第5話 飲み会

18時。


いつもの会社でいつもの様に出社し、いつもの様に仕事を行い、いつもの様に退社する。


とはいえ、今日は大事なプレゼンがあったり全体会議等、大変な一日であった。


見渡すと仕事仲間達も1人減りそしてまた1人減りと、退社していく者が出てきた。


私は報告しなければいけない。せめて部長には癌の報告をしなければ。


とはいえ報告してどうする?辞表を提出?いや、休職届?私は一体どうしたいんだ?


ああ、そうだ、思い出した!辞表を書くつもりで考えていたんだ!しかし、あの占い師の婆さんに出会ってから考えが纏まらなくなったんだ。


挙げ句の果てには妖精大深林パラダイス?とやらにたどり着いたら癌が直るだのなんだの変な夢も見た。


そんなくだらない出来事が私の辞表の報告を妨げる事になるとはな。


まあ良い、辞表は退職の報告してからでも大丈夫だろう。何やら部長も帰りそうな雰囲気だし、とりあえず声をかけよう。


「あっ、部長!」


「ん?おお!五十嵐君、丁度良い。」


「へ?」


「いや〜、今日の午前の君のプレゼン、紹介する案全てが素晴らしい、いや、社長と同じ考えを持っている。」


「あ、あの‥‥俺は‥‥」


なんだなんだ?いつも怒ってばかりの部長が今日に限って優しい?


「ああ、すまんすまん、何か言いたそうだったなぁ、一体どうした?‥‥いや、待て、五十嵐君、1時間で良い、ちょっと比良通りの噂の居酒屋新店舗が一昨日からオープンだ、これから村西課長と行く所だ、君も来なさい五十嵐係長。」


「は‥‥はぁ‥‥」


何故こうなるんだ。





結局言い出す機会がなかった。いや、部長と課長ならまだしも、他にも3人部下までいるとなると言いにくい。


それに酒までいつもより多く飲んでしまった。


(五十嵐さん、お酒は癌の餌です。進行を早めてしまいますので控える様にして下さい。)


‥‥っと、病院では確かそう言われたな。

でもまぁ、そこまで気にする必要はない。なんせ私は今から寝る。そして夢の中で妖精大森林を目指し癌を直すんだから。


さて、今日は疲れたし眠たい。風呂に入るのは明日の朝にしよう。


直ぐにでも、夢を‥‥見そう‥‥だ‥‥







チュン チュン チュン


ん?


あ〜、朝か‥‥


時間は6時25分‥‥目覚ましが鳴る5分前か‥‥


???


「あれ?


夢‥‥見てない‥‥」


声になってしまったが、私は夢を見ずに朝を迎えた。


もしかして、妖精大森林なんてのは存在しない?全てが単なる夢?たまたまおかしな夢を見ただけだったというのか‥‥

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る