第155話 待ちに待ったサバゲー




 水の1の月、3の週の土の日。

 学院も終わり、グラウンドの隅の方でバザルと訓練をしていた。

 第五騎士団の方々も少し忙しくなってきたらしく、長期休暇後はまだ一度も出稽古に行けないでいた。

 何に忙しくなったのか。

 夏に開催される「国王陛下、在位二十年記念」に関連する一連の行事に向けた警備計画と訓練に、である。

 王城や第一街区の警備は第五騎士団の管轄ではないが、王都の警備に関わる全員が今は少々ピリついているらしい。

 多くの人が王都に詰めかけるだろうし、貴族も勢揃い。

 上級貴族に至っては、その家族まで勢揃いとなるのだ。


 ということで、学院でバザルと訓練を行っていたのだが……。


「うわっと!?」


 ミカはすんでのところでバザルのソードを躱し、大きくバックステップし距離を取る。

 だが、バザルも素早く距離を詰める。

 そこで一呼吸。

 これまではそのまま突っ込んできたのだが、珍しくバザルが間合いに入る前に一拍おく。

 しかし――――。


「ひゃ!?」


 今度はソードを躱しきれず、バザルが寸止めする。


(何で!? バザルの間合いには入っていなかったはずなのに!)


 さっきからこの繰り返しである。

 ミカもオズエンドルワのアドバイスによりナイフ術を習い始めたのだが、まだまだバザルの懐に入り込めるようなものではない。

 逆にバザルは、間合いの外にいたはずなのに、いつの間にかミカがバザルの間合いに入っているのだ。

 訳が分からない。


 その時、パンパンと手を叩く音がする。

 リムリーシェの合図だ。


「だぁーーーーっ! まったく手が出せなかったぁ!」


 ミカが悔しそうに言うが、バザルは静かに息を整えている。

 何だか、本当にいつもと違う。

 いい所なしで終わってしまい、ミカは不完全燃焼である。


「お疲れ様、ミカ君。」


 リムリーシェの所に行くと、労いの言葉をかけられる。

 しょんぼりするミカに、リムリーシェが苦笑する。


「何だか、いつものミカ君の動きじゃなかったけど……?」

「やろうとしたこと、全部潰された。」


 そのせいで焦ってしまい、更に雑になる。

 完全に悪循環に陥ってしまった。

 ミカはがっくりと項垂れた。

 そこにバザルが入ってくる。


「いい練習になったでござるな。」


 バザルは非常にすっきりした顔をしていた。

 ちくしょー。


「何なんだよ、あれ! 間合いの外にいたのに、何でいきなりソードが届くんだよ!」

「分からないでござるか?」


 バザルが何でもないことのように言う。

 …………まさか。


「もしかして、オズエンドルワさんの……?」

「そうでござる。」


 バザルが頷く。

 何でもバザルは長期休暇中、第五騎士団の詰所に通っていたのだとか。

 オズエンドルワは忙しい合間を縫って、バザルの動きを見ては一言二言アドバイスし、オズエンドルワの使う剣術の初歩の技術を教えてくれたらしい。

 ミカが帰省している間に、バザルは数段レベルアップを果たしていたのである。


「それだけであんなことができるようになるの!?」

「そう言われても、拙者も必死になって訓練したでござるよ?」


 どうやら、元々剣術家として何年も基礎を作り続けてきたからこそ、オズエンドルワのアドバイスだけで初歩の技術なら体得できたようだ。

 それでも一カ月かかっている。

 ミカなら、同じアドバイスを受けても身につくものではないだろう。


「先日、ようやくお許しが出たでござるよ。 ミカ殿に使って『驚かせてやれ』との命令を受けたでござる。」


 バザルは出稽古以外でも、第五騎士団に行っていたようだ。

 オズエンドルワがほくそ笑む姿が目に浮かぶ……。

 悔しい。


(……これ、ナイフ術を身につけたからって、何とかなるものなのか?)


 しっかりとした基礎ができた者と、身体能力に任せてただ剣を振るう者。

 その差を思い知らされた。


『そのまま進めば、行き着く先はシェスバーノだぞ?』


 オズエンドルワに言われた言葉を、ミカは思い出していた。

 バザルが少し真面目な顔になる。


「どうやってもミカ殿には魔法の才では敵わないでござるが、こっちは拙者の道でござるからな。」

「魔法はねぇ……。 ミカ君はもう、今年の目標を達成しちゃってるからね。 また初日で全部習得しちゃったよ。」

「聞いたでござる。 まったく、意味が分からないでござるよ。」


 バザルが呆れた顔になった。

 懸念だった【竜巻】も、普通に習得できたのは自分でも驚いたけど。

 【竜巻】はミカの予想通り、一瞬だけ急激に吸い込む、上昇気流が発生する【神の奇跡】となった。

 自分すら吸い込まれかねないほどの大気の流れなので、封印が確定しましたが。


「むしろ拙者は、それだけ魔法の才があるのに、何でこんなに短剣ショートソードの訓練をするのか、そっちの方が不思議でござる。」


 何でと言われても、基礎となる身体能力を上げることは、【身体強化】の効果を高めることに繋がるからだ。

 最近は本気で素の状態で戦えるようになりたいと思う様になってきたが、今のままでも【身体強化】を使えば騎士を圧倒することは可能だろう。

 しかし、この考えの答えが『シェスバーノ』と言われると、それでいいのだろうか?と真剣に悩んでしまう。

 何より、今のミカでは【身体強化】を使ってもオズエンドルワには敵わない。

 飛行を使ったりと魔法を駆使すれば、それでも負けはないのだろうが。


 自分の戦闘のスタイルを、本気で悩み始めたミカなのだった。







■■■■■■







 水の2の月、1の週の月の日。

 騎士学院の演習場。

 先日から何度か隣にある馬場に乗馬の訓練で来たが、今日は演習場こっちに用がある。

 そう。

 ついにサバゲーの解禁である。


「ミカ君、嬉しそうだね。」


 じっとしていられず、思わずラジオ体操を始めてしまったミカに、リムリーシェが声をかける。


「この日をどれだけ待ちわびたことか!」


 ミカがにこにこしながらリムリーシェに答える。


「そんなのは、あんただけよ……。」


 だが、やや緊張気味のツェシーリアが、恨めしそうな目でミカを見ていた。

 なぜツェシーリアがこんなに緊張しているかと言うと、この演習は魔法士だけで行うものではないからだ。

 王都の騎士学院に通う、全国の騎士学院から選抜されてきた学院生との合同演習なのである。


 最近の授業では、この演習での注意事項やルールが説明されていた。


 ・魔法士は”変換光の腕輪”を装備。

 ・参加するすべての者は、”変換光検知の腕輪”を装備。

 ・二手に分かれ、それぞれ拠点の水晶を守る。

 ・拠点の水晶は動かしてはならない。

 ・拠点の水晶は”変換光の腕輪”を使った、”変換光”でのみ破壊できるものとする。

 ・水晶破壊のための”変換光”の回数は知らされない。


 大雑把に言うとこんな感じ。


 魔法士は”変換光”で敵拠点の水晶を破壊することが求められるので、必然的に参加資格は【爆炎】か【吹雪】のどちらかが使えること、となる。

 一組にいる子で、たまたま両方相性が悪くて取れませんでした、という子はいない。

 毎年、一組にいるような子は必ずどちらかは取れているものらしい。


 一つのチームに魔法士は四~六人程度。

 騎士は二十~三十人くらい。

 ただし、演習場全体を使った大規模な演習をすることもあり、その場合は一つのチームで魔法士が十~二十人以上、騎士も百~百五十人以上なんてこともあるらしい。

 演習場は一辺が数キロメートルもあり、その中に平地、丘、森林、小さいながらも河川もあり、拠点はその都度いろいろな場所に設定される。


 魔法士六人、騎士三十人とした場合の、基本的な編成は

 魔法士二人、騎士六~八人で一隊。

 これを三隊作って攻撃、残りの騎士が拠点防衛というのが多いという。


 魔法士を分けず、一塊で一気に突破して水晶破壊を狙うという作戦もありだが、下手すると一回の【神の奇跡】で全滅する可能性もある。

 その時々でどういった作戦で行くかは、チームで話し合って決めるらしい。


 敵拠点の水晶の破壊で勝負がつくので、防衛に魔法士を置いておく意味はあまりない。

 【神の奇跡】による”変換光”で敵の魔法士や騎士を倒すこともできるが、使える【神の奇跡】の回数にも各々で限りがある。

 敵拠点まで辿り着いても、「もう【神の奇跡】を使えません。」では意味がないので、魔法士はすべて攻撃に割り振るのが基本だ。

 水晶破壊のために何回【神の奇跡】を使う必要があるのかも分からないので、とにかく一人でも多くの魔法士を敵拠点に運ぶことが重要になる。


 演習では【身体強化】と【癒し】は”変換光の腕輪”に阻害されず使用可能。

 ただし、攻撃を受けて「やられた」と判定された者は【癒し】を使っても復活することはできない。

 また、【戦意高揚】などのバフは無しとされる。


 攻撃を受け「やられた」と判定する条件は三つ。


 ・”変換光検知の腕輪”が反応した。

 ・騎士は剣の攻撃に反応する腕輪を装備していて、それが反応してもだめ。

 ・魔法士は騎士と相対した時、武器を手放せば降参扱い。


 最後の降参は認められているが、一合も合わせず武器を手放せば根性なしヘタレの称号を戴くことになる。

 何のためにこれまで短剣ショートソードなどの訓練をしてきたんだ?ということだ。







 演習場の入り口付近には、上級生の魔法士や騎士が整列している。

 さすがに慣れているのか、ミカのように浮かれたり、他の子供たちのようにびくびくしたりしていない。


「いやぁ、楽しみだなー。」

「楽しみにしているところ悪いが、お前はこっちだ。」


 そう言って、後ろから体育会系ケフコフがミカのローブをむんずと掴み、持ち上げる。


「は? 体育会系せんせい!? 何してんの!」


 皆がぽかーんと見ているうちに、体育会系ケフコフが宙ぶらりんのミカをそのまま運んで行く。

 そうして、百人以上の上級生が整列している前に連れて行かれる。

 整列していた上級生たちがざわざわと騒ぎ出した。


「それじゃあ、お願いします。」

「はい、確かに。」


 おそらく上級生の指導の講師と思われる人に、ミカが受け渡される。

 女性の講師だが、タイプとしてはケーリャに近い。

 そして、相変わらずミカは宙ぶらりんの猫のままだ。


ミカおまえじゃ、おそらく中等部こっちではロクな演習にならん。 高等部そっちでしっかりと揉まれて来い。」


 そう言って、体育会系ケフコフはミカに背を向けて戻って行く。


(ま、待って! 意味分かんねーよ!? 置いて行かないでえー!)


 ミカは手を伸ばすが、体育会系ケフコフは一度も振り返らず行ってしまった。


(…………俺、何か悪いことしました……?)


 何が起きているのか、さっぱり理解できなかった。

 そんな、茫然とするミカに、女性の講師が苦笑する。


「ミカ君、初めまして。 私はツァトーラル。 騎士学院の演習担当講師よ。 ミカ君は高等部こっちで面倒を見るように指示を受けているの。 よろしくね。」

「……また謎の指示ですか?」


 どっからか飛んで来た指示らしい。


「謎の指示? 私は魔法学院そっちの学院長に頼まれたんだけど。」


 モーリスじじいかよ!

 いつも寝てるような顔をしているが、本当に寝惚けてるんじゃないのか?


(……モーリスじじいに指示を出した奴ってのもいるのかもしれないが、口を出し過ぎじゃございませんこと!?)


 ツァトーラルがミカを地面に下ろす。

 整列しているが、少々ざわつく学院生の方に向き直る。


「今回から高等部の演習に参加する、中等部のミカ君だ。 貴様ら、面倒見てやれ。」


 ツァトーラルは、それまでと打って変わって、厳しい口調で伝える。

 しかし、その瞬間に黄色い歓声が上がる。


「「「キャアーーーーーーーーッ!」」」

「「「ミカ様よぉ!!!」」」

「うそぉ!? 一緒に演習できるの!?」


 主に魔法士のお姉様の集まった辺りから声がする。

 そして、黄色い歓声に掻き消されそうだが、騎士たちからも若干戸惑いの声がする。


「中等部? 初等部の間違いだろう?」

「あんなガキの面倒を見るのか!?」

「おいおい……、勘弁してくれよぉ。」


 ざわつく学院生たちは、一向に落ち着きそうにない。

 隣に立つツァトーラルから、ヤバそうな気配が漂い始めた。

 ミカは咄嗟に耳を塞いだ。


「静かにせんかっ、馬鹿者がぁっっっっっ!!!!!」


 耳を塞いでも、ビリビリと伝わる、とんでもない声量。

 オズエンドルワ並みの大声だった。

 離れた所に整列する中等部の学院生たちまで、びっくりしてこちらを見ていた。


「次に余計なことを一言でも話してみろっ! 営倉にぶち込んでやるぞっっっ!!!」


 凄まじいスパルタ教育だった。

 それまでの緩んだ空気が一発で吹き飛び、全員がびしっとをする。


 ていうか、営倉があるのかよ!

 魔法学院では営倉など聞いたことないが、騎士学院にはあるのだろうか?


「ノスラントスッ!」

「はっ!」


 ツァトーラルが名前を呼ぶと、一人の騎士が列の前に駆け足でやって来た。


「貴様のチームは一名魔法士が欠員していたなっ!」

「はっ! 一名魔法士が欠員していますっ!」


 会話の仕方が、如何にも軍隊式だった。


「よし! なら、貴様のところで面倒をみてやれっ!」

「はっ! 了解でありますっ! 自分のチームで面倒をみますっ!」


 いちいち復唱するような話し方に、内心げんなりした。

 そのうち、ミカもこういう受け答えの仕方をしなければならないのだろうか。

 そんなことを思っているうちに、それぞれの拠点へ移動することになった。







 拠点として指定されたのは、見晴らしのいい丘の上だった。

 丘の上には建物などはなく、ただ水晶を置いた台だけが置かれている。

 水晶はバスケットボールくらいある大きな物だ。

 それが網目状のカバーがされ、ミカの身長ほどもある台に固定されている。

 台は下が広く、上が狭くなる形をしていて、あまりガタつかないようになっていた。

 これらは、予め係の人が設置しておいてくれる物らしい。

 演習場には多くの、こうした演習を支える人手が入っているのだという。


 丘の上には、ノスラントスのチームの二十人の騎士と、三人の魔法士が集まっている。

 ミカはノスラントスと呼ばれた騎士の横で、作戦を聞く。

 ここに来るまでに教えてもらったのだが、ノスラントスは高等部では中間くらいの実力の騎士らしい。

 だが、魔力に恵まれたようで去年【身体強化】が使えるようになった。

 騎士団では、中隊長になるには【身体強化】が必須、とまでは言わないが基本的には持っていないとなれないらしい。

 つまり、ノスラントスは幹部候補生を集めた王都の騎士学院でも、特に将来を嘱望された騎士なのだ。

 …………本人の希望を除けば。


「僕は拠点でミカ君にいろいろ説明してるから、作戦はいつも通りで。」


 ノスラントスがそう言うと、騎士たちが微妙な表情をする。


「折角魔法士が補充されたのに、拠点に置いておくのか?」


 騎士の一人がノスラントスに言う。


「いきなり連れて行ったって、何もできないだろ? ミカ君は今日は見学でいいでしょ。」


 まあ、ノスラントスの言うことも、もっともではある。


「それでも、拠点に置いておくことはないさ。 連れて行けばそれなりに役に立つと思うぜ?」


 魔法士の一人が、そう提案する。


ミカそいつ魔法学院こっちじゃ、ちょっと知られた奴なんだ。 攻撃まえに出してもいいと思うけどね。」


 どう、知られているんでしょうねえ?

 ミカは黙って、魔法士からノスラントスに視線を向ける。

 だが、ノスラントスはまったく意に介さない。


「それでもいきなり攻撃に出すよりは、教えておいた方がいいこともあるだろ? どう使うかは、次回からでいいさ。」


 ノスラントスの返答に、魔法士は肩を竦める。

 そうして、てきぱきと攻撃部隊二つと、拠点の防衛部隊が準備を整えていく。

 ノスラントスの指示を受けることなく。


(……何と言うか、まったくやる気ありませんね。)


 欠片も覇気を感じなかった。


「それじゃあ、ミカ君。 ちょっとこっちいいかい?」


 そう言って、ノスラントスが手招きする。

 手には演習場の地図を持っていた。

 ノスラントスの横に行くと、ノスラントスがミカに地図を見せる。


「ここが今いる所。 そして、こっちが敵の拠点。」


 そう言って、地図の上で指を滑らせる。

 ミカたちのいる丘を下り、途中の森林を抜けた先にある丘に、敵の拠点があるようだ。

 距離的には、直線距離で一キロメートルはないくらいか?


 ノスラントスが三百メートルほど先にある森林を指さす。

 あの森林を抜けた先に敵の拠点があるのだろう。


「あそこに人が立っているのが見えるかい?」


 次にノスラントスが指さしたのは、森林と丘の中間あたりを移動している人。

 ここからでも、赤っぽい服を着ているのが分かる。


「ああいう人がいっぱいいるけど、あれはこの演習のサポートをしてくれている人だから、無視していいよ。 ただし、何か指示してきたりすることもあるから、それには従うこと。」


 決着がついて、「状況が終了したよ」とかを教えてくれたりするらしい。

 ミカは、「ほぇ~……」と目を凝らして見る。

 横にノスラントスがいなければ、”望遠鏡テレスコープ”で確認できるんだが。


 その時、どこかからドーーーンッ!という大きな音が聞こえてきた。


「これが始まりの合図ね。」


 と、ノスラントスが教えてくれる。

 ノスラントスが後ろを振り返ると、軽く手を振って合図をする。

 それと同時に、二つの攻撃隊が丘を駆け下りて行く。


「今回は楽でいいなあ。 偵察を出す必要もないし。」


 そんなことをノスラントスが言う。


(いいのか?)


 と思わなくもないが、見晴らしのいい丘に陣取っているので、敵の攻撃隊が姿を見せてから出ても間に合うのだろう。

 【爆炎】や【吹雪】の射程は五十メートル。

 逆を言えば、水晶から五十メートルに敵の魔法士を近づけなければ問題ない。

 厳密には、更に【爆炎】や【吹雪】の半径分の距離もあるが。


 そうして、ノスラントスと雑談しながら三十分ほど「ぽけ~……」とする。

 ぽかぽかと気持ちの良い、春の陽気で眠くなってきた。


 その時、森林から誰かが出てきたのが見えた。

 七~八人くらいいそうだ。

 素早くノスラントスが防衛の騎士に合図を送り、向かわせる。

 丘に残ったのはミカとノスラントス、他二名。


「敵の攻撃隊ですか?」

「そう。 迎撃する時は、基本的には魔法士を集中して狙う。 つまり、ミカ君が参加した時も狙われるってことだから。 気をつけてね。」

「……それは、どう気をつければ?」


 ミカがそう言うと、ノスラントスが苦笑する。


 そうして、また暇な時間が訪れた。

 迎撃隊は迎撃に成功したのか、こちらに戻ってくる。

 敵の攻撃隊はその場でぼっ立ち。

 やられた者は、その場に立っているというルールのようだ。

 だが、数人は森林に戻って行く。

 戻って行く人は、魔法士を守りきれなかった敵の騎士ということか。

 討ち取られなかったので、自陣の守りに戻るのか、別の攻撃隊に合流するのだろう。


 ミカが戻ってくる迎撃隊を見ていると、また森林から誰かが出てきた。

 今度は一人だ。

 こちらに向かって走ってきながら、何やら手を振っている。

 何をしているのか分からずノスラントスを見るが、ノスラントスも分からないようだ。

 それから、戻ってくる途中の迎撃隊が一人を残して引き返し、森林に急いで向かう。

 一人は、こちらに走って戻ってくる。


「どうしたんですか?」

「さあ?」


 ミカが聞くが、ノスラントスも首を傾げる。

 そして、森から十人以上の人が出てきた。

 味方の迎撃隊の人たちが向かって行くので、おそらくは敵なのだろう。

 ノスラントスが怪訝そうな顔をしているが、やっぱり状況が掴めていないようだ。


 そうしているうちに、こちらに走っていた迎撃隊の一人が丘に辿り着く。

 肩で息をして、相当に苦しそうだ。


「魔法士ぃ! 全滅ぅ……っ!」


 それだけを何とか、声を張り上げて伝える。


「……?」


 何だろうとミカは首を傾げる。

 魔法士が全滅したのなら、引き分けなんじゃないでしょうか?

 拠点の水晶を破壊できるのは、魔法士の”変換光”だけなんだから。


 だが、隣にいたノスラントスが「あ!」と声を上げる。

 ノスラントスを見ると、ノスラントスもミカを見ていた。

 その表情は驚きと言うか、焦りの表情で固まっていた。


「…………魔法士が全滅したんだ……。 ミカ君以外の。」


 俺以外……?

 その意味が分かった瞬間、ぞわぞわ……と鳥肌が立った。


 敵の魔法士が全滅したなら、こちらの負けはなくなった。

 しかし、敵からすればミカという魔法士が残っている以上、負けか引き分けの瀬戸際。

 だから、残った十人以上の騎士全員でこちらに攻撃を仕掛けてきたのだ。

 ミカという、キーパーソンを葬るために。


「嘘でしょ……。」


 ミカは丘の上から、味方の迎撃隊がやられるのを見た。

 そして、十人の騎士がこちらに向かってくるのを、茫然と見つめるのだった。




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