39. 耐えられません
「シエル様、格好良かったですわ」
「こんなに優秀なお方だとは思わなくて、本当に驚きました」
最初の授業を無事に終えた私は、すぐにご令嬢方に囲まれてしまった。
やり過ぎてしまったことを後悔しながら、今日二回目の質問攻めに返していく。
クラウスの方はというと、私に負けたことを慰められている様子。
殿方が勝ちに拘るというのは本当みたいで、彼は悔しそうな表情を浮かべていた。
私も魔法罠を踏んでしまって相打ちになっているのだけど、判定自体は私が魔法を当てる方が先だったから、私のチームが勝ったことになっている。
「魔法が出来るからって調子に乗っていると痛い目を見るわよ」
フィオナ様からは相変わらず目の敵にされているけれど、証拠のために敢えて無視。
適当に毒でも盛ってくれたら分かりやすいのだけど……。
ちなみに、私は王家に加わる予定だったから、それなりに毒にも慣れさせられている。
だから有名な毒はある程度の量まで耐えられる。
毒を盛られる前に気付ければいいのだけど、相手の頭が冴えていたら難しいのよね。
「また遅くなってしまいますから、移動しましょう」
「ええ」
フィーリア様を嵌めた人が誰なのか考えながら移動する私。
けれども答えは出なくて、あっという間に今日の授業を全て終えることになった。
午後はフィオナ様が関わってくることもなくて平和だったから、クラスのみんなとの時間を楽しむことも出来て、頑張って良かったと思えた。
「今日一日お疲れ様」
「ありがとう。クラウスもお疲れ様」
「ああ、ありがとう。」
侯爵邸に戻ってから、テラスでお茶をする私達。
念のために防音の魔法をクラウスが張ってくれているから、早速報告会を始める。
「先に私から言っても良いかしら?」
「ああ、もちろん」
「ありがとう。フィオナ様なのだけど、毒を盛れるような人では無いと思うの。
冤罪を着せられるほど、策略に長けているとは思えないわ」
「俺も同じ考えだ。この感じ、協力者を探した方が良いかもしれないな」
私が簡単に説明すると、頷いてからクラウスが意見を口にする。
最初はフィオナ様だけ注視していれば良いと思っていたけれど、一筋縄ではいかなさそうなのよね。
だからといって、フィオナ様に何もしない訳ではないけれど。
彼女にはしっかり私を散々馬鹿にしてくれた責任を取ってもらうつもりだ。
泳がせておくのは、黒幕をおびき出すため。
「ええ、そうね。
もしかしたら、フィオナ様も消されかけていたのかもしれないの。
医務室の記録を見たら、毒の治療が行われていたから」
「なるほど。となると、また同じ手口が使われる可能性が高そうだな」
「ええ。念のため、解毒薬を入手しておきましょう」
次は失敗しないように、即効性の高い毒が使われるはず。
だから、敢えてフィオナ様との距離を近付けて、すぐに対処できるようにした方が良いかもしれない。
これからの行動を考えていると、クラウスが纏う雰囲気が変わった。
不思議に思って、お菓子に向けていた視線を彼に戻す。
「シエル。大事な話がある。落ち着いて聞いて欲しい」
「ええ、分かったわ」
大事な話って何かしら?
以来の事以外で、思い浮かぶことが無い。
「今まで隠していて申し訳なかった。俺は元王族なんだ」
戸惑いながらも言葉の続きを待っていると、そんな言葉が飛び出してきた。
「そうだったのね。
貴族では無いと言っていたから、商人だと思っていたのだけど、王族も貴族では無かったわね」
「驚かないのか?」
今までのクラウスの立ち振る舞いを見ていたら分かるけれど、王族なら全て納得できるのよね。
身分を隠していたのも、貴族に嫌悪感を抱いていた私に配慮しての結果だと思うから、感謝はしても怒ることはない。
「ええ、特には」
「そうか。嫌いになったりは?」
「元王族でも関係ないわ。今は大切な冒険仲間だもの。
でも、あまり心配するような女々しい男は嫌いよ」
「分かった。気を付ける」
元王族ということは、何かあって廃嫡されてしまったという事。
気になるけれど、本人の口から語られるまで待とうと思った。
きっと辛いことがあったに違いないから、記憶を掘り返すようなこと、したくないのよね。
少し微妙な空気になってしまったけれど、それも一瞬で砕け散った。
「クラウス様、シエル様。フィーリアお嬢様がお見えになりました」
執事さんがそんな知らせを持ってきたから。
投獄されていて、あと二年は出られないという話だったのに、一体何があったのかしら?
「私達もお会いして宜しいのでしょうか?」
「ええ、もちろんでございます。是非お顔合わせを」
今の私は侯爵様の目を欺くために男装中。
フィーリア様を騙すのは心苦しいけれど、絶対に侯爵様と会うはずだから仕方ないわよね。
そんなわけで、私達は玄関に向かった。
「フィーリア、よく無事に帰って来てくれた! 父さん、本当に嬉しくて泣きそうだぞ!」
「ちょっと、離してください! わたくし、一ヶ月も湯浴みが出来ていなくて臭いますから! せめて湯浴みの後にしてくださいませ!」
「えっと、グレン様? 離した方が良いと思いますよ?」
含みのある視線を送るセフィリア様に気付いて、咄嗟に侯爵様に声をかける私。
一ヶ月も湯浴みを出来ていないなら、すぐにさせた方が良いことくらい分かる。
家族であっても、臭う時に近付かれるのは嫌なのも当然のことだから、私も侯爵様に含みのある視線を送る。
「すまなかった。すぐに風呂に行ってきなさい」
「その言い方も傷付きますわ……」
「済まなかった! 謝るから父さんを嫌いにならないでくれ」
この世の終わりと言わんばかりの表情を浮かべる侯爵様。
娘を愛しているのは悪いことでは無いと思うのだけど、正直ちょっとだけ気持ち悪いと思ってしまう。
「もう手遅れです」
「そんな……」
ガックリと膝を折る様子を見て、つい笑いそうになってしまう私。
「冗談ですわ」
フィーリア様の言葉を聞いて、今度はきょとんとする侯爵様。
表情を忙しく変化させる様子を見ていたら、ついに私は耐えられなくなってしまった。
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