第9話 ノイズ・ノウズ

「うーん、たまらん!この冷却感。苦労した甲斐がありますねぇ〜」

 橋田は届いたメロンソーダを美味しそうに飲み始めている。恐らくこの瞬間は世界で一番美味しそうにメロンソーダを飲んでいる一少女であろう。良いご身分だな、まったく。一応俺の奢りである事を忘れないで欲しいものだ。

「で、結局どうだったんだ?大塚のやつは?」

 橋田は俺の言葉を聞くや否や眼を俺に向ける。

「どうやら風邪らしい。ゴホゴホ言って死にかけていました。」

 風邪で家に居たのか。じゃあ血眼で探したのは意味がなかったのかよ。

 しかし、橋田はニヤリとして次の言葉を放つ。

「と、言うのは学校へ言っている建前です。」

「って事は違うってことか?」

 橋田は頷く。

「はい、どうやら結構まずかったようです。と言うのも、どうやらこの地区に張っていた結界がダメージを負っていたらしいんです。そして、今はその損傷場所の修復中だそうです。恐らく、何者かが故意にやったのでしょう。」

「なんでそんな事がわかるんだ?」

「結界とは通常の人には見えない仕組みなのです。それこそ、我が組織の人間くらいしか目視できないはずです。さらに、一般人はその結界に触ることも出来ないのでほぼほぼ確定だと思います」

「なるほど。つまり、その結界とやらにダメージを入れたのはただの一般人って訳じゃなさそうだな。また、あのだーくねすなんとかの組織の仕業なんじゃ無いのか?」

「恐らくそうでしょう。或いは.....まあ、良いでしょう。」

 橋田はメロンソーダを飲み干して立ち上がった。そして、なにかを言いかけた。

 何を言いかけたんだ?

「うん、取り敢えず今日はこれで解散!!」

「こんな半端な所で解散して良いのか?」

「大丈夫、大丈夫。大塚はバカだけどアホではないから。」

 まるっきし信用できないんだがな。

「うむ。では、諸君。また明日、しさらばだ!!」

 そう言いながら橋田は颯爽と喫茶店を出て行く。

「では、私もそろそろ時間なので失礼しますね。メロンソーダ、ありがとうございます」

 シロネさんもその場を立ち立ち去る準備をしていた。

 すると、シロネさんは去り際に、何かを言っていた。

 口が動いているのはわかっていたのだが、何を言っていたか等は不思議と聞き取れなかった。何か重要な事柄な気がする。だが、聞こえない。まるで妨害されているかのようにノイズしか聞こえない。まるで世界から聴力が消えたかのような感じだ。

 そして、シロネさんはその場を去っていってしまった。

 何処か、俺は胸の奥にある気持ち悪さが込み上げてきた。なんなんだろう。すごく大切な気がする。

 それにしても、俺は何故聞き取れなかったんだ?

 その答えは分からなかった。


 不可解な謎を残しながらも、結局俺は三人分の会計を済ませたのだ。結構痛い出費だ。3人分だと言っても飲み物だけでも二千円声はかなり高額であろう。

 喫茶店を出て、徒歩で自宅まで戻ろうとした時、後ろから声が聞こえた。

「塚部、走れ!!」

 後ろから必死な様子で走っているのは大塚であった。俺はこの急すぎる出来事に対して理解を示すまで、おおよそ5秒間の空白が開いた。その後、突っ立っていた俺に対し、大塚は俺の手を引き、走り出す。

 そして、後ろを振り向くと後ろから黒い物体が迫っている。床を這うようにして右往左往しながらコチラに猛スピードで迫ってきていた。俺は愕然とした。

「あれは、何なんだ?」

「あれはヒトの闇の塊『カゲ』だ」

 その『カゲ』とやらはまるで生きているかのようにコチラに迫ってくる。逃げても逃げても、幾ら走っても距離が空く気がしなかった。

 なんだよ。なんなんだよ。俺は、なんてけったいな事に巻き込まれているんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る