第83話 Cランクのクエスト




 水の2の月、1の週の土の日。

 夕方近くまでリムリーシェの特訓に付き合い、今は冒険者ギルドに向かって走っている最中である。

 とりあえず惰性で続けているリムリーシェとの特訓だが、本当にやることがない。

 さすがにもういいんじゃね?と思うが、ミカがそのことに言及しようとすると、ツェシーリアが睨んでくる。


(あいつ【気配察知】の【技能スキル】でも持ってんのか?)


 ミカも欲しい【技能】だが、残念ながらどうすれば習得できるのか分からない。


 ギルドに着くとフロアはそれなりに混んでいるが、以前の様に混雑はしていなかった。

 これくらいの混み具合ならサーベンジールでも時々あったし、冒険者のイライラも限界を超えないで済むのではないだろうか。

 ミカとしてはもう少し落ち着いてほしいが、まだ効率化対策を始めて一カ月も経っていない。

 今後もいくつか手を打っていくようなので、チレンスタの手腕に期待したいと思う。


「さて、いいのが残ってればいいんだけど。」


 ミカは掲示板を見上げる。

 明日の陽の日に向け依頼書を確認し、可能なら受けておこうと思いギルドまでやって来た。

 以前試して定額クエストには見切りをつけ、今後は依頼書中心に活動していこうと思っている。

 だが、やはりミカの受けられる依頼は少ないし、報酬もいまいちなものが多い。

 Eランクのミカでは受けられる依頼はDランクまでだが、そうなると高くても金貨一枚、十万ラーツが精々だ。

 毎週必ず受けられるならそれで充分だが、依頼が出ていなければ受けたくても受けられない。


 ミカは念のため、Cランクの依頼書にも目を通す。

 今のミカではCランクの依頼はカウンターに報告しても受注できない。

 だが、そのクエストを絶対にやれないかと言うとそうでもない。

 たまたまばったり遭遇した魔獣を狩って、それが依頼の出ていた魔獣だった場合、事前に受注していなくてもちゃんとクエスト達成として認められる。

 以前にエン・バタモスを討伐したのと同じ方法だ。

 要は先に達成してしまえば、受注そのものは絶対のものではない。

 少々マナー違反の方法だし、あまり露骨にやればギルドから注意を受けることになるが、もはや手段を選んでいられる状況ではない。


「Cランク、シザ・モールの討伐。 五体以上、一体二万ラーツ。 六体目からは一体につき二千ラーツのボーナス。 …………シザ・モールって何だ?」


 王都から半日ほどの村での討伐依頼が残っていたが、魔物?魔獣?がどんな物なのか見当がつかない。

 距離も問題ないし、報酬も悪くない。

 五体縛りということは、達成すれば十万ラーツが確定する。

 しかも、さらに狩っていけば、一体につき二万二千ラーツ。

 これは今のミカには非常に美味しい依頼だ。

 だが……。


(討伐対象の魔獣が分からん。 モールってことは、もぐらか……? エン・バタモスが一体でも五万ラーツだったってことは、そこまで倒すのに苦労する魔獣でもないのか?)


 ただし、そこそこ数がいるとしたら厄介なことになるかもしれない。

 それに、ここまで残っていたことを考えれば、他の冒険者が依頼を避ける理由があるはずだ。


「シザ・モールは大きなモグラのような魔獣だ。 土の中を移動していきなり足元から襲ってくるから、非常に厄介な相手だな。」


 ミカがシザ・モールについて考えていると、頭の上から声が降って来る。

 見上げると、長い青髪の凛とした雰囲気を纏った女騎士が、ミカのすぐ後ろに立っていた。

 二十代の前半くらいだろうか。少々きつそうだが、整った顔立ちをしている。

 真剣に掲示板を見て、依頼を探しているようだ。


「あ、ありがとう、ございます。」

「ああ。」


 ミカがお礼を言うが、女騎士は掲示板から目を離さずに、熱心に依頼を探している。

 白っぽい、装飾の美しい鎧と細身の長剣ロングソード


(その鎧、白っぽい色してるのに光沢が青い……。 もしかして、”銀系希少金属ミスリル”製っすか?)


 凄まじく気になるが、とても声をかけられるような雰囲気ではない。

 依頼探しの邪魔をするのも悪いので、ミカはそっとその場を離れた。

 ギルドの外に出て、先程教えてもらった情報を考える。


「……地中を移動して、足元から襲ってくる、か……。」


 昔観た映画に、そういう怪物が出てくるものがいくつかあった。

 避け方や倒し方も様々だが、モグラだというなら姿形は想像がつく。


「……やるか。」


 覚悟を決めて呟き、虚空を睨む。

 ミカの狙うような依頼は、早々に取り尽くされてしまう。

 残っているとしたら、それは一癖も二癖もあるような、他の冒険者が避ける様な依頼だ。

 それですら、残っていたことを幸運だと思わなくてはならない。


(……正式に受注をしてのクエストじゃない。 横取りになってしまったら申し訳ないが、明日は確実に獲りに行くぞ。)


 受注できれば他の冒険者とバッティングすることは基本的になくなるが、そうではないのでこれから誰かが受注してしまうかもしれない。

 現場でバッティングしたら譲るつもりだが、できればこの依頼は物にしたい。


 目先の方針が定まり、ミカは「よし!」と気合いを入れる。

 そうして、夕焼けから薄闇に変わり始めた大通りを、寮に向かって急いで走るのだった。







 翌日の朝。

 ミカは第三街区を走っていた。

 【身体強化】を使い、"低重力ロウ・グラビティ"で少しだけ自重も減らしている。


(もっと近くに離着陸場が欲しいが、贅沢も言ってられないか。)


 ミカは飛んでいるところを人に見られないようにするため、学院から三キロメートル以上離れている森に向かっていた。

 以前に定額クエストを試した森だが、ここ以外は誰かしらに見られる危険が高い。

 例え周囲に人がいないように見えても、飛べば百メートル二百メートル離れていてもバレてしまうだろう。

 そのため、森の奥の方に入って行き、そこから飛ぶことにしたのだ。

 この森はかなり大きいが、実はあまり獣や魔獣がいない。

 昔はそれなりにいたのだが、王都の冒険者が増え、乱獲されるうちに安全な森になったという。

 それでも一キロくらい入れば獣や魔獣がいるらしいが、人に見られないという目的だけなら、そこまで入る必要はないだろう。

 二百メートルくらい入った所で"低重力ロウ・グラビティ"の出力を上げて自重を十分の一にし、”突風ブラスト”で一気に空に飛び立つ。


 そうして飛んで行くうちに目的の村の周辺に到着。

 飛行時間は三十分もかかっていない。

 もう絶対に乗り合い馬車には乗りたくないな、と心から思った。

 あまりにも時間が無駄過ぎる……。


「さてと、着陸できる場所は……。」


 ミカは空から降りるのに適した場所を探す。

 人に見られないためには、適度に村から離れ、周囲に見られないような遮蔽物に囲まれた場所がいい。

 森が遠くに見えるが少々離れすぎている。

 だが、他には周りに何もない。


「これはちょっと困ったな。」


 村は酪農で成り立っているのか、牧場のようなものが見える。

 村の周りは丘になっているようだが、人の目を遮るような物が、まったくと言っていいほどない。


「十分に離れていれば、鳥か何かだと思ってくれるかな?」


 空を飛ぶ小さな点が地上に降りたところで、それが人だとは思うまい。

 仕方なく、村とは丘を挟んだ反対側に降りることにする。

 一キロも離れていれば、人が降りたとはっきりと認識されることもないだろう。


 ミカは周囲をよく確認し、慎重に着陸を始めたのだった。







「あそこにいくつか岩があるだろう? その向こうの原っぱに潜んでるんだよ。」


 ミカを案内してくれたおじさんが、小高い丘から下に広がる草叢を指さす。

 ミカは依頼を出した村の村長に、詳細な話を聞きに行った。

 村から少し離れた草叢にシザ・モールが現れ、人や家畜が襲われるという被害が起きたらしい。

 村の周辺には放牧するための草叢があちこちにあるのだが、そのうちの一つに居ついてしまったのだとか。


「何年かに一度、一体二体は現れることがあるんだ。 だが、今年は数がやけに多くてね。 我々だけではどうにもならなくなってしまって……。」


 ミカを案内してくれたおじさんが溜息をつく。

 このおじさんは牧場の管理を任されている人で、今回の依頼者は村長ではなく、このおじさんだった。


「最初は、『ああ、いつものか』と思ってね。 村の自警団員総出で退治しに行ったんだが、逆に怪我人が続出してしまったんだ。」


 家畜に被害が出た時、村人たちで退治に行ったが被害が拡大してしまったのだという。


「早く退治しないと、いつシザ・モールあいつらが村の方に移動してくるかと、村の皆も戦々恐々としているんだよ。」


 村の中でさえ、地面からいきなり襲われるような事態になったら、その村はもうお終いだろう。

 とてもではないが、人が住めるような場所とは言えない。


「とりあえず、今のところはあの岩の場所までは安全だ。 地面の下まで岩があるのかは分からんが、あそこからこちら側には来ないよ。 ……今のところはね。」


 その話を聞き、ミカは岩の辺りに行ってみることにした。


「あ、そうだ。 あの辺の草、全部刈っちゃっていいですか?」


 ミカはおじさんに邪魔な草を刈ってもいいか聞いてみる。

 家畜の餌として考えているなら、残してもらいたいと考えているかもしれない。

 だが、シザ・モールターゲットが地面の下にいるなら、正直草は邪魔だ。


「全部かい? あー……、まあ、このままじゃどうせ使えないし……。 君に任せるよ。」

「全部は言い過ぎでしたね。 でも、それなら、邪魔だと思った所は刈らせてもらいます。」


 それだけ確認すると、ミカは岩まで走って行き、ぴょんっと飛び乗る。

 いくつかの岩の上をぴょんぴょん飛び移り、一番大きい、見晴らしのいい岩の上に陣取る。


「うん。 ただの草叢だな。」


 春となり、覆い茂った草が無数に生えているが、シザ・モールとやらの姿は見えない。


「やっぱり、ある程度は刈らせてもらわないとだね。」


 ミカは左手を地面に向け、無数の”風刃エアカッター”を発現する。

 そして、その”風刃エアカッター”を使って地面スレスレから草を刈りこんでいく。

 とりあえず、ミカを中心に二十メートルほどを刈る。


「さて、どうしたものかな。」


 地面を移動する怪物の定番の設定は「振動に敏感」ということだ。

 人の歩く振動を頼りに寄って来て、襲ってくるというのが多い気がする。


「まずは姿を拝ませてもらいますかね。」


 ミカはライフル弾の形をした”石弾ストーンバレット”を三十個作ると、それを自分の立っている岩から人が歩くように、一つひとつ地面に落としていく。

 ぽとん、ぽとん、と一メートル間隔くらいで真っ直ぐ進むように落とす。

 そうして”石弾ストーンバレット”を半分ほど使った所で、突然地面から何かが飛び出してきた。


 ドシャアアアァァーッ!


 それは土砂と刈られた草をまき散らし、二メートル近く飛び上がる。

 黒く、芋虫のような姿をした、一メートルほどの大きさの”何か”。


「…………は?」


 呆気に取られた。

 そうしてミカが目を点にして固まっているうちに、黒い何かは地面に落下し、すぐに潜っていく。


 ズザザザアァッ!


 一瞬の出来事。

 あっという間に黒い何かが地面から飛び出し、地面に姿を消した。


「えーと……。」


 何か、俺の知ってるモグラと違う……。

 大きいとは言われていたけど、それはモグラとしては大きいという意味じゃないんですか?

 あと、モグラにあんな跳躍力があるのも初めて知ったんですけど、モグラってあんなに跳ねたっけ?

 それに、は何ですか?


 あれ。

 ミカには、黒い”何か”が鋏のような物を持っていたように見えた。

 まるで蟹かザリガニかというようなでっかい鋏。

 地面に潜って行く時、ドリルのように回転しながら潜って行ったような気がする。


「……これにモールとか名前付けた奴、ちょっと連れて来い。 どこがモグラなのか説明してみろや。」


 思わず、ぼやかずにはいられない。

 イメージしていた姿と、あまりにもかけ離れ過ぎている。


(しかし、この世界の自警団ってすごいのな。 こんなのにも立ち向かうんだから。)


 アグ・ベアに立ち向かったリッシュ村の自警団もそうだが、勇敢過ぎだろう。

 敬意を表さずにはいられない。


「……まあ、どんなのかは分かった。 あとは俺のでやれるかどうか、か。」


 とりあえず、釣り方は分かった。

 あとは倒し方だ。


 ミカは”石弾ストーンバレット”を補充し、同じ方法でおびき寄せる。

 今度は十個ほどでシザ・モールが飛び出してきた。

 ミカは待機させていた”石弾ストーンバレット”三個を高速で撃ち出す。


 バシュシュシュンッ! ズシャシャッ! ドサドサッ!


 三個の”石弾ストーンバレット”を喰らったシザ・モールに穴が空き、千切れ、地面に落ちる。

 呆気なく倒すことができた。


「案外柔いな。 低防御力トウフか? あんな無茶な移動方法してるくせに。」


 地中を高速でドリル回転しているのだ。

 ある程度の固さがないと、擦れる石でズタズタになるのではないだろうか?


「ん?」


 先程倒したシザ・モールが地面に落ちている。

 そして、そこに別のシザ・モールが来て、顔を出していた。


「……食ってんのか?」


 死骸の共食いくらいは魔獣なら普通だ。

 ミカは呑気に顔を出してお食事中のシザ・モールに、”石弾ストーンバレット”をお見舞いする。


トウフこれなら一発でも十分か。」


 簡単に狙いをつけると”石弾ストーンバレット”を撃ち出す。

 ”石弾ストーンバレット”は狙い通りにシザ・モールに命中する。

 だが、当たったはずの”石弾ストーンバレット”の軌道が僅かに逸れて、狙ったシザ・モールの後ろに着弾する。


「え?」


 ミカに狙われたシザ・モールは、慌てて穴の中に引っ込んでいった。


(なんだ? 今の当たったよな?)


 当たったはずの”石弾ストーンバレット”の軌道が変わってしまった。

 どういうことだろう?


「表面が滑りやすい粘膜で覆われている……? もしくは、柔らかすぎてしっかり当てないと力が伝わらないのか?」


 どちらにしろ、最初の一体は倒せたのだ。

 まったく効かないというわけではないだろう。


「あーあ、油断して一体逃しちゃったか。 こんなのばっかりだな。」


 ミカの油断癖は中々治らない。

 まあ、これも経験と言えば経験だろう。


「三個を一セットとして攻撃。 やり方は分かったんだ、確実に仕留めていこう。」


 こうして、大量の”石弾ストーンバレット”を使い、一体一体確実に倒していく。

 一時間もしないで、八体ほどを片付けた。







「いやあ、すごいねえ。 危なげなく、これだけのシザ・モールを倒しちゃうんだから。 おじさんたちなんか、一体を倒すのにも皆で命がけなのに。」

「まあ、普通は危ないですよね。 思ったより凶暴で、僕もびっくりしました。」


 ミカがシザ・モールを倒していると、途中でおじさんが丘を下りてやって来た。

 丘の上からミカがシザ・モールを順調に倒していくのを見て、見学したくなったのだとか。

 詠唱しないでばんばん魔法使っちゃってるけど、仕方ない。

 まさか、依頼人クライアントに「あっち行け。」とも言えない。

 おじさんはあまり【神の奇跡】に詳しくないのか、特に何も言ってこなかった。

 そういうもんか、と思っているのかもしれない。


 しかし、ここ十分くらいはまったくシザ・モールが釣れないでいた。

 八体目を倒してから百個くらい”石弾ストーンバレット”をあちこちに撒いているが、一向に出てこない。


「出ませんねえ。 ……こんなもんなんですかね?」

「うーん。 まだいそうな気がするけど……出て来ないのなら、こんなものなのかな?」


 ノルマの五体はすでにクリアしている。

 これで良しとしても問題はないのだが……。


「よっ、と!」


 ミカは岩から飛び降りる。

 草叢側に。


「き、君っ! 危ないよ!」

「安全確認もしないで、『これで良し』とは言えませんよね? ちょっとぐるっと歩いてきます。 あ、おじさんはこっち来ないでくださいね。」


 そう言って、ミカは草叢のど真ん中に向かって歩き出す。


(”地獄耳ビッグイヤー”と"低重力ロウ・グラビティ"を有効にして、【身体強化】は四倍。 で、この場合はこうして、こうなったら……あーすればいっか?)


 ミカは頭の中でシミュレーションしながら草叢を歩く。

 進行方向の草は”風刃エアカッター”で刈り、”地獄耳ビッグイヤー”でシザ・モールの音を探す。


(あんなドリルで進んでるんだから、音はそれなりに出してるんだろ?)


 そんなことを考えながら歩いていると、すぐにこちらに向かってくる音に気づく。

 そして、十分音が近づいたところで真上にジャンプ。

 "低重力ロウ・グラビティ"で自重を減らし、【身体強化】もプラスしているので、ミカは簡単に十メートル以上飛び上がる。

 それまで自分の歩いていた場所に左手を向けて狙いを定めていると、シザ・モールが飛び出して来た。


「やっぱりいたね。 待ってたよ。」


 ”石弾ストーンバレット”三個を撃ち込み、シザ・モールを倒す。


 そうして着地すると、そのまま何事もなかったように歩き出す。

 歩く時は振動をしっかり伝えないといけないため自重を元の状態に近くし、ジャンプする時に軽くする。

 何気なく歩いているように見えるが、実は結構忙しい。

 ”風刃エアカッター”、”石弾ストーンバレット”、”地獄耳ビッグイヤー”、"低重力ロウ・グラビティ"を駆使して、釣られてきたシザ・モールをどんどん狩っていく。


(……でも、あんなドリル回転しながら進んで、どうやってこっちの歩く振動なんか感知してんだ? 自分の立てる振動の方が遥かに大きいだろうに。 ……振動で寄って来てるわけじゃないのか?)


 これは是非、魔物・魔獣学の研究で解明してもらいたい。

 気になって夜も眠れなくなる、……というほどではないが。


 こうして一時間以上かけて、草叢を縦横無尽に歩き周り、さらに十一体のシザ・モールを狩った。

 合計十九体。ボーナス込みで四十万八千ラーツ也。


(Cランクの依頼って、すっげー! 一回で金貨四枚以上かよ!)


 ミカは単純に喜ぶが、シザ・モール討伐の依頼は本来、そうそうこんな高額の報酬にはならない。

 地中から襲ってくる魔獣に警戒して神経をすり減らし、襲って来ても一撃離脱ですぐに地中に逃げてしまう。

 体表を覆う粘膜で剣の切れ味は鈍り、有効打を中々入れられない。

 しかも、戦っている音を察知して他のシザ・モールが周囲から集まって来る。

 足元が崩れ、動けなくなったところを一斉に襲い掛かられることも珍しくない。

 Cランクに設定されるだけの危険は十分にあるクエストだ。


 一人ソロならば、普通は一日がかりで五体を倒すのがやっと。

 一体でも多く狩れれば大成功、『今日の祝杯は豪勢に行くぞ!』と言うくらいには難しいクエストなのだ。…………本来は。


「いやあ、驚いた。 こんなにいたのかっていうのもあるが、こんなにも簡単に討伐を終わらせたのにも驚いた。 冒険者ってのはすごいんだねえ。」


 おじさんが感心している。


「最初見た時は『こんな子供が?』って思ったけど、やっぱり本職は違うんだねえ。」


 本職じゃないけどね、とは言わない。

 本職だと思ってもらえるくらいにミカの仕事に満足してもらえたのなら、ミカとしても嬉しい限りだ。


「安全の確認もこんなにしっかりやってもらえるなんて思わなかった。 本当にありがとう。」


 おじさんが満面の笑顔でお礼を言う。

 少々ずるい方法での依頼への参加になってしまったが、しっかりと依頼を完遂できた。


(これは、今後もこのやり方はありかな?)


 そんな風に、少々味を占めてしまうミカなのだった。




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