ヒーローはそこに
マイペース七瀬
第1話
ここは、京急横浜駅である。
今日、シンイチは、京急横浜駅から快特三崎口行きに乗って、堀之内まで出かける。
いつもは、快特青砥行きに乗って、品川まで行き、都心の食品メーカーで仕事をしているのだが。
時は、2024年4月になっている。
世間では、大谷翔平選手と関わりのあった通訳が事件になった。シンイチは、がっかりしていた。
シンイチは、あまり野球はしなくなったが、それでも、学校時代、野球をしていた。そして、もう、40代になっているが、今でも、一人でバッティングセンターへ行く。
前に、読売巨人軍の坂本勇人選手の話を読んで「そうか、坂本勇人も、壁当てをしていたのか」と思った。
実家が、横須賀市の堀之内にある。
シンイチは、帰りたくない気持ちがあった。
そもそも、シンイチは、確かに、読売巨人軍の選手になりたくて、10代の時は、少年野球をしていたのだが、挫折をした。元々、才能はあったのだが、怪我をして、以来、シンイチは、あまり、野球選手になりたいとか思わなかった。
だが、会社の帰りなどは、必ず、スポーツクラブへ行っては、筋トレをし、バッティングセンターへ行っては、ボールを打つ。身体だって、がっちりしているのに、そもそも、もう、40代後半なのに、彼女が、未だにいない。
電車は、横浜駅から上大岡、金沢文庫、追浜、横須賀中央、そして、堀之内へ着いた。
堀之内駅では、渡辺真知子『かもめが翔んだ日』の発着メロディーが、流れている。
今日は、晴れていた。
だが、帰りたくないとか思いながら、堀之内駅の改札を出て、フラフラ歩いていた。
そこにソフトボールの球が、転がってきた。
「すみませーん」
と10代の女子中学生が、叫んでいる。
女子中学生らしき女の子が、2人。
キャッチボールをしている。
二人とも、元気溌剌な顔をして、ショートカットに髪をしている。
コロコロと転がっているボールを
「はーい」
とシンイチは、思い切り投げた。
ビュンと投げた。
バシンと背の大きい女の子のミットに収まった。
背の大きい女子とふっくらした女子は、目が点になっていた。
そして、横には、30歳手前の女性が、こっちに向かってやってきた。
まるで、彼女たちは、ドラマのワンシーンを観ているかのような顔だった。
「すみません」
と30歳手前の女性は、シンイチのところへやって来た。
「何かスポーツをされていたんですか?」
「いや、学校時代、僕は、野球をしていたのですが、怪我で挫折をして」
「ええ」
声に詰まった。
この30歳手前の女性は、言われてみたら、女優の有村架純さんに顔立ちが似ている。
本当のことを言おうか。
どうしようか。
悩んだ。
最近では、会社の女の子にそっぽ向かれているしな、とか思った。
「まるで、ヒーローが来たとか思いましたよ」
「え」
ここまで来たら、本当は、会えないと思った。
いや、今日で、彼女と会うのも、最後だと思った。
「本当は、読売巨人軍の坂本勇人選手や投手の菅野智之選手みたいになりたかったんだ」
と言った。
「え、やっぱり」
「そう?」
「ええ」
「それよりも、あの子たちの相手をしてあげて」
「え?」
「後で、二人で話をしない?」
と言った。
…
暫くして、シンイチは、東京都心の食品メーカーの仕事を辞めて、地元の堀之内へ戻ってきた。
実は、彼女、美咲は、学校の体育の教師だった。ソフトボールをしていた女の子は、彼女の姪っ子と友人だった。
シンイチは、そのまま、堀之内へ戻ってきて、スポーツクラブで仕事をした。そして、休みの日は、少年野球のコーチをしていた。みんなと和気あいあい、時には、厳しく野球の指導をしていたらしい。
それからしばらくして、シンイチとミサキは付き合ったらしい。<完>
ヒーローはそこに マイペース七瀬 @simichi0505
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