78. 再会したけれど
「何も見えないわ……」
「山にぶつからないように、慎重に進もう」
ここは雲の中だから、真っ白で何も見えない。
防御魔法に小さい氷の粒がバチバチと音を立てて当たっている様子は分かっても、どこに何があるのかは全く分からなかった。
雲を抜けても、今度は吹雪で周りが見えない。
「晴れるまで待った方が良かったと思うのだけど……」
「ワイバーンの位置だけなら、魔力の気配で分かる。
一旦着地して、集中すると分かりやすいと思う」
「分かったわ」
魔法に長けている人ほど魔力に敏感という話はよく聞くのだけど、私にそんな力は無いから、魔力の気配だけでワイバーンの位置を探り当てるのは難しい気がする。
でも、試す前から諦めたくは無かったから、乗っているワイバーンをゆっくりと地面に近付けていった。
「乗ったままでも大丈夫かしら?」
「足元が悪いから、乗ったままの方が良い」
そう口にしてから、魔力の探り方の説明を始めるクラウス。
言葉にするのは難しい様子だったけれど、言われた通りに目を閉じて、耳も塞ぐ。
それから少しして、すぐ後ろから大きな魔力の気配を感じ取ることが出来た。
「この気配は……クラウスのかしら?」
「真後ろなら、合っていると思う。他には何か分かるかな?」
「真下はワイバーンの魔力ね。クラウスの気配よりもすごく小さい……」
「そこまで分かるなら、少し遠くの気配も探れると思う。
試してみて」
頷いてから、遠くの気配を探る私。
けれど、感じられる気配が多すぎて、何がどうなっているのか分からなくなってしまった。
クラウスの気配とは全く違って、ワイバーンから感じられた気配に似ているから、全て依頼で討伐対象になっているワイバーンの気配だと思う。
「沢山あって、区別までは出来ないわ」
「そこまで分かっていれば大丈夫だ。
当てるつもりで攻撃魔法を撃ってみて」
言われるままに攻撃魔法を放つと、あまり遠くない場所から、魔物の断末魔の叫びが聞こえてくる。
「倒せたみたいだね。この調子で他の魔物も手分けして倒そう」
「分かったわ」
今回の依頼は増え過ぎたワイバーンの討伐だから、殆どの魔法は空に向かって放つことになった。
雪崩に巻き込まれるといけないから、残りは空から攻撃していく。
それから十分ほどすると、唐突に雲が晴れてきた。
「もう殆ど倒せたみたいだ。
これだけ練習すれば、怪しい人が近くに居ても直ぐに気付けると思う」
「そういう事だったのね。ありがとう」
私は意識していなかったけれど、これも身を護るための力になるらしい。
今から両親が顔を出してもおかしくない場所に行くのだから、教えて貰えて良かったわ。
役に立たない方が嬉しい状況だけれど、備えはいくらあっても良いのだから、後悔はしない。
「どういたしまして。
雪崩が来ると危ないから、シエルはワイバーンに乗っていて欲しい」
「分かったわ」
それからはワイバーンを倒した証拠を集めて、今度は私の生家があるグレーティア領へ向けてワイバーンを羽ばたかせた。
◆
さっきまでの猛吹雪を感じさせない青空のすぐ下を進むこと数時間。
私達は、予定していた時間よりも一日も早くグレーティア領に辿り着くことが出来た。
ワイバーンはこの辺りでも見ることが出来るけれど、町に近付くと騒ぎになるから、少し離れたところから歩いて移動しないといけない。
「そろそろ降りるわ」
クラウスにそう伝えた直後、見覚えのある馬車が目に入ったから、遠見の魔法で中に乗っている人物を覗き見してみる。
両親だったら遠くに行くまで待つつもりだったけれど、乗っているのはお兄様だから、追いかける事に決めた。
「お兄様の馬車を見つけたから、もう少し飛ぶわ」
「分かった」
お兄様は私がワイバーンで移動していることを知っているから、ワイバーンが扱えない光魔法を見せたら分かってくれると思う。
だから、馬車から見えるように攻撃魔法を放ってみると、馬車が道の端に止まった。
外を歩いていた護衛さん達は私に向かって頭を下げている。
「お兄様、お久しぶりですわ」
「ああ、久しぶり。元気そうで良かったよ」
気丈に振る舞うお兄様だけれど、一目見ただけで憔悴していると分かってしまうくらいに表情が優れない。
それに、腕に巻かれている包帯が痛々しくて、かける言葉を失いそうになってしまう。
「お兄様は無理をしていましたのね……」
「感覚では元気だから、つい無理をしてしまうのだ。
心配させてすまない」
その言葉を聞いて、クラウスがさり気なく私の手に一瞬だけ触れる。
お兄様がこうなったのは、聖女になったアイリス様のせいで間違いなさそうだ。
その証拠に、お兄様からは闇魔法の気配を感じられる。
疲れを感じない効果もある魔法をかけられているに違いないから、練習しておいた魔法で効果を解こうとする私。
「今は駄目だ」
けれど、慌てた様子のクラウスに手を掴まれてしまった。
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