第3話 異世界1
アマーリアはベッドの横に置いた椅子に座り、愛する息子の手を握って、優しく頭を撫でる。
「……お母さん、そろそろ時間だよ。」
娘のロレッタに声を掛けられ、「ええ。」と簡潔に返事を返す。
眠ったままの息子の額に口づけをすると、アマーリアは後ろ髪引かれる思いで立ち上がった。
すでに支度は済んでいる。
あとは仕事場である織物工場に行くだけだ。
アマーリアは玄関に向かうと、ロレッタに声をかける。
「それじゃロレッタ、行ってくるわ。 ミカをお願いね。」
「うん、いってらっしゃい。 そんなに心配しないで。 シスター・ラディも大丈夫だって言ってたよ。」
「それはそうなんだけど……。」
ロレッタが心配ないと言うのも分かるのだが、それでもアマーリアの表情は晴れない。
7歳の息子が怪我をし、倒れているところを発見されたのだ。
心配するなという方が無理だろう。
それも、未だに意識が戻らないのだから。
「シスター・ラディが午前中に来てくれるし、目が覚めたらお母さんにも知らせるよ。」
「……お願いね。」
ミカにしたのと同じようにロレッタの額にも口づけをし、頭を撫でる。
アマーリアはミカの休んでいる寝室に視線を向けると、諦めたように玄関から出ていく。
本当なら仕事になど行っている場合ではない。
だが、そうも言っていられない事情があった。
幸いロレッタは13歳にしてはしっかりしているし、ミカの面倒もよく見てくれていた。
愛する家族との生活を守るため、アマーリアは俯いていた顔を上げて歩き出すのだった。
■■■■■■
アマーリアを玄関まで見送ると、ロレッタは意識して作っていた明るい表情を引っ込めた。
ロレッタも、アマーリアと同じくらいには弟のミカのことが心配だった。
だが、アマーリアにそれを見せてしまえば、ロレッタを元気づけようと余計に無理をしてしまうだろう。
そう思い、明るく振舞おうとしていたのだ。
うまくいったとは自分でも思えなかったが。
(……お母さんの分も、私がしっかり看てあげないと。)
ミカの看病をしたいと一番思っているのはアマーリアだ。
いつもなら仕事を休んで看病するのだが、「どうしても今日は来てもらわないと困る。」と仕事場の工場長ホレイシオに頼み込まれた。
普段ならいくら頼まれても休んでいただろうし、むしろホレイシオの方から休まなくて平気かと聞いてきただろう。
生活のために仕事は大事だが、一人息子の一大事と比べられることではないからだ。
だが、怪我をして倒れているミカを見つけ、保護してくれたのが他ならぬホレイシオなのだ。
それも、私たちが暮らすリッシュ村から、馬車で1時間以上も離れた街道で。
昨日は織物工場が月に一度、織物を領主に納品する日だった。
ホレイシオは朝早くに織物を荷馬車に積み込み、領主の住む街コトンテッセへ届けに行った。
そして織物を納品すると、領主から翌月の生産計画を指示されるのだ。
無事に納品を済ませ、様々な用事を片付けて帰途に着くと、しばらくして街道の先に人が倒れていることに気がついた。
人が倒れているのだから、それはもちろん大変なのだが、この場合はそれだけではない。
リッシュ村とコトンテッセを繋ぐ街道は一本道。そしてリッシュ村から先に街道はない。
森があり、その先は険しい山に塞がれるため行くことができないからだ。
つまり、この街道を使う人はほぼ確実にリッシュ村の関係者と言っていい。
ホレイシオは馬に鞭を入れ、急いで倒れている人に近づいた。
近づくにつれて倒れているのが子供のようだと分かったが、まったく動く気配がない。
そうして、街道に倒れていたミカを発見したのだ。
草叢から足だけ出ている状態で倒れていたミカは、その時すでに意識がなかったらしい。
顔も手足も擦り傷だらけで血が張り付いており、身体は熱く、手足も震えていた。
そんな様子を見たホレイシオは、これは急がないと命に関わるとすぐに察した。
荷馬車を飛ばして村に帰ってくると、そのまま真っ直ぐに教会へと向かう。
途中で出会った村人に、「アマーリアとロレッタに、すぐ教会に来るように伝えてくれ。」と伝言も頼んで。
リッシュ村は住人200人程度の村で、村人はみんな顔見知りだ。
ミカが大変だと付け加えれば、誰でもある程度は状況を理解できた。
だが、教会では運悪くシスター・ラディが不在だった。ラディは村でただ一人、【神の奇跡】の【癒し】が使える人だ。
怪我人や病人などの緊急時、ラディを呼ぶための鐘が教会の入口近くに設置されている。
その鐘を力強く鳴らしてラディを呼ぶと、今度は少し離れた井戸から水を桶いっぱいに汲んできた。
そうしているうちに教会に住む老司祭が奥から現れ、ラディも教会に戻り、同じ頃にアマーリアとロレッタも教会に着いた。
ミカのことを聞くとラディはすぐに治療を始め、アマーリアとロレッタ、そしてホレイシオや老司祭も治療を手伝った。
老司祭の指示で、まずは清潔な布と汲んできた水で傷口を綺麗に拭き取っていく。
拭くと傷口から再び血が滲んでくるが、砂利などで汚れたままで【癒し】を行うより、綺麗にしておいた方が癒す効果が高いらしい。
そうして傷口を拭き取りながら、苦しそうな表情を浮かべるミカを見て、ロレッタは涙が止まらなかった。
全ての傷口を拭き取ると、ラディが祈りの言葉を紡ぎ【神の奇跡】で癒す。
ミカの全身に黄色い淡い光の粒がふわふわと漂ったかと思うと、みるみるうちに傷が塞がっていくのだ。
だが、それでもミカの苦しそうな表情は変わらず、手足の震えも止まらなかった。
するとラディはまた神に祈り始める。今度は【癒し】の時とは違う神による【神の奇跡】らしい。
先程よりも長い祈りの言葉を紡ぐと、今度はミカの身体にゆらゆらと陽炎のようなものが漂う。
そうしてしばらく陽炎が漂うと、苦し気だったミカの表情が少しずつ穏やかなものへと変わっていった。
その後、老司祭が奥の部屋へ行き、コップに水を入れてきた。
その水をラディは時間をかけてゆっくりとミカに飲ませる。
コップの水を飲み切る頃にはミカの身体の震えも収まり、ただ眠っているだけのように見えた。
ラディが微笑みながら言った「もう大丈夫よ。」という言葉に、ロレッタはどれほど救われたか。
アマーリアも涙を浮かべ、何度もラディとホレイシオ、そして老司祭にお礼を伝えた。
こうして、ミカは助けられたのだった。
だが、そんな事情もよく分かっていて、ミカの命の恩人ともいえるホレイシオが、それでも明日は来てくれと頼み込んできた。
これにはアマーリアも困ってしまった。
そこでホレイシオが「代わりにロレッタを休ませるのではどうか?」と言ってきた。
ロレッタとアマーリアは織物工場で働いていた。
ロレッタはまだ働き始めて1年ほどだが、アマーリアは機織り職人のまとめ役も任されるほどの腕前だ。
一人前になるには少なくとも3年以上は勤めないと認められないので、ロレッタではまだアマーリアの代わりは務まらない。
それにアマーリアの他にもまとめ役になっている職人たちなどは全員が集められるようだ。
どうやら領主に指示された生産計画のことで緊急で話し合わなければならないことがあるらしい。
さすがにこれは、何をどうしたってロレッタでは代わりになれない。
仕方なく、ミカの看病をロレッタに任せるアマーリアだった。
■■■■■■
ロレッタは昨夜のうちに洗濯し、窓際に干していたミカの服に触れた。
ズボンはまだ湿っているが、上着はすで乾いているようだ。
ミカの服は何度も転んだのか砂や泥に塗れ、擦り傷による出血でずいぶんと血が付着していた。
綺麗に洗って汚れや血は落したが、転んだ時に出来たらしい穴がいくつか空いている。
洗っている時に気づき、あとで繕おうと思っていたのだ。
ズボンはまだ干しておき、上着だけを持って寝室へ入っていった。
先程までアマーリアが座っていた椅子に座ると、ロレッタはミカの顔を覗き込む。
まるで女の子のような可愛らしい顔をしたミカが、今は穏やかな表情で眠っていた。
その表情を見てロレッタはホッとする。
昨日のミカの姿は、きっと一生忘れることはできないだろう。
(ホレイシオさんとシスター・ラディには、本当に感謝しなくちゃ。)
なぜミカが遠く離れた街道で倒れていたのか、それは本人が目覚めないと分からない。
だが、少なくともホレイシオが見つけ、ラディが【神の奇跡】で【癒し】を与えていなければどうなっていたか。
リッシュ村とコトンテッセを繋ぐ街道は一本道だが、そもそも頻繁に行き来があるわけではない。
昨日はたまたま織物を納品する日だったのでホレイシオが通ったが、それ以外では村の商店が月に数回、仕入れにコトンテッセに行くくらいだ。
もしも昨日が納品日でなければ、数日は誰も通らなかった可能性が高い。
「……そんなこと、考えたくもない。」
嫌な想像を忘れようと、持ってきたミカのシャツを広げる。
補修する箇所を確認すると、用意しておいた裁縫道具から針と糸、それと当て布を手に取る。
可愛い顔をして意外にやんちゃなミカは、繕ってもまたすぐ違う穴を空けてくる。
なにかと忙しいアマーリアに代わり、ミカの世話をするのはロレッタの仕事だった。
その世話も、昨年から織物工場で働くようになって随分減ってしまったのだが。
(さーて、ぱぱっと片付けちゃおう。)
時折ミカの様子を見ながら、楽しそうに裁縫をするロレッタだった。
「ロレッタさーん、ラディです。様子を見に来ましたー。」
集中していくつかの補修を終えると、玄関から声が聞こえてきた。
慌てて針を片付け、玄関に向かう。
扉を開けると修道服を身に着けた、小柄な女性が立っていた。
この女性はラディ。教会で修道女をしている、お母さんよりも少し年上の女性だ。
貴重な【神の奇跡】の使い手で、教会としてはもっと大きな街で活動してほしいようだが、生まれ故郷で活動したいと昇進を蹴って故郷に帰ってきた。
とても優しそうな微笑みを浮かべているが、この微笑みのまま昇進話を蹴り、引き留める高位の司祭を振り切って帰郷を強行したというのだから、人は見た目では分からないものだ。
(実際にすごく優しい人ではあるんだけど。)
昨日のミカのこともあるが、それ以前にリッシュ村の人たちはみんなラディの世話になっている。
子供たちは教会で文字や計算を教えてもらっているし、大人たちも病気や怪我を治してもらったことがあるだろう。
村に赴任している老司祭に代わって祭事を取り仕切っているので、大事な収穫祭などの準備は全てラディが管理している。
そうやって村のみんなの支えになっているが、そのことでお礼を言っても、いつも微笑みながら神の愛に感謝を捧げるのだった。
「おはようございます、シスター・ラディ。 昨日は本当にありがとうございました。」
ロレッタは丁寧に頭を下げ、改めてお礼を伝える。
「おはようございます、ロレッタさん。 お礼なんていいのよ、私は祈っただけなんだから。 神々の慈悲を得られたのはロレッタさんやアマーリアさんの行いのおかげよ。」
神々はいつでも私たちを見守っていてくださるわ、と祈りの仕草をする。
「それで、どう? ミカ君の様子は。」
「まだ目は覚めていません。 表情も穏やかだし、本当にただ眠ってるだけのように見えるのだけど……。」
「そう、目が覚めないのは心配ね。 ちょっと診てもいいかしら。」
「はい、お願いします。」
ロレッタはミカのいる寝室にラディを案内して椅子を勧めると、自分はラディの横に立って診察の様子を見ていた。
ラディはミカの手を取って脈を診たり、首に触れたりする。
「……熱もないし、呼吸も穏やかね。本当にただ眠ってるだけみたい。」
ふふっと微笑むと、指先でミカの頬をつんつんと
「心配はなさそうだけど、昨日からずっと?」
「はい。 お母さん、一晩中看てたみたいで。 今朝も顔色が……。」
そう言うとロレッタは、アマーリアの朝の様子を思い出した。
ミカを看て、一晩中起きていたと思われるアマーリアの顔色はひどく悪かった。
それはロレッタも同じようなもので、アマーリアに言われベッドで横になりはしたが、結局ほとんど眠れなかったのだ。
「あなたもお母さんのこと言えないわ。 心配なのは分かるけど、あなたたちも倒れちゃうわよ。」
そう言うとラディは、向かいのベッドにあるミカの服に目をやった。
「ミカ君の?」
ラディに聞かれ、ロレッタはこくんと頷く。
「ちょっと、穴が空いたりしてたので。」
「そう……。ずいぶんと泥まみれになってたものね。 でも、どうして街道なんかに一人でいってたのかしら。」
不思議そうに話すラディに、ロレッタも分かりませんと答えるしかなかった。
「かなりコトンテッセに近いところだったらしいけど、ミカ君一人で行けるものかしら。」
「……昨日は近所の子たちと畑のお手伝いをするって言ってました。 街道を少しいった所の。 でも、そんなコトンテッセの方まで行くのは、やっぱり分からなくて……。」
子供たちは普段、子供同士で集まって遊んでいるのだが、近所の家の手伝いもしている。
畑で雑草を取ったり、収穫を手伝ったりだ。
そうするとお駄賃の代わりに、収穫の一部をお裾分けしてもらえたりする。
織物工場で働いていて子供を見守ることのできない家も、近所の目があれば安心できる。
そうやって持ちつ持たれつでやっているのだ。
もちろん、何かあっても責任など持たないのだが。
それが嫌なら、じゃあ自分で見なさいというだけのことだ。
「そういえば、ホレイシオさんのことだけど。」
思い出したように、急にラディが話を変えた。
「困っていた理由が分かったわ。」
「どうかしたんですか?」
ミカのことを助けてくれたホレイシオだが、今日はどうしてもアマーリアに仕事に来てほしいと頼み込んでいた。
普段なら「子供のことを一番に考えなさい。」と、何かあれば仕事を休むことにも理解を示してくれる人だ。
そんなホレイシオが、今日だけはどうしてもと譲らなかった。
何かあったのだろうと誰でも想像はつく。
「領主様から、高級織物を今の倍納めるように言われたらしいわ。」
「倍っ!?」
あまりにも驚きすぎて、思わず大きな声が出てしまった。
高級織物は、工場で生産する織物の中でも、特に腕の良い3人の機織り職人しか織ることが出来ない特別な織物だ。
使用する糸も特別で、質の良い糸を厳選しているため「増やせ。」と言われて、はい増やしますというわけにはいかない。
アマーリアも腕はいいが、まだ高級織物は任されていない。
むしろ普通の織物の品質を良くするために、他の職人たちにいろいろ教えたりしている。
「そんなの、できるわけ……。」
「もちろん来月すぐ倍にしろってことではないと思うわ。 でも、倍に増やすのはもう決定なの。 領主様の命令だもの。 じゃあ、どうやって増やすかってことを今日話し合ってるみたいよ。」
それは工場長も困り果てるわけだ。
領主様からの無理難題に、自分の知恵だけではどうにもならないとみんなの意見を聞いているのだろう。
織物工場は領主のもので、工場長はあくまで工場長だ。領主に雇われ、工場の管理、運営をしているにすぎない。
できません、ではクビが飛ぶのだろう。
そして、高級織物を倍にできる人に挿げ替えればいい。
それがどんな人かは、代わってみないことには分からないが。
「……できるのかな。」
「たぶんだけど、できると思うわ。 まあ、少し時間はかかるでしょうけどね。 ホレイシオさんいい人だから、きっとみんなも協力するわ。」
ホレイシオはこの村の出身ではない。
数年前に前の工場長が高齢で引退する時、領主が代わりとして連れてきたのだ。
短身だががっしりとした体格で、顔も厳つく、突進してくる牛すら正面から受け止めそうな印象だが、実は争い事は大の苦手。
生真面目で優しい、村のみんなからも信頼されるいいおじさんだった。
初めてホレイシオに会う子供は、その見た目で例外なく泣き出してしまうのだが。
「そういうわけで、どうしてもアマーリアさんにも話し合いに参加してほしかったのよ。 ホレイシオさんを許してあげてね。」
「許すなんてそんな、ホレイシオさんには本当に感謝して…………ミカッ!」
ラディと話をしていると、ミカの目がゆっくりと開いていくのが見えた。
■■■■■■
「………………、……………………………………。」
遠くで、誰かの声がしていた。
ぼそぼそとしゃべっているようで、何を言っているのかは聞き取れない。
(…………なに……話してる……?)
徹夜明けで眠った時のように、目が覚めて少しずつ意識は覚醒してきているのだが、頭の芯は痺れたようにボー……としていた。
身体も怠く、少しの身じろぎもする気がしない。
「…………ぃ…………………………。」
「……ぅ……………………?」
誰かが会話しているようだが、相変わらずぼそぼそとしゃべっていて、何を話しているのかは分からない。
(……よく、……聞こえないな…………。)
身体を包む気怠さに身を任せ、もう少し寝ようと意識を再び沈み込ませる。
ゆっくりと落ちていく感覚が心地よく感じた。
「………………、……ぉ……ぃ………………ぅ……………………ぃ……。」
「倍っ!?」
意識を手放そうとしていたところに、急にはっきりとした単語が飛び込んできた。
(…………ばい……? ……なにが、ばい? ……倍???)
これまでは何を言っているのかまったく判別できなかったが、はっきりと分かる言葉が出てきたことで急に意識が覚醒し始める。
真っ暗だった視界が明るいことに気づく。
(……あー……、目覚ましが点いたか……?)
律の目覚まし時計は照明が点くタイプだった。
朝が苦手な律は、時間で大音量が鳴るタイプだと無視して眠ってしまうことがあった。
人に話すと「いやいやいや、さすがに目が覚めるだろ。」と言われるのだが、確かに律も目は覚める。
目は覚めるのだが、「まあいいや。」という気持ちになってそのまま無視してしまうのだ。
そして、そのまま二度寝をしてしまう。大音量の中で。
だが、照明が点くタイプは時間前に少しずつ明るくしていくことで脳を覚醒させていき、大きな音を出さなくても目が覚めるのだ。
時間をかけて脳を覚醒させていくから眠気も少なく、極端に夜更かしをしたといった事情さえなければ、二度寝しようという気持ちがそもそも湧いてこない。
「……………………ぁぃに参加してほしかったのよ。 ホレイシオさんを許してあげてね。」
ゆっくりと目を開けていくと、そこには見知らぬ天井があった。
近くで誰か、女性が話をしているようだったが、見知らぬ天井がどうにも気になってしまう。
(……旅行や出張の朝はいつもこんな感じだな。……出張中だっけ?)
旅行だったっけ?などと思いつくが、どうにもはっきりしない。
「許すなんてそんな、ホレイシオさんには本当に感謝して…………ミカッ!」
急に大きな声を出され、びっくりして声の方に視線をやる。
女性が二人いた。
一人は20代後半くらいだろうか。少しウェーブのかかった長い綺麗な金髪で、青い瞳の印象的な女性だった。
だが、一番の特徴は何といってもその服装だろう。いわゆる修道服というのだろうか。
テレビや写真で見ることはあるが、なかなか実際に着ている人を見かけることはない。
もう一人は10代の半ばだろうか。明るい栗色の長い髪の少女でなかなか整った顔立ちをしている。
大きなクリッとした瞳は澄んだ緑色をしていた。
そんな二人が何かに驚いているのか、目を見開いて固まっている。
(……みか? 美香? それとも美夏?)
当てはまる漢字が多すぎて、どれが正解か分からないな。
そんなことを考えていると、いきなり栗色の髪の少女が抱き着いてきた。
「ミカッ!」
「え!? ちょ、ええぇーーーーーーーーーー!?」
少女の力いっぱいの抱擁に、驚きの声を上げてしまう律だった。
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