第7話 言えないよ

 大学まで一時間半。アパートからは電車とバスで一時間半。さほど変わらんけど、隣にドSがいる一時間半はちょっとした苦行。


 そして今もなんの罰ゲームか。


 ダチのカケルと太郎が俺がスーパーカーで現れたとラインで回ってきたとかで興味深々に話を聞こうとまとわりついてる。



 さて。


 生き別れ(みたいな)姉が失踪してる

 バカみたいな大きい屋敷に連れ込まれた

 なんか猫又とお稲荷さんと大蛇がいた

 動く日本人形がご飯作ってくれた

 えっちな夢を詰め込んだような秘書が高級車で送迎してくれた


 以上のことを真顔で話したら、誰が信じてくれようか。


「お前、今更、厨二とかか?」

「え、なにそれ、(薬)やっちゃってんの?」


 とか言われるやつだよ。


「えーと、親戚のお姉さんが・・・オクッテクレタンダヨ」

 親戚じゃないけど姉さんの秘書だからまぁ良いよね。


「えー、お前の親戚マジ金持ちじゃん」

「スーパーカー乗ってみてぇ」


 あ、バカでよかった。

 俺のお仲間だし、こんな感じさ。


「今日も来れないかと思ってたら車乗せてくれてさー」

 しばらく休まされるかと思ったけどなんか送ってくれてラッキーだ。

 目立ったけど。


 でも車で一時間半って結構な距離かな。原付だとどれくらいだろう。


 あんまり遠いなら、オンラインに切り替えるか。

 夢のキャンパスライフとか言って、大学受かる前は、飲みとかサークルがんばろーとか夢見た時期もあったけど、母に先立たれたら全部贅沢に感じるようになっちゃったな。


 まぁそれなりに遊ばせてはもらってるけど。


 姉さんがいつ戻ってくるかにもよるし、しばらくはこんな感じかなぁ。


 正直言って原付で一時間二時間と運転したいほどバイク好きじゃないんだな。

 配達のバイトでもするかとか取ってみたけど。

 毎日長距離乗るならせめて中型欲しい。


 車も買ってやるとか言いそうだけど、そこまでなぁ。

 あの高級車を借りる勇気はないぞ。

 ちょっと削っても何十万単位なんだろ。死ねる。


「なぁ~、親戚のお姉さんって美人~?」

「ラインだと結構カッケェ女って流れてきたけど!」

 紹介してくれたとか言う二人。マジで?

 あのドSとお付き合いしたいとか?


 実物見たらタマヒュンしちゃうぞ。


「つーか、お前よー、昨日アパートいなかったよな?」

「お見舞い行ったんだぞー」

「え」

「熱出して寝てるんかと思ってたけど、ピンピンで出てくるしー?」


 お見舞いに来てくれると思ってなかった。マジ感激したのに。


「まさか美人としけ込んでたのかー?」

「きゃーん、不潔よぉ(裏声)」


 がっかりだよ。


「んなわけあるか。ちょっと親戚のゴタゴタだよ。説明しにくいんだ」

 察しろください。


「ゴタゴタからのスーパーカー」

「親戚が金持ち系?」


 猫又とか言ってやばい子認定された方が楽な気がする。


「こーらー!人んちの事情を根掘り葉掘りしないのー」

 講堂の後ろで戯れてた俺たちの背後のショートの可愛い子が混ざってきた。


「ゆきるん~イッテェ」

「おっすおっす」

 パァンと背中を叩かれたカケルは大袈裟に痛がって、太郎は軽すぎる挨拶。


「やっほ、しゅんちー、カケルン阿呆でごめんねぇ」


 ゆきるんはカケルの中学からの友達で、テニスサークルにいる元気っ子。カケルも入れって誘ってるけどカケルはモテるのはバンドとか言って、ヘビメタをやってる。

 多分ヘビメタは限定的なモテだぞ。

 太郎は天文だって。

 俺はどっちも無理って断って、今のとこ入ってない。

 これと言った趣味がないんだよ。


「しゅんちー、朝すっごいネタになってたね。車でくる子たちの数倍高い車だって」

 まぁあんなの普通のご家庭じゃなかなかないだろうし、免許取り立てに乗らせる車じゃねぇな。

 それでも結構良い車並んでるけどな。


「俺は無免許だから詳しくないんだよ」

「ふーん?でも乗り心地はよかったっしょ?」

「そりゃぁね」


 他の車をあんま知らんけど、素晴らしいのはわかるよ。


「しゅんちーの車だったら今頃彼女に立候補な子たちがここに並んでたよー」

 それ俺じゃなくて車がモテてるやつ。


「俺は原付の男さ・・・」

「俺も~」

 太郎と一緒に黄昏るわ。


「仮に免許持ってても車でデートはキッツイな」

「なんでー」

「好きな子が横に乗ってたら集中できなくて危ないじゃん」

「なにそれかわい~」


 カケルとゆきるんに爆笑された。

 どーせ彼女いない歴年の数だよ。


 途中で食堂でランチ食って、もう一コマ受けた。


 カケルはランチのあとゆきるんと帰った。

 あれで付き合ってないとかどうなってんの。


 太郎はサークルに顔を出すとかで、俺は大学を出た。


 帰りも迎えに来られたら絶対うるさいから、連絡入れて、隣の駅近くに来てもらった。


「つまらない小細工ですね。きっとすぐバレますよ」

 迎えに来てそうそう、ツーンと一言言われた。

 そんなん言われても、本当ならいつも通りの日々だった俺の日常をぶっ壊したのあんたじゃん。


 明日からは電車が良い。

 ルートを確認したら、あの家から最寄駅が遠すぎた。僻地やん!!!


「あの広大な土地が駅周辺の一等地なわけないでしょう」

 

 くっそ!


「快適な通学を望むなら免許を取りなさい。一発で受けたいなら私有地で練習しても良いですよ」

 

 マジかー。運転練習できるだけの庭かぁ。




 


 

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