第1話 生まれ変わり

 先に結論から述べよう。俺は異世界に転生し、貴族の家庭に生まれた。まさか自分でも転生するとは思いもしなかった。交通事故で命を落としたものの、もう一度人生を歩むことができるなんて……本当に神様ありがとう。しかし、俺が転生した異世界は前世の世界の常識が全く通用しない場所だった。


 大事なことだから二回言う。俺が転生した異世界は前世の世界の常識が全く通用しない場所なのだ。とりあえず、大きく違う点が2つある。


 1つ目は……能力というパラメータが存在している。現実では人間の能力を測る数値なんて偏差値やテスト、成績といったものでしかなかった。それに対して、異世界は自分の血液から能力を可視化することができるのだ。そのことによるせいか、この異世界では能力主義が当たり前である。


 能力が可視されることによって、本当にこの人間が使える人物なのか……自分に嘘を吐いていないのかといった心配をする必要がない。


 つまり、優秀な人材は丁重に扱われ、そうでない人材は雑に扱われるのである。俺の生きていた日本と比べたら……少し残酷な世界だと思ってしまう。


 だが、能力は偏差値や成績と同様に自分の努力次第で上げることができる。もちろん、人間によって能力の上限は決まっている。それは個性や才能といったものなので仕方がない。しかし、誰よりも努力をすれば平凡でもエリートを超える可能性があるのだ。


 でも、能力だけでは複数同じ数値の人間が存在した場合に優劣を判断することができなくなってしまう。そうなれば、他の部分で優劣をつけるしか方法はないのだ。そのためにスキルというものがある。これが大きく違う点の2つ目である。


 スキルというのは、いわば特殊能力のようなものだ。基本的にスキルは1人につき1つ。そんなスキルを2つ持っている人間もいれば、1つも持っていない人間が極稀に存在している。スキルは大きく3つに分類することができる。


 自分の能力をスキルによって強化する強化スキル。火傷や毒、痛覚といった耐性を付ける補助スキル。武器や職業などに特化している専門スキル。


 これらのスキルはどれも魅力的なものである。例え、能力が低くてもスキルの内容によっては国から重宝される可能性もあるのだ。


 そして、ついに俺の能力とスキルが判明する時が訪れた。今日という日ををどれほど待っていたことか。


 現在、俺は生後半年の赤子。俺は綺麗な母親の両腕に抱かれ、国が直接管理している施設に連れてこられていた。半年も経てば、この国で話されている言語はほとんど理解できるようになった。まだ言葉を流暢に話すことは生物的に無理なのだが、あと数年もすれば問題なく普通に話すことができると思う。


 「失礼します。早速ですが、この子のスキルと能力の確認をお願いします」

 「分かりました。では、お名前を教えてもらってもよろしいですか?」

 「アフィです」

 「アフィくんですね。ありがとうございます。では、こちらでお子様を少しのお時間預からせてもらいますね」

 「はい」


 俺は母親の腕から離れ、受付のお嬢さんに手渡される。それにしても、この外出用の服が重たいし何より暑苦しい。貴族の家庭に生まれたせいか、外出する際は赤子でも高貴で気品のある派手な服を着せられている。


 この首元にあるピンクの羽はいるんだろうか……それに至る所にキラキラと輝く宝石に何の意味があるのだろうか……と疑問を感じる。全く富裕層の考えていることは理解ができない。


 周囲の視線が自分に集まっているのを感じながら、俺は受付嬢のお姉さんの腕に抱かれ”判別室”と異世界の言語で書かれた部屋に入った。


 何も家具や物が置かれていない空き部屋。この部屋でどうやって能力やスキルを確認することができるのか、全くもって予想がつかない。


 「少し痛いですけど我慢してくださいね」

 

 そう言うと、お姉さんはポケットから注射器を取り出した。


 そして、お姉さんは注射針を俺の右の二の腕にゆっくりと刺してきた。チクリ、とした痛みが走る。

 

 「泣くのを我慢して偉いですね」とお姉さんに言われる。そんなの当然である。こんな痛みは何度も予防接種で味わってきたのだ。そこらの子供と同じ扱いをされても反応に困る。


 お姉さんが刺した針から自分の血液が採血されていく。数秒後、お姉さんは満足そうな顔をして自分の右腕から針を抜き、その抜いた穴を反対の手でなぞり魔法で塞いで止血した。


 お姉さんは、俺から採取した血液を何も文字が書かれていない真っ白な紙に数滴ほど垂らした。すると、それに反応するように文字が浮かび上がってきた。


 「これで終わりです。では、お母さんが待つ場所へ戻りましょうね」


 俺は母親が待つ受付に戻ると、自分の姿が目に入った母親は急ぎ足でこちらに向かってきた。


 「アフィはどうでしたか!?」

 「一度も泣かなくて偉かったですよ」

 「そうでなくて、能力とスキルはどうでしたか!?」

 「分かりました。これがアフィくんの能力とスキルが書かれてあるものです」


 お姉さんは血液から作り出した特殊な紙を母親に渡した。その瞬間、母親は手に持っていた紙を地面に落とした。落ちた紙のことは見ず、視線は自分の方に向いている。


 も、もしかして……とんでもない能力とスキルを俺は手に入れてしまったのか。まだ自分も紙を確認していないので早く見せてほしい。


 「これは本当なのですか?」

 「はい、そうですけど……」

 「そうですか………」

 

 受付のお姉さんも母親が何の反応も見せないので、対応に困っている様子を見せている。どこか母親の表情は怒りと呆れた気持ちで満ちているような気がした。あの表情を俺は見たことがある。前世の父親が俺にゲームを捨てるように言った表情にとても似ていた。


 「では、その子は必要ないのでここに置いて帰ることにします」


 ちょっと待って。自分の子供が必要ないってどういう意味なんだ。


 「え、えっとそれはどういう意味でしょうか?」


 俺の気持ちを代弁するように、お姉さんは母親に尋ねた。


 「能力が低くスキルを持っていない子は貴族の恥なのです。つまり、これ以上私たち貴族の傍に置いておくわけにはいかないのです」

 「そ、そんな子供の気持ちを少しは考えてください」

 

 しかし、お姉さんの言葉は母親に届くことはなかった。母親は一度も俺のことを見向きもせず、その場から去っていった。


 俺は貴族に生まれたことを甘く考えすぎていたのかもしれない。これから俺は大事に育てられるんだ、と心のどこかで安心している部分があった。だが、貴族は平民とは価値観から生き方まで何もかもが違う。


 貴族の恥……その言葉にどういった意味が込められているのかは分からないが、おそらく貴族としての地位を失うくらいならば子供を捨てるくらい必要最低限の行動なのだろう。母親に捨てられたというのに、俺は涙が一滴も流れることはなかった。


 

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最弱能力の人間、最強スキルにより無双します 大木功矢 @Xx_sora_xX

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