作品6:『アジサイの迷路』 楠木夢路・著

抽選日時:6月30日 夜9時

応募総数:49作品

有効応募数:25作品

※今回は優先枠です。抽選日時点で☆0だった3作品の中から選ばせて頂きました。


アジサイの迷路

楠木夢路

https://kakuyomu.jp/works/16818093079131508729


全6話 完結作品

13445文字

ジャンル:現代ドラマ


 この作品を一言で表すなら、認知症になった祖母と孫娘の物語です。


 物語は、孫娘・芽衣の一人称視点で描かれています。目に入れても痛くないほど可愛がってくれた祖母が、ある日突然人が変わったようになってしまいます。泥棒に入られたのかと思うほど荒れ放題になった部屋の中で、何かを探している様子。片付けを手伝おうとした瞬間、芽衣は祖母に突き飛ばされ、驚愕と恐怖を覚えます。そのトラウマから、祖母の顔を見るのも怖くなってしまいます。

 何故突き飛ばされたのか? それが認知症の影響であると知った芽衣。友達の話を聞いたり、祖母の様子を見るうちに、認知症が何なのか、どうして人が変わったようになってしまったのか、少しずつ理解していきます。祖母の中で時間が止まり、幼い頃の芽衣の記憶しか残っていないのだと。新しい方から記憶を失い、誰が誰なのか認識出来なくなっていたのです。

 その事実を、なかなか飲み込めないでいたある日、事件が起きます。祖母が家からいなくなってしまいます。夜になっても帰宅せず、家族みんな心配します。芽衣は「子供じゃないんだから」と、一人でお風呂に入り、眠ってしまいます。夢の中で、幼い頃の出来事を思い出し、ハッと目覚めた芽衣が向かった先は? 祖母が大事にしていた宝物、探していた物とは……?


 お婆ちゃんっ子でしたので、こういう話は刺さります。自分にも似た経験があります。中学校三年生から高校生の頃、両親が離婚しました。最初母元にいましたが、一度父に引き取られた後、再び母の実家に戻りました。母元を離れていた間は祖母の家に顔を出せず、数年ぶりに顔を見に行った時です。母が「誰だか分かる?」と尋ねると、祖母は自分の名前ではなく「~さん(父の名前)かい?」と。それはもうショックでした。周りにいた親戚が大慌てで「勇ちゃんだよ」と訂正してくれましたが、祖母も認知症だったのか、それとも高校生になった自分が単純に父に似ていたからなのか。この時のショックは、芽衣が優しかった祖母に突き飛ばされた時のものに等しいかも知れません。

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