジュリア嬢を気にかけていたことは知っていたんだ。……ただ私にも思う所があって、あまり立ち入る気にならなかった。君に負担をかけてしまって申し訳ない」

「そんな、ルーク様が謝られることではありません。私が勝手にしていたことですし、我儘を言っているのはこちらです」


 慌ててそういうと、ルーク様はどこか困ったような力が抜けたような笑顔を見せる。


「そういえば先日カトルと会ったんだろう? 意地悪な事は言われなかったか?」

「大丈夫です、彼はとても紳士的でした」


 カトルの性格は把握しているので問題ありません!とはさすがに言えないので、とりあえず無難に答えておく。初対面だし、彼もまだ猫を被っている段階だったしね。



 その日は結局、私のふらつきが収まるまでルーク様が隣にいてくださった。学園の職員には事情を説明して帰したとのことで、帰りは王宮の馬車にて送られることになった。




 翌日、登校してマリーと精霊殿の話をしようとしたものの、欠席との知らせが入る。

 私よりも酷い状態だったのかと心配して、エイデンに様子を尋ねると特に心配はないという。


「かなり体力を消耗していたけど、健康に影響はないから大丈夫だよ。一日休めば回復すると思う。ていうか、むしろライラがピンピンしていて驚いてるんだけど。さすがライラだね」


 エイデンに言われるとどうも素直に受け取れない自分がいる。彼に向けて微妙な顔をしたところで、ルーク様が顔をのぞかせた。


「エイデン、今日は昼食をテラスで取らないか。ライラも一緒なんだが」

「……オッケー、いいよ。ディノはどうする?」


 理由を聞かないところを見ると、目的をすぐに理解したようだ。エイデンは隣にいるディノにも声を掛ける。


「テラスに大所帯でいるのもなぁ。俺はパス」


 ディノはあっさりと断り、メンバーは三人で行くことになった。


 そのことをジュリアに伝えたら、王子様にお昼を付き合わせてしまうなんて、と驚いて目を丸くした。


 うん、これで良かったんだと思う。



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