42. 救うために
「方法とは何でしょうか?」
私が提案しようとしたら、すぐにグレン様が反応してくれた。
だから、続けて言葉を紡ぐ。
「私が考えた攻撃魔法に、敵対している人物を追いかける物がありますの。
これをフィーリア様が使えば、犯人を絞れますわ」
「魔法が追いかけるだと?
しかし、攻撃魔法では相手に怪我をさせることになる。これでは文句無しの罪人だ」
一瞬だけ驚いたような表情を浮かべたグレン様は、すぐに穏やかな表情に戻ると、そう口にした。
私が使っていたのは初級魔法だけれど、当たれば怪我をするのは確実で、当たり所が悪いと命を落とす可能性だってある。
あれでワイバーンを倒していたのだから当然だ。
「なので、怪我をさせないような魔法を考えますわ。
フィーリア様、属性は何を扱えますか?」
「闇と土以外なら扱えますわ」
「そういう事でしたら、風魔法を改変してみますね」
風魔法は威力を落とせば髪を揺らすだけに留められる。
これは私が魔力を増やすために放った攻撃魔法で確認したことがあるから、間違いない。
今のままだと威力が高すぎるから、気付かれずに済むように変えてみようと思った。
「そんな簡単に出来ますの?」
「即興では難しいですが、三日もあれば完成すると思います」
「早いですわね……。完成、楽しみにしますわ」
この後すぐ、クラウスやグレン様達からの同意も得ることが出来たから、残りの夕食の時間は明るいことをお話して過ごした。
それから少しして、依頼中の私室として借りている部屋に戻った私は、魔法書と睨み合いながら黒幕を探すための魔法を完成させた。
けれど本当に怪我をしないのか確認出来ないから、実験のためにクラウスの部屋に向かった。
「魔法、完成したから実験したいのだけど、良い的は無いかしら?」
「的ならあるが、追いかけられないと思う。やるなら魔物相手に、だな」
「分かったわ。明日、学院が終わってから付き合ってもらえるかしら?」
「もちろん。
喜んでお供いたします、お嬢様」
何を思ったのか、執事の真似事を始めるクラウス。
その様子が洗練されていて、驚きを通り越して笑いそうになってしまう私。
「護衛は任せましたわ」
「ぷっ……」
けれど、先に限界を迎えたのはクラウスの方で、大慌てで口を塞いでいた。
◇
翌日。
私はフィーリア様と同じ馬車で学院に向かった。
投獄される前は婚約者様の馬車で向かっていたそうなのだけど、婚約解消されてしまったから、侯爵家の馬車で向かわないといけない。
けれど、クラウスが同乗していると余計な噂を立ててしまうから、私が同乗することになった。
表向きは姉妹なのだから、文句を言われることも無いと思う。
「少し手紙の確認をしても良いでしょうか?」
「ええ、構いませんわ」
屋敷を出る前に届いた私宛ての手紙を確認するために、フィーリア様に断りを入れる。
普段なら封筒を切る時はペーパーナイフを使うけれど、手元に無いから慎重に千切っていく。
この手紙の送り主はアレンお兄様と、お兄様が領地で雇っている執事の連名だ。
『最近、帝国との間で妙な動きをしている人物が居る。何か良くないことが起こるかもしれないから、用心して欲しい。
調査をしたいから、執事や護衛を連れて帝都に行くことにした。この手紙を出すころには領地を発っているから、突然の訪問となることを許して欲しい。
アレンより』
字は全てお兄様のものだけれど、封筒の閉じ方は執事のもの。
それなのに、封筒に髪の毛が入っていたから、戸惑ってしまう。
いつも完璧に仕事をこなしている人に限って、こんなミスを犯すことは考えにくい。
だから、これは何かのメッセージなのだと思った。
「何か入っていましたの?」
「何でもありませんわ。
ただ、実家の執事さんがストレスで禿げてしまいそうな気配を感じてしまいましたの」
お父様があの有様だから、もとより執事達の心労は大きかったはずだ。
そこに私の婚約解消が重なったことで、なんとか耐えていた毛根にダメージが入ってしまったのだと思う。
私が家を出る前、髪のことを気にしている会話を聞いたことがあるから、もし毛根が死滅したら辛いはずだわ。
以前に試作した毛生え薬の効果はあったはずだから、材料だけでも集めようかしら?
私を裏切ってくれたお父様に渡すつもりはないけれど、巻き込まれているだけの執事は助けたいから。
「わたくしのお父様も禿げてしまわないか心配ですわ。
その、心労をかけていましたから」
「グレン様は心配しなくても大丈夫だと思いますわ。昨日の喜び方なら、不安も消し飛んでいるに違いありませんもの」
「わたくし、お父様を冷たく突き放してしまったから、不安ですわ……」
グレン様の髪はお歳を考えるとかなり多い方だから、ストレスを受けても死滅するには時間がかかるに違いない。
けれどお兄様に付き従っている執事達は、すぐにでも救いの手を差し伸べないと危機的状況なのよね。
だから、執事達の毛根を救うために、フィーリア様に協力をお願いすることを思い付いてしまった。
「笑っていたから大丈夫だと思いますわ。
でも、禿げないと言い切ることも出来ませんから、一緒に毛生え薬の研究をしましょう」
「ぜひ、ご一緒させてください。薬はわたくしの得意分野ですから、楽しみですわ」
断られると思っていたけれど、フィーリア様は快諾してくれた。
それから私が試作したことのある毛生え薬について説明したのだけど、すごく興味を持ってくれたみたいで、すっかり盛り上がってしまった。
普通の令嬢なら、まずこんな話題にはならないのだけど。
夢中になっていたから、御者台から声がかけられるまで学院に着いたことに気付かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます