第2話 1月24日17時06分 車内探検

 定刻の17時6分より少し遅れて、トワイライトは二つ目の停車駅の苫小牧駅を発車した。そろそろ車内探検の頃合いだ。僕はデジカメを手に部屋のドアを開けた。また彼女も部屋から出てこないかなと思ったが、そうそううまくタイミングが重なることはない。今は探検に集中、集中だ。


 いったん列車の一番後ろの9号車の、それも最後尾のデッキまで行く。車内探検の開始地点だ。そして列車の前方に向かおうと客室との境のドアを引いたら、向こうからドアを押す人がいた。


 危うくぶつかりそうになり一歩後ろに体を引いたら、ドアから彼女が出てきた。さっきと同じように、手にデジカメを持っている。 


 お互い一瞬固まったが、僕は思い切って声をかけた。


「あの、もしかしたら車内探検ですか。僕もそうなんです」

「ええ、そうよ」

「もし、もしよかったら、一緒に探検しませんか。車内を前に歩いて行くだけだから、どうしても一緒になっちゃいますが」

「はい、いいですよ」


 彼女はクスッと笑ってそう答えてくれた。僕がガチガチだったのがおかしかったのかもしれない。


 9号車は、開放寝台だ。ただ、普通の寝台と違って、廊下と寝台をガラス扉で区切れるコンパートメントタイプだ。彼女は、もちろん僕も、ガラス扉の写真を撮った。撮影ポイントは一緒らしい。車端部には、「オハネフ25 502」という車番表示がある。 鉄道ファン以外には謎の文字列だが、彼女はこういうのわかるのかな。


「あ、第二編成ね」

 おや、彼女はなかなかのようだ。


 8号車は9号車と同じく開放寝台。これから乗ってくるのか、空いている部屋もあるので写真を撮らせてもらう。廊下側の窓の下に折りたたまれているイスを引き出す。これも外せない撮影ポイント。


 7号車はツイン。ここもドアが開いている部屋があったので、覗き込ませてもらう。僕たちの部屋のシングルツインと異なり、線路と直角方向にベッドとソファーが配置されており、部屋も広い。


「へえー、B寝台なのに、北斗星のツインデラックスより広いかも」

 彼女がそんな声をあげる。

「北斗星に乗ったことがあるんですか」

「お父さんが札幌に単身赴任しているから、一度だけお母さんとツインデラックスに乗ったの」

「それはうらやましい!」


 しかし彼女はいろいろ詳しいな。北斗星、僕はまだ乗ったことがないけど、この夏まで臨時で走るから、絶対に乗るつもりだ。


 7号車の端には小さなサロンがあり、二人がけのソファーがふたつ、直角に並んでいる。飲み物の自販機とマガジンラックがあり、「旅の手帖」という文字が見える。

 

 こうして一緒に回っていても、お互い写真を撮るのに夢中で、あまり会話ははずまない。ただ、二人とも車番や号車番号、洗面台の造りなど、普通の旅行者にはどうでもよさそうなところは必ず撮るので、僕は勝手ながら、彼女に親近感を感じて始めていた。


 6号車はツインと、僕たちの部屋のシングルツインがある。5号車も同じ。この2両はたくさんドアが並んでいるという印象。


 4号車が、さっき札幌駅で乗り込んだサロンカー。シャワールームや飲み物、おつまみの自販機がある。トワイライトのグッズを売っているワゴンも止っている。あとで買わなくちゃ。


 多くのお客さんが談笑している間を抜け、サロンカーの端まで来た僕と彼女は顔を見合わせた。この隣の3号車は食堂車で、その先にはロイヤルやスイートが並ぶ2号車、1号車がある。


「食堂車を通り抜けるのは難しいかな」

 僕が言うと彼女もうなずいた。サロンカーには液晶テレビが備え付けられており、車内の案内ビデオを流している。ロイヤルやスイートの様子はひとまずこれで我慢しよう。

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