ラズベリー共和国ものがたり

戸北那珂

第1話 プロローグ①

 ラズベリー共和国ものがたり


 いま・ここから遠く離れた世界のどこかに、かつてラズベリー共和国というひとつの国がありました。

 そこではその名の通り、国中にラズベリーの実がなっていて、赤むらさきの小さな実がそれはそれはまるで魔法のようにきらきらと咲き誇っていました。

 もちろんイチゴとかブルーベリーとかほかの種類のものもたくさん生ってはいましたが、特にラズベリーが一番見事だったのでこのような国の名前になったのでした。

 不思議なことに、たくさんのラズベリーは取っても取ってもまた次の週には国中がきれいな赤に染まっていくほどだったので、人々は食べ物に困ることもなく、また景色はとても素晴らしく、ラズベリー共和国はとても幸せな国として知られていました。



 ラズベリー共和国はおおよそ7つのエリアに分かれていて、平原の中心にある都フランボワーズを中心に、それに隣接するS・A・B・E・Rの各エリアと国境の港町Yエリア、そして一番田舎のPエリアがそれぞれありました。

 その中で一番大きくて賑やかなのは人口の3分の1を占め、都のすぐ南隣にあるRエリアでした。

 どこのエリアでもラズベリーが豊富にとれましたが、イチゴやブルーベリー、ブラックベリーなどは限られたエリアでしか育たないものでした。

 国民はみな国中を旅することができましたが、自分のエリアが一番住みやすくおいしいラズベリーが取れると信じていたので、ほかのベリーを手に入れたいときのほかは自分の国と、あと買い物や旅行をしに都に行くぐらいの平和な暮らしをしていました。



 そのためラズベリー共和国で暮らしている人はそれぞれのエリアの名前をとって、R人とかP人と呼ばれていました。

 他のエリアの人とはあまり会うことのない人が多かったのですが、人々はみな自分がラズベリー共和国の国民で赤むらさきに満ち満ちた生活を送っていることとそれぞれのエリアに住んでいることに誇りを持っていました。

 特に一番意識が強かったのがRエリアの人で、彼らの口癖は「ラズベリーの中にRは三つも入っているんだぞ」というものでした。

 これは確かにそうだったのですが、だからといってほかのエリアがすごくないというわけでもなく、事実R人たちも自分のエリアでは栽培できないブルーベリーやブラックベリーを持っている人などにはとてもリスペクトのある仲間意識を持っていました。



 Yエリアは都に接してもいなく、またラズベリーの他のベリーが取れるわけでもありませんでしたが、海に面した港町が中心であったために、隣のヌーホーン帝国やサウスハイランドをはじめとした近隣の国と貿易をすることで賑わっていました。

 Yエリアには国際鉄道が通っていたので、ほかの国の人々も甘くておいしいラズベリーを求めてやって来るのでした。

 特にヌーホーン帝国の人々は主に野生動物の肉などを食べて暮らしていたので、彼らにとってラズベリーは貴重なごちそうになっていて、国境付近では交易が活発に行われていました。



 そして外国から入ってきたお肉などの産品は、国内にも広がっている鉄道を通して都やほかのエリアに運ばれていました。

 そのためYエリアはラズベリー共和国の重要な一構成員である考える人が多く、またY人もそのことを誇らしく思っていたのです。

 こうして考えると対照的に、都に面さず、ほかのベリーも取れないもう一つのエリアであるPエリアはただの田舎に過ぎないと思われてくるのも自然なことでした。

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