負けない

(※柚葉視点)


 私は基本、お昼はクラスの友達と食べることが多い。

 しーちゃん先輩は違う学年だし、くーちゃんはモデルのお仕事で学校いなかったりするし。

 でも、今日は珍しくくーちゃんからのお誘いで一緒にお昼ご飯を食べることになった。


『きょ、今日は一緒なんだな……』

『やっぱり二人揃うと絵になるというかなんというか』

『声掛けてみようかな? 一緒に飯食えたら自慢できるぜ!?』

『やめとけって、今まで何人が撃沈したと思ってんだ?』


 まぁ、教室で食べるとなるとこういう話し声は聞こえてくるからあんまり好きじゃないんだけど。

 やっぱり、見た目だけでどうこう言われるのはあんまり好きじゃない。

 全員、つっくんみたいに私個人としてみてくれたらいいのに───


(って、またつっくんのこと考えちゃう……)


 この前、美里さんと話してからずっとこう。

 前以上につっくんを意識しちゃう。

 ……まだ王子様ヒーローとしてのつっくんが好きなのか、幼なじみのつっくんが好きなのかは整理できてないけど。


「なに、幼なじみのこと考えてたの?」

「ふぇっ!?」


 ボーッとしていたのか、目の前に座っているくーちゃんがニヤついた笑みを浮かべる。

 私はそれが気恥ずかしくて、驚いたあとに顔が真っ赤になってしまった。


「そ、そんなに分かりやすい……?」

「分かりやすさしかない」


 なんだろう……余計に恥ずかしい。


「まぁ、人生で初めて恋をしたらこんな風になるっていう、お手本みたいな感じよねー」

「も、もうっ! からかわないでよ、くーちゃん!」


 私の反応が楽しいのか、くーちゃんのニヤニヤが止まらない。

 そして、その笑顔を見て近くにいた男の子が固まっていた。見蕩れちゃったのかな?


(まぁ、気持ちは分かるんだけどね……)


 モデルをやっているっていうのもそう。

 クールな感じでかっこいい。でも、モデルを続けるために体重管理や勉強だって欠かさない努力家。

 魅力的すぎる女の子だ。同じ女の子でも惚れてしまいそうになっちゃう。


「そ、それで……珍しいね、くーちゃんからお誘いだなんて」


 私はお弁当の中身を一つ頬張りながら、くーちゃんに尋ねる。

 すると、くーちゃんは同じくご飯を食べながら何気なしに───


「私の王子様ヒーロー、あなたの幼なじみだったわ」

「へっ!?」


 何気なしに言う話じゃないよ、それ!?


「ほ、ほほほほほほほほほほほほほほ本当なの、それ!?」

「えぇ、本人からも話は聞いたし、間違いないわ」


 まさか、くーちゃんまでつっくんが王子様ヒーローだなんて。

 くーちゃんから王子様ヒーローの話は聞いている。だから、きっとこうやってさり気なく流れて言ったけど、実際は相当嬉しかったに違いない。

 それに、絶対くーちゃんはつっくんのことを───


(うぅ……ライバルが増えたぁ)


 こんな綺麗な子がライバルになるなんて。

 いきなり序盤の街で魔王が目の前に現れた感じが強い。

 ……つっくん、色んな人を助けすぎだよ。たらしさんだよ。


 でも、


「えへへへっ……」

「なんであなたが嬉しそうにするのよ?」


 気づいたら、何故か私の顔に笑顔ができていた。


「いや、やっぱりつっくんは王子様ヒーローなんだなーって分かって」

「……なんか予想とは違う反応ね。でも、気持ちは分かるわ」


 幼なじみってだけじゃない。

 誰であっても、体を張って助ける優しさと勇気がある。それこそ、私の中の王子様ヒーローな気がして。

 互いに王子様ヒーローのことを思い浮かべたのか、自然と笑みが零れてくる。

 なんだろう、ちょっと嬉しい。


「でもよかったわ」


 くーちゃんが、少しだけ胸を撫で下ろした。


「正直、後出し感があるから……こう見えても、結構気まずくなると思ってたのよね。ほら、同じ人を好きになったわけじゃない?」

「……ハッ!」


 そうだった! くーちゃんとライバルになるんだった!


(うぅ……まだ気持ちの整理ができてないのに)


 つっくんが私の王子様ヒーローだって分かって改めて嬉しかったけど、改めてライバルが出るとなると話は別。

 くーちゃんは魅力的な女の子だ。

 幼なじみっていうアドバンテージはあるけど、越されちゃう可能性はめちゃくちゃ高い。

 競走じゃなくて、つっくんの気持ちが一番なのはもちろんなんだけど……どうしても焦ってしまう。


(で、でも……!)


 私だって好きなんだ。

 優しくて、体を張って助けてくれる勇気があって、

 どういうきっかけで好きになったのか、まだ分からないけど……好きなのは間違いないって、美里さんと話して分かった。


(まだ、つっくんとはちゃんといつもみたいに話せるか怪しいんだけども)


 それでも、うだうだしてたらくーちゃんに先を越されれちゃう。

 だから───


「ぜ、絶対に負けない……ッ!」

「ふふっ、それでいいわよ。友達だからといって、譲る気はないんだから」


 多分、くーちゃんは筋を通してくれたんだ。

 先に見つけたのは私の方。後出しのような形で見つかっちゃったから、行動に起こす前に、ちゃんと。

 文句を言うつもりはない。

 その代わり、これだけは言わせてほしい。


「くーちゃん」

「ん?」


 私は自然に浮かんだ笑みを向ける。

 くーちゃんは一瞬だけ呆けた顔を見せたけど、すぐに口元を綻ばせた。


「ありがと、柚葉」


 多分、きっと。

 負けたら悔しいなーって思うけど、今の言葉は本心。

 この関係は、これからも続いていくと思う。


「じゃあ、あとはしーちゃん先輩だけかー」

「……なんとなくだけど」


 何気なしに呟いた言葉に、くーちゃんは少しだけ眉を顰める。


「多分、私が最後だと思うわよ。あの人は、? 私の予想が正しかったら、詩織さんの王子様ヒーローって───」

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