喫茶店にはおもてなしとミステリーを

布施

エピローグ

 喫茶店には多くの人が集まる。しかし、時間によっての浮き沈みはあるもののそれなりにゆとりのある労働なのだ。気に入っている。大都会、新宿に店を構えてるこの木島屋珈琲は老舗の喫茶店でこだわりの珈琲豆と名物の大きな自家焙煎機、有名な洋菓子店と共同開発したケーキや菓子は人気があり期間限定で百貨店に並ぶことやオンラインショップで販売されることがある。この店の凝っているところはこれだけではなくコーヒーカップにも一つ一つ異なるデザインなのだ。もちろん、もちろん一つ一つ特注しているわけでなく譲り受けたものやリサイクルショップ、フリマなどで売られているものをデザインが被らないように店長が購入しているのだ。ただ、このことはバイトとして長くいるバイトか店長くらいしか知らない。店長にはあまりみんなには言わないでほしいと釘を刺されている。「商売はイメージだからね、この方が高級そうでしょう?」と顔のシワをくしゃりと寄せで微笑む店長を見ると少し可愛らしいところがあるなと思う。


 春になりここの従業員も多くが新しい道に進んだ。残ったのは店長と僕、同い年の大学生、鈴木君。フリーターの大滝さん。の4人だけになってしまった。小さい店だが一階と二階に分かれてるためこの人数だけでお店を回すのは難しいようで他店のヘルプに頼ることも最近はよくある。だが嬉しいことに新しいアルバイトが数人加わった。店長が作ったお粗末なポスターが店先に貼ってあるのを見て「大丈夫かな」と思いながら見ていたがどうやら沢山の応募があったらしく。新たに人を雇ったらしい。

さすが、有名店だなと思いながらも不安な気持ちになる。新人の子に仕事を上手く教えることも頼りがいのある先輩でいることも自信がない。春という無尽蔵に活気に溢れてくる時期にしかできない見知らぬ人との交流が盛んになるこの現象、きっと夏や冬にこれをしたならば僕のような砂になって消えてしまう気がしてならない。今日は新人の人と初めて出勤が被るようで唯一の未成年の南君が来るらしい。


木島屋珈琲のオープンは10時なのでその日の早番は9時にはお店に来て開店準備をするのだ。といっても今日は平日のこの時間はそこまで混むことはないのでそれまで僕と店長の二人でゆっくりと準備を進める。開店前の店内に聞きなれた鈴の音がする。入り口のドアにはベルがついていて開けるたびにチリンチリンと高い音が鳴る。パブロフの犬のように条件反射でそちらを見てしまう。これも一種の職業病だ。


「すいません!初めまして!南です!よろしくお願いします!」

若い。生きている月日は数年しか変わらないはずなのにここまで元気なのか。

「おはよう。僕は菊池って言います。よろしくどうぞ」

余裕のある返しができたのではないかと少し安心した。

「はい!菊池先輩よろしくお願いします!」

木島屋珈琲に活気が流れ込んでくる。

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