空があって星が輝く

月輪林檎

電車登校

 いつも通りの登校。私と美空は並んで座席に座っている。私達の乗る電車は、通勤通学ラッシュとは逆方向に向かうので、比較的空いている。なので、いつも座席に座る事が出来る。

 電車内という事もあって、小さい声で話す事が多い。でも、今日は美空がイヤホンをして音楽を聴いているので話をする事が出来ない。ちょっと寂しい。

 そんな事を思いながら、電車に揺られていると左側に座っている美空が私にぴったりとくっついてきた。

 思わず、心臓がドキッと脈打つ。朝からシャワーを浴びたのか分からないけど、美空からいい匂いがしてくる。それにうっとりとしていると、右耳に無線のイヤホンが挿し込まれる。そこから結構昔に流行ったアニソンが流れてくる。


「懐かしくない? 昨日思い出したんだ」


 確かに昔見ていたから、懐かしい曲ではある。


「本当だ。懐かしいね」

「でしょ? 今聴いてもテンション上がるから凄いよね」


 美空は、結構ウキウキとしながら聴いている。それを見て、私も少し楽しい気分になる。

 でも、急に音楽が消えた。


「あっ、充電忘れてた。仕方ない。有線にしようか」


 そう言って美空は、手早く有線のイヤホンを準備する。そして、私の右耳のイヤホンを入れ替えた。必然的に美空は左耳にイヤホンを付ける事になり、私達の距離はさらに近づく事になる。


「ぎゃ、逆じゃない?」


 正直なところを言えば、美空と近づけるという事は嬉しい。でも、それ以上に私の心臓が保たない気がする。


「え? だって、反対にしたら、星那の声が聞こえにくいじゃん」

「っ!?」


 美空としては、ただそれだけの意味で言っているのだろうけど、それを聞く私は心臓をハートの矢で射貫かれたような衝撃が走る。顔が一気に熱くなる。美空は、スマホの画面を見ているので、それには気付いていない。


「ほら、これとか星那が好きだった曲じゃない?」

「あ、本当だ。懐かしいね」


 なるべく平然を装いながら返事をする。右耳から懐かしい音楽が聞こえ、左耳から美空の心地良い声が聞こえる。懐かしさと心地よさで幸せな気分になっていると、美空がイヤホンを外した。


「星那、ぼーっとしてないで、もう着くよ」

「え?」


 そう言われて外を見ると、ちょうど駅に着いたところだった。美空に夢中になっていて気付かなかった。すぐに座席から立つと、美空が私の手を取った。


「ほら、行くよ」

「うん」


 美空に引っ張られて、電車を出る。そして、そのまま改札を出て、学校へと歩き始めた。美空は、繋いだ手を離そうとはしなかった。美空も私の事を……いや、そんなわけないか。美空は、冷え性気味なので、手足の先端付近が冷えている。逆に、私は体温が高めなので、全体的に温かいらしい。美空にとっては、こうしている方が楽とかそういう理由だと思う。それでも、私は嬉しいと感じる。

 美空の手は冷たいけど、私の身体は熱くなる一方だった。

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