12. 国を出ます
「こちらが冒険者カードになります。再発行には手数料がかかりますので、無くさないようにお気を付けください」
「ありがとうございます」
筆記試験に合格した後、冒険者講習を受け終えた私はようやく冒険者の証となる冒険者カードを手に入れることが出来た。
これは冒険者ギルドにある銀行の口座を使う時や身分証にもなる優れもの。
少し嵩張るのが難点だと思っていたけれど、魔道具になっていて普段は指輪にしておける。
デザインは……微妙ね。
指輪になっても冒険者カードの色がそのまま出てしまうのだけど、最低ランクのDランクは黒色だから、悪目立ちしてしまう。..
初心者の私のカードは当然のように黒色だった。
ちなみにCランクは銅色、Bランクは青銅色、Aランクは銀色、最高ランクのSは金色になる。
最初はAランクが一番上でないことに疑問を持ったけれど、目立たせるために敢えてこの形にしているらしい。
「クラウス、お待たせ」
「試験お疲れさま。合格おめでとう」
「ありがとう」
ギルドに併設されているカフェで私を待っていたクラウスの指には、金色の指輪が煌めいている。
まさか彼が上位の冒険者だなんて。
容姿からは想像も出来なかったわ……。
ちなみに、依頼には危険度に応じてランク付けがされていて、パーティーメンバーの平均以上のものは受けられない仕組みらしい。
だから最初は魔物の素材を売って生活していくことに纏まった。
討伐や依頼の実績でランクが上がっていくから、最初はAランクを目指そうと思う。
銀色ならデザインも良くなると思うから。
黒は……正直に言って嫌だもの。
目立たないように手袋でもしようかしら?
それから、余った金貨を口座に預けて、私達は冒険者ギルドを後にした。
◇
「今後の行動なんだけど、シエルはどこに行きたい?
アルベールだと居心地が悪そうに見えたんだ」
冒険者として必要なものを買い終えて、昼食をとっている時のこと。
クラウスがそんな問いかけをしてきた。
「どうして分かったの? お父様に見つかりたくないから、この国を出ようとは思っていたのだけど……」
それに王家も何をしてくるか分からない。
聖女様に何かあったら、私の責任にしそうなことくらい想像できる。
残念だけれど、貴族はそういうものだから。
どうすれば責任を負わずに済むか、そんなことばかりに頭を回しているのよね。
「それなら、ブルームーン帝国に行こう。少し遠いが、あそこが一番栄えている国だからな」
「分かったわ」
ブルームーン帝国は、ここアルベール王国と国境を接している国。
けれど国境にある山は危険な魔物の巣窟だから、交易は海を通して行われている。
海も危険な魔物は多いのだけれど、山よりは安全なのよね。
「まずは港に向かうで良いかな?」
「ええ、大丈夫よ」
王国内の地図なら頭に入っているから、どこを通れば大丈夫なのかも把握している。
港までは歩いて十日かかるけれど、馬車なら三日で着く距離だ。
王都から港の間は、乗り合い馬車も頻繁に行き来しているから移動には困らない。
「案内は任せてもいいか? 俺は王国の地理に疎いから」
「もちろんよ。そういう事なら、乗り合い馬車の切符を買いましょう」
「いや、馬車は使わない。魔物の素材を集められないからな」
「分かったわ」
魔物は倒せば死体を残すのだけど、その一部が薬やポーションの材料になるから高く売れるらしい。
必ず手に入る魔石には魔力が詰まっているから、それを利用すれば魔力が少ない私でも攻撃魔法を扱えるようになる。
魔石にも属性があって、適性が無ければただの石のようなものだけれど、全属性に適性がある私なら気にならないこと。
時間がかかるという欠点はあるけれど、追手を向けられた時に隠れられる徒歩の方が安全だと思ったから、すぐに頷いた。
「そうと決まれば、まずは男装からだな。
昼間は良いが、夜になればよからぬことを考える馬鹿が多いから」
「男装? 私、護身術なら習っているわよ?」
「お守りみたいなものだ。揉めない方が楽だろう?」
男装はしたこと無いけれど、トラブルを避けるためなら仕方ないわよね。
幸いにも私は細身の方だから、少し頑張れば体格は隠せそうだもの。
けれど髪を隠すのは厳しいと思うのよね。
貴族では女性なら髪を伸ばすのが常識とされているから、私もそれに倣って背中までは伸ばしている。
でも、長い髪って面倒なのよね。
湯浴みの時だって、手入れだって、乾かすときや整えるだけでも一苦労。
侍女が居る時は気にならなかったけれど、今は邪魔だとハッキリ言える。
戦う時は邪魔になりそうだから、この際切ってしまいたいわ。
あまり短いのも嫌だから、肩くらいまで。
「髪はこれくらいまで切れば隠せるかしら?」
「それくらいなら、男でも伸ばしてる人はいるし、問題無いと思う」
というわけで、私の男装が決まってしまった。
……三万ダルもかかってしまうとは思わなかったけれど。
「悪くないな。ちょっと……いや、かなり可愛らしすぎる点を除けば完璧だ」
「褒めてないわよね?」
「いや、容姿は褒めてるぞ?」
普段なら嬉しい言葉でも、今は悔しい気持ちにってしまった。
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