厨二病、いかがですか?
甘織玲音
始まりの厨二病編
第1話 厨二病参上‼︎
これを見てくれている『よいこ』のみんなは【厨二病】と言う言葉を聞いた事があるだろうか。
きっとこの単語を全く聞いた事がない、という人の方が珍しいぐらいだ。
まあ、簡単に言えば厨二病というものは、中学2年生以降に起きやすい精神面的な成長過程につきものなもので、いわば後に黒歴史になりうることを、まったくの羞恥心のカケラもなくそれをところ構わず平然とやってしまう。それが俺が思う様な【厨二病】の形だ。
例えばだ。怪我など一つもしていないのに片目に眼帯をしたり、光り輝くチェーンのネックレスを大量につけていたり、自らを狂気のマッドサイエンティストと名乗ったり、種類はかなり様々だ。
しかしそんな厨二病にもいずれ終わりがある。当然だ、厨二病はもはや一種の成長過程と同義なのだからな。
中学生の頃、厨二病になっている人が高校生になると、精神的にもある程度成長しているから、後に過去にした事を恥じて、自分の中にある黒い闇の力を封じ込めてしまうのだ。
しかし、そんな恒例行事をも簡単に打ち砕く様な、かなり稀で、奇怪な存在もあったものだ。
それが俺の隣の席の、橋田 愛花(はしだ まな)だ。
綺麗な黒髪で、ショートボブの可愛い美少女ではあるのだ。しかし、その好条件を破壊する残念な問題があった。それは、彼女は重度の厨二病患者であったのだ。
今なお、現在進行形で、机にマジックで大きな魔法陣を一人でぶつぶつ言いながら書いている。ハッキリ言ってまともじゃない。なので、特にこの学校に入学してから人と話している所を見てすらいない。
ただ、俺は俺でそんな彼女の状態をバカに出来ないでいた。何故かって?それは、俺自身も入学して以降未だに友達0の究極ぼっちだからである。
俺は、中学をのらりくらりと卒業して気づけばなんの変哲もない学校にへと入学していた。
まぁ、最初のうちは、誰か話しかけてくれるかなー、って感じで楽観視し、俺は誰にも声を掛けることなく、2週間が経過した。そして、気づけば俺は人の事を言えないぐらいの孤立ぼっちにへと変貌していた。そう、クソボッチの誕生である。
いや、言い訳を言う気にもならないが、少しだけ弁明させてくれ。
俺はまず、中学で友達が一人も居なかった、と言う前提を出しておこう。まぁ、完璧な程にいつも一人であった。
まあ、俺は中学生のウチはそのままでも良いな、と思っていたが、それは大きな間違いであった。残念ながら俺はその長いぼっち生活のせいで、友達の作り方を忘れてしまっていた。
嗚呼、なんて悲しいことであろう。誰が俺を責められよう。だから、俺は本を読んでいるふりをしながら人の会話を盗み聞くか、この重度厨二病患者の観察をするほか無いのだ。
「フッフッフッ、皆は気づいてないがこの世界は闇の組織【だーくネスオーバードライバー】によって干渉を受け、支配させる寸前まで行っている。」
ほら、早速出たぞ。橋田愛菜の特徴その一、独り言にしてはとんでもない内容&長さの言葉を常に呟いている。常人ぼっちならばこんな死地に赴くような行動は起こさない筈だ。
「フッフッフッ、しかし、この円陣を机に描く事でいわば【ブローカーだーく】の力を生み出し、闇の力によって、闇の力に対抗する術を創り出しているのだ。」
「この片目眼帯も、我が力を封じ込める為のもの.....」
言わせてもらうが、これは全て彼女が発している独り言に過ぎない。俺が喋ってるわけでも無い。彼女一人が喋っているのだ。
まあ、これを見たらすぐに分かると思うが、彼女は、並の常人とはかけ離れている思考をしている。
いわば出来るだけ近づきたくはないし、あまり関わりたいとも思わないのである。
もはや彼女自身の存在がまるで【魔除け】のようになっているのであろう。
さらに怖いのが全て独り言で言っていると言う事である。
まあ、でもこちらに迷惑を掛けないので有れば、別に好きにしてくれたらいいのだが.....どうか俺の机には変な落書きしないで欲しいものだ。
ただこの頃は、俺にはなんの関係なんて無いと、そう思いながら過ごしていて、言わばゆるゆると全くの他人のフリをしながら客観視してたのだ。
しかし、ある日の昼休みに入った頃のことであった。この日も普遍的で特に変わった事なんて無かった。俺も普通だし、彼女の厨二病具合もかなりいつも通りだった。
「ムムッ気配を感じる!いかなけば。闇が我を呼んでいる」
一人で教室内で弁当を食べようとした時、彼女は突如そう呟き、席を立ち早歩きで移動を開始する。ああ、またいつものことか.....と思いつつ、そう言えばいつも何処に行ってるんだ?と言う疑問も湧き出てきた。
普段、俺はこんな事はしないがあまりにも気になるし、暇だしな。この時、俺は決めた。よし、着いていこう。決してストーキングをしているわけでは無い。何故なら橋田はさりげなくハンカチを落としていっていたのだ。俺はあくまでもそれを届けに行くだけであってストーキングしている訳ではない。誤解だけは解いておこう。
そして、俺は早歩きの彼女の後ろを、バレない程度の距離感を保ちながらひたすらに着いていった。
片目眼帯をし、怪我もしていないのに左手に包帯を巻き、よく分からないチェーンをぶら下げ、よく分からないマントをひらひらとして、彼女は歩いていく。こう見ても、やはり周りとは一際も、二際も違う。闇に染まるものにしては目立ちまくりじゃないか。というか、彼女は何処に向かうのであろう。方向的には、生徒がいる教室ではなく、実践室の方へと向かっている様子だ。
そして、彼女は理科室の前で、徐に足を止めた。
「........ふぅ、なるほど。やはりですか」
「ーーーなにが始まるんだ?」
「うわぁっ!!誰だ!!キサマは!?」
つい、うっかりだったのだろう。思わず口を挟んでしまった。彼女は唐突に話しかけられてキュウリに驚く猫のように飛び上がりそうな勢いで驚いていた。
「あ、いやぁ。たまたま、道が一緒だったものなので。」
咄嗟に言ったので、かなり苦し紛れの言い訳であったが彼女は特に気にはしなかったようだ。
「くぅ、コレは誰にもバレないようにしていましたが。バレてしまっては仕方がありませんねぇ。特別隠すことでもないですからね。それでは貴方には私のお手伝いをしてもらいます」
そこに関してはやはり問題は特になかった様だ。
「手伝いって、何すれば良いんだ?次の授業の荷物運びか?」
「違うッ!!手伝いと言うのは、私の魔術のだ!!」
「えっ!」
「それってどういう......」
「うるさいッ。私達の正体がバレたらどうする!」
彼女は人差し指で「シーッ」とする。正直な所何か見られてもまずい様なものはない様に感じるのだが、何があると言うんだ。
そういえば彼女は魔術の準備とか言ってたな。
机に魔術の紋章的なものでも書かされるのか?悪いけどそれは少しばかり、ごめんだけどな。俺は中学生の頃、机に魔法陣を描くために頑張ってスマホで検索した画像を机に書いていた。思い出しただけで今すぐ死にたくなる。穴があったら入りたい。
「正体って。別にバレても困る様な事なんかして無いだろう。そんな、まるで自分は知られてはまずい様な存在だと言ってる様なものだぞ。」
そう言った瞬間、小さな手で胸ぐらを掴まれた。
「キサマッ。何者だ!!何故そこまで知っている!?」
「いや、知ってるとかじゃなくて。つか、俺は何も知らないよ。一旦手を離してくれ」
「くそッ、ぷんぷんぷん。」
手を離し、彼女は周りをキョロキョロして辺りの様子を確認している。何をそんなに周りを気にしているんだ?
「とにかく、教室に入った!入った!」
慌てるようにして僕を理科室に押し込む彼女。
そして、その後ドアや窓の鍵をひとしきり閉めた後コチラに迫ってくる。
「良いですか?コレから見る事も、見た事も、私以外の人間に決して言ってはなりませんよ」
「何故だ?」
「いや、何故って言われても.....」
なんでお前が困ってるんだよ。
「あー、もしうっかり口を滑らせてしまった場合はどうなるんだ?」
「その場合は、私が掛けた結界「自動呪詛」が発動し、貴方は二度と夜9時以降、外出できません。だから、夜中に外に出られず、コンビニにすら行けないのです。それでも貴方は言おうと言うのですか?」
おいおい、何の冗談なんだコレは。この子はマジでこんな事を言っているのか?
いや、しかし恐ろしいことに俺を見つめるその目には嘘をついている様には見えなかった。
「そりゃ、9時以降外に出れないのは少し困るから、秘密にはするけども」
「ほんと絶対、ぜーーーったい、言わないでくださいね。」
近い、近い。童貞の俺を殺す気なのか?コイツは。全くもって罪深い以外の何者でもない。こう言うことされるとこっちが勘違いするからやめてくれよ本当に。
「分かったから。てか、言えないわこんな事。」
「ふむ、なら良い。」
それだけで良いのかよ。もっと口封じする物いっぱいあったよね。
「では、これより。召喚の儀を始める。」
「召喚の儀?なにをこの場に呼ぶんだ?」
「まぁ、取り敢えず今日は練習と言うことで、可愛いニャンニャn.....ゴホン、猫を.....」
コイツ普段猫のことニャンニャンって呼んでるのか?あざとすぎるだろ。いくらなんでも。
「そ、そんな事はどうでもいいでしょう!!」
どうでもいいのかよ。
「取り敢えず、この机の堀跡をなぞってください!!」
彼女はマジな顔でコチラに伝えた。
顔が近い。
「あの、これを書いたら何が起こるんだ?」
「ふふふ、書いてみてからのお楽しみってやつだよ」
彼女は意味ありげな表情を浮かべる。そして、俺は彼女の指示通りにマッキーで魔法陣の下書きをなぞっていく。ゆっくりと、着実になぞっていった。
ああ、俺は昼休みに弁当も食わずに一体何をやっているのだろう。悲しいかな、そう思いつつ淡々となぞっていく。
さて、あれから暫く経った頃だろう。橋田は、ようやく魔法陣(仮)とやらを完成させたのだ。もう、完成した時には橋田ははしゃぎまくっていた。そりゃもう引くくらいには。
「でかした!!流石我が助手。思った以上のクオリティに仕上がってますよ!!」
いつの間にか助手認定されている。俺は決して助手なった覚えは無いのだが。
「だから、あれですよ。シャーロックホームズとワトソンみたいな。」
それとこれとは少しわけが違う気もするが。あと、俺がワトソンなの?
「そんな事、今はどうでも良いんですよ。」
どっちなんだよ。
「大事なのは我が詠唱を唱え、召喚の儀を成功させる事なのです。それ以上でもそれ以下でもありません。」
「だったら是非見せてくれないか。その詠唱とやらを。」
「おお、我の詠唱を見たいのですか?」
「ああ。俺はあいにく見た事無いのでな」
てっきり俺は嘘だと思ってあえてそう言ってみた。挑発するというわけでは無いけども、意地悪したってわけでも無いけどもな。だが、彼女もまた現実を知るべきなのだ。現実と言うのはどうしようもなく退屈で、理想の出来事などひとつも起こり得ない事を。かつて、俺が感じたように、彼女も気づくべきなのだ。それが、人間の成長というものなのかもしれない。
「ふっふっふっ、良いでしょう。ならば見るが良い。君にはホンモノを知ってもらう必要があるからな。」
自信ありげな表情で円陣の前へ立つ。お決まりなのかポーズを決め、謎のオーラを纏う橋田。空は蒼天で、世界は蒼白だ。始まるというのか。その儀式とやらが。
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