しっかり者な幼馴染と同居することになったんだけど、ペットな彼女として俺に甘えてくる。

譲羽唯月

第1話 ペットになった幼馴染?

 工藤誠也くどう/せいやには幼馴染がいる。

 小学生の時に彼女が隣近所に引っ越してきてからの付き合いである。


 昔は一緒に学校に登校したり。

 休日には、家族同士で旅行に行ったりと、遊びを共有したりしたものだ。


 だが、高校生になってからは趣味が大きく変わり。友人関係も変化した事で、殆ど変わることもなくなっていた。

 クラスも高校一年生の頃から違い。

 近くに住んでいても、簡易的に挨拶を交わす程度だった。






「誠也! ちょっと一階に降りて来てくれない?」


 夏休み。

 八月の入った頃の、ある日の事だ。


 誠也が自室のベッドに横になって漫画を読んでいる時、母親から呼び出されたのである。


 丁度、一番いいところなんだけど……。


 そうこうしている内に、再び、母親から大声で再度呼ばれる。


 しょうがないと思いながらも、誠也はベッドの上に漫画を置き、怠そうな態度で自室から出て階段を下っていく事にした。






「お母さん、何? こんな暑い時にさ」


 誠也が一階に到着すると、海外受けしそうな派手な服装に身を包み込んでいた。

 その隣には、父親が気取った感じに佇んでいたのだ。


「でも、言っておかないと思って」

「何を?」


 誠也は面倒くさそうに母親の話を聞く。


「私たちね、友奈ちゃんの両親と少し旅行に行くことになったの」

「え? なんで?」


 怠そうにしていた誠也は目を見開いた。


「だって、あちらの方がカジノに行きたいからって」

「急すぎない? でもなんでカジノ?」

「誘われたからよ。それとね、私たちが旅行に行くと、あなたも友奈ちゃんも一人になるでしょ?」

「そうなるね」

「だから、誠也には友奈ちゃんと一緒に過ごしてほしいの」


 母親の目先の玄関には、誰かの姿がある。

 それは幼馴染の谷内友奈たにうち/ゆうなだった。


 彼女はショートヘアが特徴的で、普段からしっかり者で他人から慕われている女の子だ。


「あちらのお風呂とかエアコンが壊れてしまったらしいの。でも、ちょっと業者が来るまで結構な日数がかかるみたいで。そんな状況で友奈ちゃん一人だけだと可哀想でしょ? だから、これを機に一緒に過ごしてもらおうと思って」

「だからって……」


 誠也は呆れるように呟く。


 夏休みはゆっくりと出来ると思ったのにな。


 幼馴染の事は嫌いではないが、やはり、久しぶりに関わるとなると思春期ゆえに気まずいものだ。






「じゃあ、行ってくるから。三日くらいは帰ってこないと思うから、後の事はよろしくね」


 母親は父親と同様にキャリーケースを所持しており、すでに行く気満々である。

 昨日までまったく、そんな話すらもしてこなかった事に、誠也は驚きだった。


 父親の方は、儲けてくるからと表情だけで伝えてくる。殆ど何も話す事なく、母親と玄関から出て行ったのだ。


「三日もか」

「海外に行くんだから時間がかかるものなの。じゃあ、行ってくるから」


 幼馴染の両親は外の方で待っているらしく、両親らは家を後に航空へと向かって行ったのである。


 誠也は頭を抱え、大きなため息をはき、階段の段差のところに座り込む。


 友奈と一緒か……。

 嫌ではないんだけど。


「えっと。それで、これからどうする?」


 誠也の方から玄関にいる幼馴染に問いかける。


「それはまだ決めてないけど」

「そ、そうか」


 二人の会話がいまいち進まず、途中で終わってしまう。


 久しぶりに会うと、どうしても会話が続かない。


 なんの会話をすればいいんだよ。


 誠也が悩んでいると彼女は玄関で靴を脱ぎ、階段近くまで歩み寄ってくる。


「誠也って、今悩んでいる事ってないの?」

「悩み? どうした急に」

「何となくよ、何となく」

「悩みか」


 悩みと言えば、告白しようか迷っている子が一人だけいた。

 でも、その子とは同じクラスであり、友達のままでもいいような気もする。


 悩みを聞いてくれるのであれば、親しい幼馴染に相談にのってもらった方がいいと、自分の中で結論付けたのだ。


「悩みがあるとすれば、俺、この頃、好きな人がいて」

「え⁉」


 友奈の動揺する声が聞こえ、誠也は顔を上げ、その場に佇んでいる幼馴染へ視線を向けた。


「な、なに?」

「別に、なんでも」


 友奈は額から冷や汗をかいていた。


「そ、そうか。それで、その子にどういう風に話しかけて遊びに誘えばいいのかなって。夏休み前からちょっと悩んでてさ。別に、すぐに誘うとかじゃなくて」


 誠也は細かく、淡々とした口調で話す。

 対する幼馴染の方は次第に暗くなっていき、さらには唇を噛みしめていた。


「ん? どうかした?」

「別に、というか、好きな人いたんだなって思って」

「まあ、そりゃ、高校生にもなってるんだしさ」

「そうかもだけど……」


 友奈の声は小さくなっていく。


「遊びに誘うの、これから」

「様子を見てな。あっちの方からも、暇な時間があったら好きに連絡してもいいからって言われてて。そろそろ、返事を返した方がいいかなって。でも、友奈がいるのに、俺が家から出るわけにもいかないしさ」

「へえー……そう。誠也はその子と遊びたいの? 遊びたいなら、行けば」


 友奈から不機嫌そうな声が漏れていた。

 ぶっきら棒な口調である。


「どうした、さっきから変だぞ」

「私は普通だけど」

「なら、いいんだけど。というか、今日暑いし、エアコンがあるリビングに行こうか」


 今日はいつもより暑く、息苦しさを感じるほどだ。

 今年はエアコンがないと、生活にも支障が出てきてもおかしくないだろう。


「ん? あの子からメールが来てるな」


 誠也は手にしているスマホ画面を見ていた。


「メール⁉」

「ど、どうした、急に大声を出すもんだから俺もビックリするんだけど。やっぱ、熱くて疲れてるんじゃないか?」

「そ、そんなことないし……」


 誠也がスマホを弄っていると、彼女は玄関へ向かい、靴を履いていた。


「どこに行くんだ?」

「一旦、家に帰るから」


 彼女はムスッとした声で返答してくる。


「帰る? え、でも、風呂やエアコンも壊れてるんじゃ?」

「そうだけど。今は忘れ物を取りに戻るだけ」

「ならいいんだけど。だったら、俺も一緒に行こうか」

「いい。だって、歩いて一分くらいのところだし、問題ない」


 友奈は振り返ることなく、不機嫌そうに家から出て行ったのだ。






 誠也はスマホを弄り、リビングのソファに座っている。

 そこでメール画面を見て、なんて返事を返せばいいか、ひたすら悩み込んでいた。


 両親が不在の状況で、幼馴染を一人だけ残すのもよくない。

 せっかく遊びに来ているのに、一人っきりにさせるわけにはいかないのだ。


 数日後には、両親が戻ってくると言っていた。

 実際に遊ぶのは、それからでもいいだろう。


 ごちゃごちゃと考え込みながら、返答の内容を頭で考えながらメール画面に文字を打ち込んでいた。


 バタン――


 ん?


 誰かが家に入ってきた音だ。


 十分前に家を出て行った幼馴染が戻って来たのだと思い、そこまで気にすることなく無言でスマホを弄り続ける。

 がしかし、友奈がリビングに入ってくる事はなかった。


 誠也は一旦手を止め、扉がある方を振り返る。


 何してんだろ。


 スマホを目の前のテーブルに置き、ソファから立ち上がる。


 リビングの扉前に向かう。その扉を開けた時、そこの床に正座をした、派手な格好をする子がいた。


「……友奈⁉」


 よくよく見てみると、それはネコのコスプレをした幼馴染だった。

 ネコの耳に、ネコの尻尾。それからトラネコのような衣服を身につけている。


「どうしたんだ?」

「何がだニャ」

「え? 語尾がおかしいんだけど」

「これは普通だけどニャ」

「もしや、暑くておかしくなったのか?」

「そんなことないニャ。それより、今日から私のご主人様になってほしいニャ」


 あのしっかり者の友奈が意味不明な事を口にしている。


 これは緊急事態だと思った。


「まあ、一旦、エアコンのあるリビングに来いって」


 誠也は幼馴染の頭を冷やすため、強引にもリビングへ連れ込む事にしたのだ。

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