第21話 寒いさむい夏休み
凍え死にそうな夏の雪にもそろそろ慣れてくる頃であり、それとは別の非日常的な事はあれからなくただ平凡な日々が過ぎていった。そんな中、季節は7月後半となり全学生が待ち望んでいた夏休みへと突入する事になった。健全な学生諸君はこの期間を利用して学びを高めたり、バイト三昧ながらも貯金を貯めたりするのだろう。しかし、俺は違った。程よい気温の中でダラダラと携帯を触りながら消費していた。無駄な時間だと自覚しているが、これが俺にとっては至福なんだ。なんて事ない日常。それは案外悪くない事なのかもしれない。非日常の連続というものは思ったよりも疲れるからな。だから俺はこうして一日中惰眠と携帯とゲームを満喫する事にしたのさ。この俺は誰にも止められない。
そんな中俺の携帯に突如LINEの通知が届く。
LINEなんて誰だ?俺は数人しか登録してないぞ。そう思い、恐る恐るアプリを開いてみると橋田からのLINEであった。
まず橋田からLINEが来るなんて碌でも無いんだなと思う。そして、まず手始めにこう書かれてあった。
「我が忠実なるしもべよ、よく聞け。」
「今すぐに、高松駅駅まで来てくれ。」
まるで意味が分からなかった。何故貴重な休暇の時に限って呼び出されるんだ。正直、めんどくさい。
「何故いかなくてはならない?理由を述べよ」
スマホを常に持っているのかして速攻で返答が来た。
「わが因果の果てとやらだろう。理由など必要ない。というか、今すぐ来てください。寒いです」
返事ではない返事が来た。俺はどう返せばいいのか困ったので、適当に返事しよう。
「何してるんだ」
「駅に来たんですが、薄着で来てしまったのですよ。」
完全なる馬鹿だな。
「かなり寒いので、コートかなんか持ってきてください。わが黒煙竜が凍りそうです。」
「何してるんだお前。」
「助けてください。凍えそうです。ホント早急にお願いします。」
困った感じの顔文字と共に、やたら区切られた文章でその緊迫した様子がうかがえる。
「なんで薄着で行ったんだよ。」
「今日は朝からコードギアヌをみたので熱々でした。しかし、電車に乗って高松駅についたころぐらいに急に寒気が止まらなくなったのです。ホントにはやくお願いします。今にでも死にそうです。」
単純な野郎だな。
「わかった。いまから行くから。まってろ。」
俺は寒い中外に出るという苦渋の決断をしたのだ。しかし、帰ってきた返事は「(^_-)-☆」であった。俺は少し腹が立ったのは言うまでもない。
凍え死ぬような寒さの中を死に物狂いで駆け抜ける俺は、憂鬱な気分のまま自転車にのり、高松駅にへと向かう。高松駅は家から少し距離がある為徒歩で行く事はできなかった。電車という選択肢もあったが、田舎の電車など待ち時間でかなりタイムロスを生んでしまう。なので一番融通がきく自転車を選択したのだ。
しかし、長期休みにこの寒さは体にこたえる。酷くくすんだ自転車はひんやりとしていて俺の体をさらに冷やしていった。走り抜ける風は極寒で、まるで地獄だった。
俺は心の中で少々小言を挟みつつも、なんだかんだで到着することになった。周りの人々は重装備でかなり慣れた様子だ。
高松駅の駐車場に自転車を止めて、俺は改札の周りをきょろきょろと見渡していた。するとベンチに縮こまって震えている人影を見つけた。
ーあいつだ。
俺は思いつきのまま静かに後ろから忍び寄り、驚かす事にした。休日を潰されたんだ。これくらいの悪戯は許してくれよな。
背後に静かに忍び寄り俺が「わぁ!!」と声をあげると飛び上がった猫のように橋田は座ったまま跳んでいた。
「うぁぁああぁぁああ」
予想以上に驚きもはや俺のほうが困惑していたが、橋田は座ったままの体制で一度落ち着きこう言った。
「遅いですよ!!もっと早くしてくれないと凍え死んでしまいますよ!!」
驚かされた事に関してはお咎めなしなのか。
「すまんすまん。俺だって急だったんだよ。」
俺が釈明しようとする間に橋田はブルブルと子犬のように震えていた。
「あ、あの......早くコートくだしゃい。」
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