第152話 自動化への挑戦




 土の3の月、5の週の水の日。

 王都に戻る日になった。

 朝早くだというのに、村の北門には多くの人が見送りに来てくれた。

 まるで、ミカが魔法学院に旅立った日を思い出すような光景。

 だが、残念ながら今回見送りに来てくれたほとんどの人の目的はミカではない。


 ミカはちらりと人だかりを見る。

 そこには、沢山の人に別れを惜しまれるキスティルとネリスフィーネ。

 あっという間にこの二人はリッシュ村の人気者になってしまった。


 ミカが苦笑していると、横にいたホレイシオが話しかけてくる。


「ミカ君たちが王都に戻ってしまうと、寂しくなるね。」

「そう言ってくれるのはホレイシオさんだけです……。」


 ミカはほろりと涙を零し、目元を拭う。

 まあ、嘘だが。


 ホレイシオは、あの日と同じようにコトンテッセまで送ることを申し出てくれたが、お断りさせてもらった。

 人目が無くなったら飛んで帰るつもりなので、それを説明する訳にもいかず「大丈夫ですから」で押し通す。

 ホレイシオもそんなミカに何かを察したのか、「何かありそう」と思っても深くは追及しないでくれた。


 ネリスフィーネがラディと挨拶を交わしているのが見えた。

 この二人はとても気が合うようで、すごくすごく仲良くなった。

 光神の二人の話題など、勿論決まっている。

 だが、二人の話題で一番に盛り上がったのはそっちではなかった。

 ミカである。


 ラディは工場の火事で、まだ小さかったミカが如何に勇敢であったかを語った。

 誰に教わることもなく【神の奇跡】を習得し、五人もの村人の命を救った奇跡の話を。

 そんな、いろんなものが盛り盛りのラディ・フィルターを通した話を、ネリスフィーネが目をきらきらさせて聞いていた。


 そして、ネリスフィーネがお返しとばかりに語るのだ。

 ミカの持つ”解呪ディスペル”という奇跡の力のことを。


「私は、ミカ様はアポストルではないかと思うのです。」


 そう、きらきらとで話すネリスフィーネに、ラディが喰いついた。

 何というか、一体誰の話をしてるの?と確認したくなるようなお伽噺で盛り上がる二人に、キスティルすら苦笑していた。

 まあ、怖くて確認なんてしないけどね。


 ちなみに、アポストルが”神々の遣わし者”などという大層なものだというのは、キフロドが教えてくれた。

 そして、そんなキフロドも二人に呆れた顔を向けていた。


「……まるでラディが二人いるようじゃの。」


 キフロドのその呟きは、今でもミカの耳に残っている。

 心底呆れているようだった。

 ミカの頭の中には、「混ぜるな危険」という言葉が浮かんでいた。


 キフロドには神の子と迷い子の違いなども教えてもらった。

 だが、前にネリスフィーネに教えてもらったこと以上のことは分からなかった。

 そして、アートルムやフィリウス・デイというのも聞いてみたが、やはり聞いたことがないという。

 これで赤茶けた髪の青年についての手掛かりは、ゼロであることが確定した。

 あとは、シェスバーノの頑張りに期待しよう。


 ミカはアマーリアやロレッタ、ニネティアナにディーゴと順に挨拶を済ませて行く。

 そして、皆から「嫁を大事にするように」とのお言葉をいただいた。

 もはや何かを言い返す気にもならなかった。


「お世話になりました。」


 ミカは村長に声をかける。

 村に来た時は多少のわだかまりもあったが、食事を振る舞う会などで協力してもらううちに、そのわだかまりも気にならない程度のものになっていた。

 ミカの嫁が来たぞ騒動でも鎮火に協力してくれたようで、現在ミカの中で村長の評価がうなぎ登りである。


「家のことは何かあれば君にも知らせるから、安心して学院で学んで来なさい。」

「よろしくお願いします。」


 そうして、村の人に見送られながらリッシュ村を出る。


「今からだと相当飛ばさないと夕方に王都に着かないから、帰りは飛ばすからね。」

「う、うん。 ミカくんにしがみついておくから大丈夫……。」

「そこまでじゃないよ。 僕が普段飛んでる時と同じくらい、ってだけだから。」

「それなら、大丈夫そうですね……。」


 キスティルとネリスフィーネが、やや不安そうな顔をしている。

 だが、夜になると王都の第二外壁の門が閉められてしまう。

 そうなると、王都に入れず第三街区で一泊するか、直接王都に潜入することになる。

 ネリスフィーネを連れて来た時は王都に直接入ったが、二人を連れた状態ではそれは避けたい。

 第三街区にも宿屋はあるので最悪それでもいいのかもしれないが、できれば間に合うように帰りたかった。







■■■■■■







 そうして帰って来た我が家。

 だが、キスティルとネリスフィーネは大変お疲れのようだ。

 やっぱり、休憩はあっても何時間もしがみつくのは大変だったらしい。

 当然だけど。

 行きと違って、帰りは休憩の回数も時間も短くしたからだ。

 おかげで門を閉められる前に戻ってくることはできたが、二人はへろへろである。


(……ぶら下がるんじゃなくて、背中におんぶする形の方が二人は楽なのかな?)


 ”吸収翼アブソーブ・ウィング”のことがあるので背中を空けておきたかったが、別に背負っていても問題ないかもしれない。

 今度、ハーネスを改造してもらおうか。


「湯場を用意するから、先に行ってきなよ。 二人とも今日は早く休んで。」

「うん、ごめんね。 そうさせてもらうね。」

「すいません、ミカ様。」


 さくっとミカがお湯を用意すると、二人は一緒に湯場に入りに行った。

 ミカは二人が湯場に行っている間に、帰省中に届いた郵便物を確認する。

 といっても、冒険者ギルドからの『指名あり』の連絡しかないが。

 ”呪いの排除”については現在は受け付けを停止してもらっているので、変化があるのは預かりの呪物だけである。


「六件か……。」


 まあまあの数だ。

 帰省関連で使ったお金の大半が稼げる。


 ミカがギルドからの連絡を見ていると、フィーが廊下からやって来てミカの肩に止まった。

 そういえば移動中は瓶に入っていたのだった。

 ミカがお湯を用意しに行っている間に、出してもらったのだろう。


「そういえば、フィーおまえはこの家に取り憑いた”何か”じゃないのか?」


 どうしてリッシュ村まで来れたのだろうか。

 ”不浄なる者”ではなさそうだが、じゃあ一体何なのさ?というのがさっぱり分からない。

 最初はキスティルが気に入っているようだし、害が無いなら落ち込んだキスティルの気が紛れるならと、そのままにしていた。

 ヤロイバロフに聞こうかとも思ったが、そのうちミカ自身にも僅かながら情が湧いてきた。


 言葉を解し、意外に素直だ。

 庭にいる時に家の中に戻るように言っても、キスティルやネリスフィーネに泣きついて従わないこともあるが、そうした行動も何となく憎めない。

 動きがコミカルだからだろう。

 本当にペットでも飼っているような気分にさせるのだ。


「……餌代はかからないし、吠えないし毛も落ちない。 面倒な注射の接種も無いしな。」


 安上がりなペットだ。

 メダカ一匹だって飼えば餌代がかかる。

 水槽の掃除やら何やらも必要になる。


 ミカが肩に手をやると、ひょいっとフィーが躱す。

 そうして目の前をふよふよ~と浮かぶフィーを、じぃー……と見る。

 ミカは素早く掴むように手を出すが、それもフィーは軽く躱す。

 まあ、掴もうとしても掴めないんだけどね。

 ただの光だし。

 ミカは蚊でも掴むように、素早く何度も手を繰り出すが、フィーは素早く躱していく。


 ガタン。


 ミカは椅子を鳴らして立ち上がると、ちょっと本気になって手を繰り出す。

 そのうちフィーもノってきたのか、はたまたいい加減にしろと怒っているのか、ミカの顔面に突進してきた。

 しかし、ミカはそれをスウェーやウェービング、ダッキングを駆使して躱していく。


 傍目には、シャドーボクシングをしているようにも見えるだろうが、勿論この世界にボクシングなどというスポーツは存在しない。

 なので、そんなミカを目撃した人は、この人は一体何をしているのだろう?と疑問を持つことになる。


「ミカ様……。」

「ミカくん?」


 この二人のように。

 キスティルとネリスフィーネは、息を切らせてフィーと戯れるミカを、困ったような目で見ていた。


「あの……湯場が空いたのですが。」

「あ、ああ、そうだね。 僕も汗を流してこようかなあ。 あ、あははは……。」


 ちょっとだけ、恥ずかしかった。

 ミカは笑って誤魔化すが、フィーは何度もミカの顔面にぶつかって来る。

 もっと遊べということだろうか。

 そんなフィーを軽く払い、ミカは湯場に向かった。







■■■■■■







 土の3の月、5の週の土の日。

 長期休暇は明日まで。

 ということで、ミカは冒険者ギルドで預かっている、溜まった呪物を解呪することにした。


「ふぅー……。 残り一個か。」


 時間は昼過ぎ。

 午前中に五個の呪物の解呪が終わり、最後の一個になる。


 ミカは昼食を摂りに、外に出る。


「チレンスタさんには、結局会えないままになっちゃったなあ。」


 正式な本部への異動は明日からのはずだが、すでにほとんど本部にいるような状態らしい。

 大変な役目を負うことになるようなので、本当に無理だけはしないでもらいたい。


 ミカはギルドに近い、ちょっとお高めのレストランの外観を眺め、中に入った。

 元独身貴族としては、ぼっちメシはまったく気にならない。

 そこがレストランであろうと、焼き肉屋であろうと。


「シチューとパン四個。」


 案内された席で、席に着くとすぐに注文する。

 これが美味いよ、と朝ギルドで会ったガエラスが教えてくれたのだ。

 このレストランは、今月オープンしたばかりのお店。

 ミカが帰省する前はまだ開いていなかったのだ。


 注文すると、すぐに持ってきてくれた。

 シチューは、ビーフシチューのような感じ。

 だが、今日の一番のメインはこいつではない。


「おおお……、本当に白パンだ。」


 この世界に来て、初めて見た。

 ふんわりとした、真っ白いパン。


 ミカはシチューをそっちのけでパンにかぶりつく。

 雑身がなく、小麦の味をしっかりと感じる。

 だが、非常に軽く、そして柔らかい。

 ちゃんと発酵をさせているからだ。


(この世界にも、白パンがあったんだなあ。)


 思わず感動してしまう。


(酵母があれば、家でも作れるかな?)


 何となくだが、酵母の作り方は知っている。

 料理をロクにしないミカがなぜそんな方法を知っているかというと、ニュースになったからだ。


『ドライイーストが世界中で品切れ。』


 確か、そんな見出しだった気がする。

 少々大袈裟な見出しだが、一時期ドライイースト不足が一部で騒がれたことがあったのだ。


 感染症の世界的な流行で、外出の自粛が叫ばれた。

 その時に、自宅でできる暇潰しがいろいろと流行った。

 ゲームや定額の映画視聴サービスなんかがその代表だが、その時密かに流行した物がある。

 それがパン作りだ。

 時間もあるし、手作りパンでも作ろうか、と持て余した時間の使い道の一つにパン作りを選ぶ人がいた。

 ところが、普段そこまで売れないドライイーストのいきなりの需要増加にメーカーが対応できる訳もなく、あっという間に品切れになったのだ。

 そうしてドライイースト難民が溢れた時、海外の学者か何かがSNSでアドバイスしたのだ。

 酵母は自分で簡単に作れるよ、と。

 そのアドバイスの詳細な紹介とともに、ネットニュースの記事になったのを久橋律が見た、という訳だ。


(……でも、普段パンは買ってきてるからなあ。 作り方を教えると、まるで『作れ』って言ってるようなもんか?)


 もしゃもしゃとパンを食べながら考える。

 パンは基本的に数日分をまとめてパン屋で買ってきているのだ。


(そういえば、家には窯もないか。 じゃあ、どっちにしろ作れないね。)


 ”石弾ストーンバレット”をレンガ状にしてやれば、窯を組むのは簡単だろうが、わざわざ窯を作るのもやっぱり『作れ』と言っているようなものだろう。


(こういう美味しい物もあるよ、って今度二人を連れて来てあげようかな。)


 それで興味を持てば「用意できるけど、どうする?」みたいな感じか。

 まあ、確実にやってみたいと言いそうだが。


(窯があればピザとかグラタンも家で作れるな。)


 ミカはシチューをスプーンで掬い、食べてみる。


(うん、美味い。 これは確かにガエラスが勧めるだけあるな。)


 情報屋にも得意の分野というのが多少あるようで、ガエラスは美味しい店の情報を得意分野の一つとしている。

 ただし、これはほぼ自分の趣味らしい。

 ヤロイバロフは美味しい物が食べたいと自分で作ることを選んだが、ガエラスは美味しい店巡りをしているのだとか。

 これは、完全にミカと思考が一致している。

 ミカも美味しい物が食べたければ美味しい店に行けばいいじゃない、という考えの持ち主だ。


 そんなことを考えながら昼食を終え、ギルドに戻る。

 あまり沢山食べては眠くなると、抑え気味にしたがいまいちやる気が出ない。

 左手に持った、二足歩行の猫がダンスしているような変な置物を見る。

 変な置物だが、金と宝石がふんだんに使われ、今日解呪する物の中では一番強い呪いを持っている。


(パズル一個遊ぶだけで百万ラーツだってのに、やる気が出ないとか。 本気か俺は。)


 贅沢を言うようになったものだ。

 しかし、朝からずっと同じような作業ばかり。

 もう少しパズルにバリエーションが欲しい。


(……それが贅沢だってことなんだけどな。 仕事なんだから、面白い面白くないじゃないだろ。)


 最初のうちは楽しいのだが、基本的なアプローチの仕方はどれも同じだ。

 そのうち、単調な作業に飽きてしまう。


(これ、自動化できないか……?)


 やることは決まっているのだ。

 干渉できる場所を探す、探索サーチタスク。

 干渉し、解錠パターンを総当たりで試す、解錠アンロックタスク。

 基本はこれらを交互に行うだけ。

 ミカが自分でやる分には、ひたすらこれを繰り返している。

 決まった処理を延々繰り返すなど、プログラムのもっとも得意とするところだ。

 ただし、問題はこれがプログラムではなく、魔力操作だということ。


(これ、上手くいったら本当に”解呪ディスペル”の魔法になっちゃうね。)


 ミカの口の端が上がる。

 ちょっとだけ楽しくなってきた。


(それぞれ専用のタスクをする魔力を作って、状態を確認してそのタスクを切り替えるタスクを作って……。)


 大まかには全体を制御するメインタスクを作り、そこから呼び出されるサブとして探索サーチタスクと解錠アンロックタスク。

 細かな部品としては、呪いの状態を確認して、探索フェーズなのか解錠フェーズなのかを判定する機能が必要だろう。

 念のために、いつまでも探索サーチ解錠アンロックが終わらなかったらエラーを返す”無限ループ”回避も作っておくか?

 解呪が進んでいると思い込み、実はまったく進んでいなかったなんて状況を回避する処理も入れておこう。

 ミカの知らない、出会ったことのない解錠パターンも無いとは言えないからだ。


 とりあえず、これらを実現する魔法を試してみる。

 ミカは変な猫の置物を手に、目を閉じ、じっと集中する。

 今日一番の集中だろう。

 途中、紅茶を入れ替えに来てくれたギルド職員がいたが、”解呪”の魔法の構築に集中した。

 いつもはにこやかにお礼を言うミカが、こんなに集中しているのを見るのが初めてだった職員は、息を潜めるように静かに紅茶を入れ替えていった。


(……探索サーチタスクがエラー? 何でだ? ……干渉できる場所はここにあるじゃないか。)


 自分で呪いを確認してみると、簡単に干渉できる箇所が見つかった。

 上手く動作しない原因が分からない。


 探索サーチタスクの動きを、じっと観察する。

 感度がいまいち低いようだ。

 魔力を注ぎ込んで感度を上げてやると、今度は上手く動いたようだ。


(…………ん? 解錠アンロックタスクでエラー?)


 何でだよ。

 試しに自分で干渉すると、あっさりと解けた。

 次の干渉できる場所での解錠アンロックタスクの動きを観察する。

 おそらく動きが大き過ぎるのだろう。

 もっと微細な動きをするように修正する。


 そんなことを延々と繰り返す。

 何度「ブレークポイント仕掛けてえーーーーーーっ!」と叫びそうになったことか。

 ちなみにブレークポイントとは、プログラム上の任意の場所で処理を停止させる機能のことである。

 その時プログラム上で正常な値が扱われているかとか、以降の処理の流れが正しく進むかなどを確認する、プログラムを組む上で必須といえる機能だ。

 当然、視覚化されていないミカの解呪には、搭載したくても搭載不可な機能である。


 四時間くらい集中してやっていたが結局上手くいかず、一旦諦めて自分で解呪した。

 三十分くらいで終わった。


(……くっ。 これくらいのこと、日常茶飯事だったじゃないか。)


 手でやればすぐに終わるようなことをプログラムでやらせると、作成するのがえらい大変だったことなど、ごく当たり前のようにある。

 それでも、一度できてしまえばあとは完全に任せられることこそが自動化の強み。

 何より人為的ミスヒューマンエラーがない。

 今苦労しても、完成すれば後が楽になるのだ。

 そう信じて、”解呪ディスペル”の魔法開発は続けて行こう。







「あの置物は本当に大変だったのね。 ご苦労様、ミカ君。」


 とりあえずすべての解呪が済み、応接室を出た所でユンレッサにばったり会った。

 どうやら、中々解呪の終わらないミカを心配して様子を見に来てくれたようだ。


「すいません、手間取っちゃって。」


 ”解呪ディスペル”の開発中などとは言えないので、適当に誤魔化す。


「そんなのはいいのよ。 それで、全部終わったの? 今日はもう終わり?」

「はい、終わりました。 解呪できた物をカウンターに届けようと思ったんですけど。」


 応接室に置きっ放しにする訳にもいかず、魔法具の袋に入れてあるのだが。


「それじゃあ、悪いんだけど応接室ここでちょっと待っててくれる? 手続きする道具を持って来ちゃうわ。」

「すいません。 ありがとうございます。」


 そう言って、ミカは再び応接室に戻る。

 応接室で待っていると、ユンレッサがすぐに戻ってきた。

 他にも二人の職員がついて来た。

 一人の職員がミカの解呪した物を一つひとつ確認していく。

 おそらく【鑑定】の【技能スキル】を持っているのだろう。


 すべてを確認し、問題ないとユンレッサに頷いてみせる。

 それを待ってからユンレッサが手続きを始める。


「それじゃ、ミカ君。 ギルドカード貸してもらえる?」


 そう言うユンレッサに、ミカはカードを手渡す。

 その間、二人の職員が六個の依頼の品を回収して、応接室を出て行った。

 これから依頼者クライアントに返却する段取りをしてくれるのだろう。


「……ウクッ!? ケホコホッ……!」


 その時、ユンレッサが急にせた。

 唾液が気管に入っちゃった?

 それ、頻繁にあると嚥下えんげ機能の低下のサインらしいですよ。


「ケホッ……! ミ、ミカ君っ!?」


 何やら焦ったような様子のユンレッサ。

 もう少し落ち着てからしゃべった方がいいですよ?


「と、討伐記録が、三千件近くあるんだけどっ!?」

「ん?」


 …………………………。

 あ。


(リッシュ村の森で間引きした分だ。 すっかり忘れてた。)


 言い訳を何も考えてなかった。

 ほとんどが小型のザコだろうけど、ちょっと遭遇しちゃったんで狩っときました!で済む数じゃねーよな、これ。


 ミカが気まずそうに視線を逸らすと、ユンレッサがじと目でミカを見る。


「……もう! また何か無茶したの? ”単眼巨人サイクロプス”なんて、一体どこにいたのよ。」

「あ、あははは……。」


 笑って誤魔化した。







 魔力の引き取りだけで金貨四枚以上になりました。




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