俺、最強の勇者だったんだけど、女の子になってました(笑)

もがみ

プロローグ

プロローグ

「何の為に、誰の為に――。」


戦えば戦い続ければ、いつか答えは出るのだろうか?

男は一人考えた。

彼以外に人の気配はなく、あるのはただ動かない屍のみ。

血に染まった刀を鞘に収める

夕焼けに染まる空に問う。


「何の為に私はこの世界で、生きている」


答えなど、帰ってくるはずもない。


男は歩き出す。

引き返せない、長く暗い道へと。

彼の行く先に光などなかった。

後に彼は人間たちからこう呼ばれ恐れられる事となる。

魔族を統べる王【魔王】と。


以後、200年に渡り、魔王の支配が続く。

一人の勇者が現れるまでは...。





200年後魔王城にて二人が激突していた。

一人は魔王、もう一方は勇者ユーリ・トランブレ。

いくつもの魔法・剣劇が交差する。

数十時間に及ぶ戦闘に終止符が打たれようとしていた。


「これで、最期っ!」


魔法を打ち込んだ一瞬の隙をつく。

その隙を生み出すためにいくつの戦術を練っただろう。


橘流剣術基礎其ノ壱――。


≪縮地≫


ドンッ


強烈な踏み込みにより相手との距離数メートルを一瞬で詰める。

魔王の心臓を刀が貫く。


「カハッ」



魔王の血で床が赤に染まり勝利を確信した。

しかし、その期待は裏切られてしまう。


「この程度で、私が死ぬとでも?」


「マジかよ」


確実に心臓を潰した。

それなのに目の前の男は生きている。

戦いの中で再生能力が高いということは分かっていたが心臓を止めれば死ぬものだと思っていた。

生物としての先入観を捨てなかった自分を呪う

これが魔族の王、魔王!!


「甘いな、甘すぎる。私を獲りたければ首を切れ脳をつぶせ」


動きが止まった一瞬に蹴りが来る。

刀を抜いて回避をしようとするが、刀が抜けない。

一瞬の判断で刀を捨て回避動作に入るがおそい。

蹴りが入り壁まで吹き飛ばされる。壁は壊れ瓦礫に埋まる

反応が鈍った所に蹴りが来る。

避けられるはずもなく壁まで吹き飛ばされる。

壁が崩れ身体が瓦礫に埋まる。


「惜しかった、実に惜しかった。先刻狙ったのが心臓では無ければ勝負はどうなっていたか」


魔王は右手を天に突き出し、振り下ろす


流星メテオ



最大魔法の一つ、空より無数の火の玉を降らし国すらも滅ぼす。

実際にこの魔法で落ちた小国は数えられないほどあった。

一人の人間に行使する魔法ではない、それほどに勇者は魔王の脅威たり得たのだ。

魔王は勇者に敬意を示し、その最大火力をもって殺そうとした。


..............。


しかし、何も起こらなかった。


「なぜだ、なぜ魔法が発動しない」


それならばもう一度と右手を上げた瞬間、右手が切断されていた。

発動の動作を行わなければ魔法は発動しない。


「ぐっ!」



痛覚遮断の魔法を使っている為痛みはないが、それでも動揺は隠せない。

そもそも、誰が切断したのだろうか?

考える必要もない、何故なら一人しかいないのだから。

しかし、なぜ自分の腕が切断されたのかがわからない。



勇者は魔法が使えないはずだ、使えたとしても魔法を使う為には詠唱が必要である。

詠唱拒否アリア・リジェクトという詠唱をせずに魔法を行使する術はある。

だが詠唱拒否アリア・リジェクトは、人間には使えない。

さらに詠唱中は若干であるが魔力が体内から溢れ出るため、そこから居場所を特定することができる。


しかし、右手を切断された時、魔力は一切感知されなかった。


「では、どうやって?」


「俺の勝ちだ!」


スパーン


「切り札ってのは、最後の最後まで取っておくもんだ」


転がった首に声をかける。

右手には短刀が握られていた。


「とは言っても聞こえて無いだろうな。」


『お前の名は、なんと言う』


頭の中に直接声が響く。


「驚いた、まだ生きてるとはな」


「ふん、この様だ、そう長くはもたんよ。」


言っていることは本当なのだろう。

今にも途切れそうだ。


「ユーリ・トランブレ」


「違う、真名を教えろと言っているのだ異世界人」



魔王はユーリがこの世界の人間ではないと疑っていた。

ユーリには、魔力がなかったからだ


この世界で、生まれたものならば、誰しもが持つ魔力を、持っていない。

それがこの世界の人間で無いことを確信づけた。


「橘 友里、これが元の世界での俺の名前だよ。」


「元の世界に戻りたくはないか?」


「戻れるものならな。」


無理だろうと友里は思った。

何年調べても分からなかったのだから


「私を誰だと思っている」


「俺を元いた世界に戻すことが出来るのか?」


「できるとも」


前方に突如、鳥居が出現した。

中は光を放っていて先は見えなかった。


「この世界に未練がないのであれば進め...。考える猶予はない」


中の光の点滅が激しくなった。

どうやら、タイムリミットが近いのだろう

迷いもなく鳥居の方に進む。


「正直あんたを信じていいか分からない。だけど、俺は早くもとの世界に戻らなくちゃならない。」


「4年間も待たせている人がいるからな!」


友里が鳥居をくぐると、眩い光に包まれ鳥居は消滅した。



旧暦1665年魔王城にて魔王、勇者ユーリ・トランブレとの戦闘により死亡。

旧暦1670年、魔王の死後統率を失った魔物たちは次々と討伐され200年に渡る魔物と人類の戦闘が終わる。


勇者ユーリ・トランブレ、今だ消息わからず――。

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