第5話 四月一日の嘘



 見つめ合う彼女の瞳に涙が溜まっていったのだ。


「……もう一度言って?」


 もう一度。聞こえていなかったのだろうか。


 僕は彼女の瞳に溜まっているものに気が付きながら、もう一度嘘を吐く。


「……君が好きだ」


 嘘だ。その一言を言えばなかったことにできる。今すぐに言え。


 それができなかった。


 僕を見つめる瞳が僕を逃がさないように、嘘以外の言葉を吐くのを許してくれない。


「……私も好き」


 サユはそういうと溜めていた涙をこぼれ落とした。溢れて、流れていき、とめどなく涙を流していた。


 僕はサユに嘘だと言えなかった。

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