31. 必要無かったので
「ええ、すごく可愛らしいわ」
フリルが沢山あしらわれているドレスを身に纏った私を見ながら、満足そうに頬を赤らめるセフィリア様。
私も姿見で見ているけれど、少し幼く見える気がするのよね。
次は派手な赤い色のドレス。
これを身に纏った時のセフィリア様の反応は微妙で、すぐに次のドレスに着替えさせられる。
「思っていた通り、すごく似合っているわ」
空色と青色の間くらいの色を基調に控え目な装飾があしらわれているドレスに着替え終わると、そんな感想を言ってもらえた。
姿見を見ても違和感はなくて、外にも行けるデザインだから、私も満足している。
「ありがとうございます」
「あとはお飾りを着けて……」
着せ替え人形の役目はまだまだ終わらないみたいで、色々な装飾品を付けたり外したりを繰り返す。
流石は帝国の侯爵夫人といったところかしら? 王太子殿下の婚約者だった私が持っていた何十倍もの装飾品が詰まっている箱が六箱もある。
「本当に沢山ありますのね……」
「どれも世界に一つしか無いから、中々手放せなかったの。
シエルさんは大切にしてくれると思うから、好きなだけ差し上げますわ」
「そんな、畏れ多くて受け取れません」
そんなやり取りをしている間に時間は過ぎていて、侯爵様が問題の用意をし終える頃には久々に疲れてしまった。
貴族の相手は重荷に感じてしまうのよね……。
◇
「学院の試験は魔法と馬術と剣術の実技試験に加えて、数学や帝国史、地理や魔法学の筆記試験が出題されます。まずは実技から行いましょう」
実技試験のために中庭に集まって、説明を受ける私達。
この中庭は普段から護衛やご子息達の鍛錬の場として使われているみたいで、所々地面が抉れていたりする。
お客様には見せられない状態だけれど、代わりに遠慮なく荒らしても良いと言ってくれた。
だから期待に応えられるように全力で受けるつもり。
「しかし、シエルさんの女装は本当に違和感がありませんね」
侯爵様からは感心するような視線を送られているけれど、セフィリア様から私が女だということは隠すように言われているから、やりにくいけれど……。
(実は女なのです……なんて口が裂けても言えないのよね)
仕方なく頭の中で叫んでから、笑顔を取り繕う。
「褒めて頂きありがとうございます」
「ああ、これなら安心して依頼を任せられるよ。
早速ですが、模擬試験を始めましょう。どちらから受けますか?」
そう問いかけられたから、すぐに手を挙げる私。
クラウスが先だとハードルが上がりそうだから、この順番は譲りたくない。
「クラウスさんは宜しいですか?」
「はい。シエルからお願いします」
「承知しました。では、まずは剣術から行いましょう」
その言葉と共に、練習用に刃を落としてある剣を渡される。
一体どこから入手したのかは分からないけれど、実際の試験と同じものらしい。
試験中は一切の魔法の使用が禁止されているから、本当の実力勝負になる。
最初は『型』の試験で、基本になる動作を試験官に見せることになっている。
だから、直前に説明された順番で剣を振っていく。
『型』の試験は足の運びから剣の持ち方、重心の動かし方まで細かく見られるはずだから、しっかり集中して一つ一つ確実に。
「以上ですわ。ありがとうございました」
全ての『型』が終わったら、試験官に一礼して待機になる。
次はクラウスの番で、彼は立ち上がって一礼すると、さっきまで私が立っていた場所で足を止めた。
「よろしくお願いします」
「はい。では、始めて下さい」
合図の直後、言葉に出来ないくらい綺麗な動きを見せるクラウス。
彼の動きは洗練されていて、つい心を奪われてしまいそう。
けれども、見ていて飽きないから、あっという間に終わりが来てしまった。
「二人とも合格です。次に進みましょう」
「分かりました」
それから、侯爵様を相手に実践形式の試験と魔法の試験も同じように合格を貰うことが出来て、筆記試験のために空いている部屋に移動した。
ここ帝国は魔石を利用しても問題ないみたいで、本当に助かったわ……。
続く筆記試験。
帝国史以外は危うげなく合格出来たけれど、あまり学んでいない帝国史は全然出来なかった。
地理は有事に備えて覚えていたけれど、歴史は外交の場に立つような地位に居なかったから、学んでいなかったのよね。
クラウスは余裕だったみたいだから、少し悔しかった。
「二人とも予想以上に知見に富んでいて、驚きました。
シエルさんには帝国史を勉強して頂きますが、おそらく一週間もすれば終わるでしょう」
「頑張りますわ」
試験本番は一ヶ月後。
余裕はあるけれど、魔法の練習もしたいから早く終わらせることに決めた。
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