第12話 明らかに怪しいけどとりあえず触る
フンバルの反応が友好となり説得が終わったので、ヤンスと共に遺跡の外へ送り出した。
お頭とやらが身につけていた物は持ち出させていない。
形見があると思いが残ってしまうからな。
できればツギノがフンバルをなじってくれるとありがたいんだが。
そうすれば優しくする隙ができる。
まあ、あとはヤンスが上手くやるだろう。
さて、当初の目的を終えたわけだが、俺達は遺跡の奥へと進んでいる。本当は斥候としてヤンスがいた方が助かるが、ゴンスはその辺の悪巧みの機微に疎いのでこっちに残した。
純粋な戦闘力はゴンスの方が高いし、索敵は俺が担えば大丈夫だろう。
「ここって管理されてない遺跡だよな?こーいうの最っ高に好きなんだよ俺」
戦力を遊ばせる必要も無いのでアバッキオも連れてきたのだが、こやつウッキウキである。子供が初めて玩具を与えられた時くらい純真な目でウッキウキである。
「アバッキオは冒険好きなのか? ああいや、冒険者なら当たり前か」
先頭をどんどん進むアバッキオは振り返らずに話す。
「ん? あー、確かに俺ァ冒険者登録もしてるし、冒険者として雇用されるわけだが……専門は考古学なんだぜ」
「いや嘘でしょ」
「その凶悪な顔では無理があると思うでごんす」
「ツラは関係ねぇだろ!」
最後振り返ってキメ顔したところ申し訳ないが、全くそうは見えない。
「ええー……じゃあ論文とか書くの? その顔で?」
「やけにツラを推すじゃあねぇか、ぶっ飛ばすぞ」
アバッキオはぷりぷり怒り出してまた歩き出した。可愛くない。
「まあ、確かに論文は書いてねえ。別に名声に興味はねえからな」
「『暴王』の時点で名は知れ渡ってるだろうしなあ……」
「そういうことではねぇんだが……というかお前知らなかったじゃねえか」
「『暴王』自体は知ってたから」
「まあいいけどよ。つまりは……あー……趣味なんだよ」
意外すぎる。出会って間もないが、生き物をゴミのように引きちぎる暴れ方をする様な奴が過去に敬意を払って調べ物するとか想像ができない。
「隠されたものとか、秘密とかあると気になって仕方ねえんだ。だからこの遺跡はワクワクするぜ。今まで潜ったどの遺跡とも空気が違う。なんかあるぜ、ここはよ」
それ自体は同感だ。
遺跡。それは旧時代『天の火』によって焼かれた文明の一端。
魔道具が今より発展し、錬金術師も多く存在した時代。
独立魔法都市『マナケア』は大陸1強の魔法都市であった。
大陸の中央に位置し、人と技術を集め栄華を誇っていたらしい。
そんな屈強な都市は、ある日突然滅んだ。
『天の火』と呼ばれるくらいだ、おそらく隕石だと思われるが、その真実は定かではない。記録がほぼ残っていないのだ。
理由は戦争や大地震やら色々あるのだが、一番は都市の残骸が『大森林』に呑まれてしまったことだろう。
『マナケア』跡は『大森林』という魔物の楽園に変わり、その南に位置するこのジャモン辺境伯領こそが国境線となっている。
まあ、詳細な事情は色々あるのだが、要はこの遺跡が旧マナケアの遺産が眠る場所であっても不思議ではないということだ。
そして、実際俺達の目の前には謎の材質の扉がある。
この最奥まで来る途中は迷路のようになっていたのだが、特に魔物も居なかったことからサクッとクリアした。
苔と蔦に覆われたセンサーのようなものがあったので、本当は部外者を立ち入らせないようなセキュリティがあったのかもしれない。
「これ、扉でごんすよね? こじ開けてみるでごんす」
ゴンスが扉の隙間に槍を差し込んでゴリゴリとする。が、そもそも隙間がほぼ無い。苔や蔦は生い茂っているのに腐食もしていないし崩れてもいない。
……逆にこの苔と蔦どう
扉より先に槍が折れそうなので、ゴンスを止めて扉と周囲を調べることにした。……いや、まあ。調べるもなにも、隣に
ただ、周囲の状況的にも電源が来ているとは思えない。
汚れを払った操作盤はただの黒い板が枠に納まっているだけのものだった。ボタンの類もない。
「見るからにこれが怪しいけどよ……」
既にアバッキオがべたべた触って調べているが、何の反応もない。
「トリノ、爆弾とかもってねえか?」
「持ってる」
「なんで持ってんだよ」
自分から聞いたくせに。
使いどころは難しいけど非力な錬金術師が高い攻撃力を出すには手っ取り早いんだ。
「壊して進む?……考古学的にありなのそれは」
「俺ァあり派だな。状態の保存は大事だが、発掘が優先だ」
「生き埋めとか御免なんだけどなあ……」
ゴンスとアバッキオをどけて、扉を調べる。吹き飛ばすなら扉だけにしておきたい。
ついでに操作盤も確認しておこう。多分一緒に吹き飛ぶだろうし。
と、俺が操作盤に触れた時
『――――――――――――認証開始』
目の前の操作盤が急に青白く光り出した。
なんだ、何が起こった?
アバッキオが触っていた時はなんの反応も無かったのに、急に文字が浮かび上がってきた。
遺跡全体の電力……かは分からないが、エネルギーが復旧した訳では無さそうだ。
ただ、目の前の扉と操作盤は起動している。扉の奥から、僅かにウィィンという駆動音が聞こえる。
向こうで何かが動いている。
『────────────汝、何を望む』
「献身的で意欲的で家庭的で社会的で活動的で印象的で宿命的で運命的で革命的で驚異的で衝撃的で急進的で求心的で救心的で機械的で幻想的で好意的で情熱的で官能的で扇情的で蠱惑的で享楽的で永続的な、メイドが欲しい」
「業の深い性癖してんなお前」
はっ。なんか漏れてた。
『────────────待っていた、同士よ』
謎の機械音声が操作盤から発せられ、目の前の扉が両横に開く。
何年も動いてなかったであろうに、何も詰まりが無いように滑らかな動きだ。
扉の向こうにあったのは……
「行き止まり、でごんすか?」
「いや、これは」
エレベーターだろう。前世でもよく見た形だ。
「昇降機、だろうなァ。他の遺跡でも見た覚えがある」
さっさとアバッキオが乗り込んだ。怪しさ満点の密室によく入る気になるな。
「オイ、さっさと行こうぜ。今の反応を見る限り、トリノが居ねえと反応しないんじゃねえのかこれ」
その可能性は高いかもしれない。ゴンスは首を横に振ってるけど、悪いが俺もこの先に興味がある。
3人とも乗り込むとエレベーターは自動で動き出した。階層指定のボタンもないし、どこかへ直通なのだろう。
遺跡の密室に閉じ込められてると考えると非常に不安になるので、なるべく意識しないよう気を保つ。
数十秒は動いただろうか。若干の浮遊感があったので下に降りたものだとは思うが、無言の時間が過ぎた後、扉が開いた。
その先にあったものは――――――初めて見る、そして見慣れたとも思える部屋。
細かく分けられた戸棚に、フラスコに薬瓶。壁際に設置されたこの時代にそぐわない機械類。机の上には古びた手帳。発光する天井は全体にパネルでも仕込んであるのだろうか。奥には別の扉も見える。
そして、部屋の大部分を占める大釜。
ここは……錬金術師のアトリエだ。
しかし、不思議なことに、ここは時間の流れを感じない。
どういうことかと言うと、この部屋は綺麗すぎるのだ。遺跡の奥底に眠っていた場所の筈なのに、埃臭くない。薬瓶に入っている液体は傷んだ形跡がないし、大釜も手入れが行き届いている。
つまりどういうことか。
仮定としては2つ。
この部屋は何らかの力で時間が止まっている。
もしくは
「ようこそいらっしゃいましたです、くそやろう」
誰かが手入れをしているか、だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます