運命の出会い

01 たった一人の味方

 骨付き肉を絨毯の上に放り、少年達は騒ぎ立てる。


「食えよ、犬みたいに!」


 絨毯に視線を落とし、エリオはどうすべきか思案する。

 エリオはフォレスタ侯爵の一人息子だったが、オセアーノ帝国では辺境の領主の息子でしかない。フォレスタは、もともと帝国の支配を受けていない地域だった。アペニア山脈に近い高原には、さまざまな部族が暮らしている。

 海側の帝国は、アペニア山脈から降りてくる敵に対抗するため、その山に住んでいる中で一番話の分かる部族に、侯爵の地位を与えた。帝国の盾となることを期待された、それがフォレスタ侯爵だ。

 オセアーノとは別の文化を持つフォレスタは、自由自治を望んだ。

しかし帝国は、フォレスタの独立を許さず、厳しく税収を取り立てて、属領だと知らしめるために圧力を掛ける。

 留学とは体の良い人質だ。

 帝都の学校に通わされているエリオは、同級生の帝国貴族の子供達に、日々辛酸しんさんを舐めさせられていた。

 今日は、食堂で絡まれた。

 わざと皿を落とされ、食事を台無しにされる。

 

「這いつくばって、赦しを乞え」

 

 苛めの筆頭に立っているのは、第三皇子のファビオだ。

 皇子が率先して苛めを行っているので、周囲は免罪符とばかり騒ぎ立てる。


「……申し訳ありませんが、できかねます」

 

 エリオは冷静な声で、はっきり断った。

 

「私は皇帝以外に膝を付くなと、父に言われていますので」

 

 アッシュブラウンの髪に、翡翠色の瞳。普段穏やかな雰囲気をまとわせるエリオは、侮られやすい。成長半ばの細い身体もあって、大人しいと誤解されがちだった。

 しかし、エリオは頑固で闘志のある少年だった。

 はっきり抵抗する意思を見せると、第三皇子ファビオが気に入らないと頬をひきつらせる。


「お前……!」

「そこまでだ」

 

 一触即発の食堂に、涼やかな声が舞い込んだ。

 扉を開けて、もう一人の少年が間に入ってくる。

 淡い金髪を背中まで伸ばした、中性的な容姿の少年だ。しかし、線の細い面差しとは裏腹に深海色の眼差しは強い光を帯び、きりりと伸びた背筋は尊大な威圧感を醸し出している。彼の登場に、他の生徒は無意識に場所を譲った。


「邪魔するな、ラルク!」

「食事の邪魔ならするつもりはない。それとも、別の話か?」

 

 ラルクと呼ばれた少年が淡々と返すと、ファビオは舌打ちし、席を立つ。


「覚えていろ」

 

 捨て台詞を吐き、取り巻きを連れて食堂を出ていった。

 知らず息を詰めていたエリオは、溜め息を吐く。

 緊張で固くなっていた教会の空気がゆるんだ。他の生徒や、食堂の料理人も安堵した様子だった。


「ありがとう、ラルク。助かったよ」

「どういたしまして。お前は友人だから、助けるのは当然だ」

 

 微笑むラルクは、当然のようにエリオの正面に座る。

 彼の名前は、ラルク・シエル・ガリエラ。フォレスタの独立をはばむオセアーノ帝国の第七皇子で……エリオの友人だった。


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