33. 入学試験の結果
模擬試験を受けてから一ヶ月。
無事に冒険者カードが銀色になった私はクラウスと共に留学試験の会場に足を踏み入れた。
この留学試験は優秀な平民も受けることが出来るみたいで、商人の装いをしている人の姿もある。
アルベール王国の貴族もいるけれど、彼女とは敵対していないから心配は要らないと思う。
「まさか試験官が侯爵様だとは思わなかったわ……」
「そうだな。まあ、模擬試験に詳しい理由は分かったよ」
権力を利用するのは、どこの貴族でもやっていることだから気にしない。
けれど試験官は侯爵様以外にもいるから、失敗はしない方が良さそうだわ。
「では、剣術の試験を始めます。
まずは型から」
それから参加者が順番に呼ばれて、侯爵様の前で剣を振るう。
私達は最後の方だったけれど、前の人達がお世辞にも上手とは言えなかったから、余裕をもって臨むことが出来た。
続く模擬戦も侯爵様の身体に剣先を触れさせられたから、無事に合格出来た。
ちなみに手は一切抜いてくれなくて、本気で斬りかかられたのよね……。
先週の模擬戦で勢い余って侯爵様の腕を折ってしまったから、警戒されていたみたい。
ちなみにクラウスは刃の無い剣なのに、腕を斬り飛ばしていて、見ていた私も青ざめたくらいだった。
治癒魔法で傷跡も残さずに治したけれど、左腕だったから焦ったのよね。
魔法は問題なく使えているから、結果としては問題にならずに済んだ。
「合格者を発表します」
ちなみに、この試験は実技である程度人数が絞られるから、剣術と魔法それぞれで落ちてしまうことも多い。
この会場に百人近く居るのに、名前を呼ばれたのは四十だけ。
何人合格するのかは聞いていないけれど、狭き門なのね……。
「では、次は魔法の実技です。
あの動く的を攻撃魔法で壊してください」
次の試験は、魔法を三回まで撃てる。
そこで的を壊せなかったら、即不合格という厳しいもの。
けれど、残っているのは優秀な人ばかりのようで、的が壊れる音が何度も響く。
もちろん私達も一回目で成功させて、無事に合格出来た。
続く筆記試験も全て満点で、二枠しかない特待生の権利を頂けるらしい。
「流石はクラウスさんとシエルさん。期待以上の結果で感心しました」
「ありがとうございます。侯爵様が模擬試験をして下さったお陰ですわ」
「ありがとうございます」
そんな会話を交わしている時、侯爵様が私の方をまじまじと見てくる。
今は女装という名の普通の外行きの服装をしているから、興味を持っているのだと思う。
まだ私が女だという事にも気付いていないみたいで、いつも男性の使用人を向けてくるのだから。
セフィリア様が使用人達に忠告しているから、それとなく女性の使用人に入れ替わるのがいつもの流れ。
すっかり屋敷中で侯爵様を試すような状況だ。
少し面白いから、私も男装するときは徹底しているのだけど、本当に気付かれないのよね。
「しかし、シエルさんは本当に女性にしか見えませんね……。この胸なんか、一体どうなっているのか」
この発言と共に腕が伸ばされた時は、本当に気付いていることも疑ったけれど、クラウスに制止されて戸惑う様子を見ていたら、その疑いも消えてしまった。
「下手に触ると使い物にならなくなるので、やめて下さい」
「そ、そんなに絶妙な調整が必要なのか。すまなかった」
「分かって頂ければ大丈夫です」
もし腕がこれ以上伸びてきたら、私は剣を抜いていたかもしれない。
だから、クラウスにはこっそりお礼を言っておいた。
「グレン様の手が使い物にならずに済んで良かったよ」
「私の心配は?」
「必要ないだろ?」
私は心配されていなかったみたいだけど、小声で教えてくれたクラウスの判断は正しいと思う。
無防備に伸ばされた手なら、触れられる前にどうにかするくらい容易いのだから。
物騒な会話を終えると、空気を読んで待ってくれていた侯爵様が口を開いた。
「今後の動きですが、お二人は娘が在籍していたAクラスに決まりました。
始業は来週の始めなので、制服の準備を急がないといけません。その辺りは妻の方が詳しいので、妻に代わりますね」
「時間が少ないのですね。分かりましたわ」
「制服は全て既製品なので、採寸さえ終われば直ぐに届きます。ご安心ください」
「なるほど、分かりました。では、セフィリア様に話して参ります」
クラウスがそう口にしてから、二人でセフィリア様の私室に向かう私達。
けれどセフィリア様の方が先回りしていて、話すよりも先に採寸をするための部屋に連れ込まれてしまった。
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