エピローグ
結局、肝試しは途中で中断となった。
こうして柚葉が落ちてしまった時点で、安全面や他に人員を割かなければならなかったため、当然の判断と言える。
加えて、櫻坂の証言や柚葉の証言があったからか、関わっていた女子生徒三人は停学処分となった。
呼び出したとはいえ故意で落としたわけではなかったのだが、そのあと逃げ出してしまったのと櫻坂を無理やりルートの外で呼び出した理由が原因らしい。
―――あれから三日が経った。
林間学校が終わり、振替休日も悲しいことに終わり。
残念ながら、またしても憂鬱な学校が始まってしまった―――
「……おんぶするのに」
「流石に恥ずかしいから、やだっ!」
横を歩く柚葉がそっぽを向く。
可愛らしい姿この上ないのだが、松葉杖をついている姿はどこか痛々しかった。
骨は折れていなかったものの、足首を落ちた拍子に捻挫したそうだ。
「だが、歩き難いだろう? 捻挫とはいえ、松葉杖つくぐらいなんだし」
「……花も咲く女子高生なんだよ、こっちは。おんぶの拍子でスカート捲れちゃったらどうするのデリカシーなさ雄くん?」
「だったら、タクシーを拾えば……ッ!」
「普通に歩いていくってば!」
もうっ、と。
可愛らしく唇を尖らせる柚葉。
どうしてか、柚葉を見ていると自然と唇に視線が—――
(ダ、ダメだ……どうしても視線が吸い寄せられてしまう!)
この前からそうだ。
柚葉からキスをされてから……どうしてか、意識してしまう。
まぁ、初めてだから当たり前なのかもしれない。
しかも、それが嫌なものではなく嬉しく思ってしまうものであればなおさらだ。
(……柚葉はなんか平然としてるしよぉ)
俺だけか? 俺だけなのか!?
女性経験が乏しいチェリーボーイだから意識しちゃうだけで、今時の高校生はそうなのか!?
「どうしたの、つっくん? この前から、ちょくちょく私の顔チラチラ見てくるけど……」
そんなことを思っていると、不意に柚葉が顔を覗き込んでくる。
そして何かに気づいたのか、いたずらめいた笑みを浮かべて―――
「は、ははーん? さては、つっくん……この前のちゅーを意識しちゃってるのかにゃ?」
噛んだ。すっごい恥ずかしそうな顔をしながら。
「……恥ずかしいなら煽るなよ」
「だ、だって……チャンスだと思ったんだもん」
何がチャンスだと思ったのか? もしかして、最近いじられてばかりだから逆の立場を味わおうとしたのだろうか?
……柚葉も強かな女の子になったものである。
そう思っていた時だった───
「あ、あのっ! 水瀬先輩っ!」
ゆっくりと進み、校門前まで辿り着いた頃。
待ち伏せでもしていたのか、一人見知った女の子が駆け寄ってくる姿が視界に映った。
「あーっ、愛羅ちゃんじゃん! どったの?」
「いえ、その……水瀬先輩に、お礼が言いたくて」
こうして美少女二人が一緒に立つと、毎度のことながら目の保養になる。
柚葉も柚葉だが、櫻坂も本当に可愛い女の子。
控えめな性格と入学したばかりというのが起因しているのかもしれないが、一度目立てば四大美少女と呼ばれる可能性がありそうだ。
「お礼なら林間学校の時にもらったよ?」
「あの時はすぐに水瀬先輩は病院に行かれて、ちゃんと言えませんでしたから……」
櫻坂はぺこりと、頭を下げる。
「私のせいでそんな怪我を……あ、いえっ! ありがとうございました、水瀬先輩。あの時助けてくれて」
言葉を言い直したのは、きっと柚葉が「自分のせいで」を嫌うからだろう。
それが分かっているからこそ、柚葉はどこか気恥ずかしそうに頬を掻く。
往来で頭を下げられたから……というよりかは、お礼を言われ慣れていないからだろう。
柚葉は「顔上げて」と、櫻坂に微笑みかける。
「うん、愛羅ちゃんが元気そうでよかった! 今度からは、ちゃんとルール守るんだよ?」
「はいっ!」
櫻坂は顔を上げて、にっこりと笑う。
(……ほんと、笑ってる顔ってこっちまでつられちゃうよな)
なんて思わず口元が緩んでいると、ふと櫻坂がこっちを向いた。
そして、何故かほんのりと頬を染めて―――
「あ、あの……入江先輩」
おずおずと、スマホを取り出して画面を向けてきた。
「れ、連絡先交換してくれませんかっ!?」
「お、おぅ……それはいいけど」
はて、連絡先を交換するほど仲はよかっただろうか? まだ林間学校でしか話したことはないというのに。
しかし、求められて断るのもおかしな話。
俺はQRコードを読み取り、櫻坂と連絡先を交換する。
すると、櫻坂は可愛らしい嬉しそうな笑みを浮かべて、もう一度頭を下げた。
「ありがとうございます! それでは、その……引き留めちゃってすみません!」
櫻坂が何故か逃げるようにして校舎へと向かっていく。
一体なんだったんだろ? そう首を傾げて……直後失敗したと思った。
(しまった……)
恐る恐る横を向く。
そこには、不機嫌そうに頬を膨らませる柚葉の姿が―――
「むすーっ!」
「悪かった悪かった」
俺が両手を上げて降参ポーズを見せると、柚葉は松葉杖を押し付けて徐に両手を広げる。
……これは、詫びをしろということだろう。
「私だって嫉妬するんだもん」
「……スカートびろーんってなるぞ?」
「つっくんがなんとかしてくれたら嬉しいです」
「へいへい、お嬢さんのお気に召すままに」
俺は柚葉の前で背中を向けてしゃがみ、そのまま立ち上がる。
もちろん、往来でおんぶをしている状態だ。背負っている女の子が三大美少女様であることもあり、一気に周囲の注目が集まる。あと、松葉杖が地味に持ち難い。
「……つっくんは女たらし」
「いや、女たらしってわけじゃ―――」
「でも、愛羅ちゃんの気持ちが分かるから何も言わない」
柚葉は俺の背中に顔を埋めて、ボソッと呟いた。
「だって、私の
「……さいですか」
―――幼なじみに、
それから少し様子がおかしくなって、立て続けに三大美少女様を助けたことが分かって。
始めは黒歴史だと思って蓋をしていた。
それでも、彼女達の中ではそうではなくて。そうではないと気づかされて。
まだ自分の中で答えは出ていないけど。
これから、彼女達のことを知っていって……それから、自分の答えをしっかりと出したいと思う。
「だから、つっくんを振り向かせるために私、頑張るね」
ボソッと耳元で言われた言葉。
それを聞いて、俺は思わず苦笑いを浮かべてしまった。
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お久しぶりです、楓原こうたです。
本編、これにて一旦完結になります!
最後までお付き合いしていただいた読者の皆様、ありがとうございました!🙇💦
続きは書かせていただきますが、立て込んでいる締め切りなどと相談してからになると思います!
また次の作品や本作品の更新の際には、どうかよろしくお願いします!🙏🙏🙏
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【GA文庫様より書籍化決定】学園の三大美少女様を昔助けたのが俺だとバレた。それから彼女達の様子がおかしくなった 楓原 こうた【書籍6シリーズ発売中】 @hiiyo1012
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