まいこ、さがしています
すみはし
まいこ、さがしています
まいこ、さがしています
近所にそんな張り紙があった。
まいこ、さがしています
みつけたら、すくいきます
いっしょにおうちへかえろう
すっと、まってるよ
れんらくさき XXX-XXXX-XXXX
(男性の写真)
結構あちこちに貼られていたが、全て劣化しているボロボロの紙で、写真は古ぼけて見えないしところどころ文字が薄れ濁点が取れていたり電話番号は薄れて0と9の見分けがつかなかったりして、もうずっと貼られているんだろうなぁと思っていた。
フルネームを書くでもなく、年齢や服装など、見た目の特徴も書いておらず、これでは探すのもかなり難しそうだ。
恐らく小さい子であろうことが辛うじてくすんだ写真から伺える。
一方父親らしき男性の写真はそれなりに見える程度には写っていて、髭面の中年男性の真顔が証明写真のように写っていた。
「見つけたらすぐ行きます」や「ずっと待ってるよ」なんかが全部がひらがなのあたり小さい子へ向けても発信されたメッセージなのだろう。
これを見て誰かが探すとは思えなかったけど。
ある日友達と遅くまで遊んでいて、門限を過ぎてしまった。
家に帰ったら怒られるのはわかっていたけど、電話越しでまで怒られるのは嫌だったから、携帯の電源は切った。
早く帰らなきゃ、と思って焦っているうちにいつも通らないショートカットできそうな道を思い出し、その道を行くことにした。
冬場で薄暗くなりかけの知らない道は思ったより曲がり角が多くてぐねぐねしていて、かなり分かりづらくて走っても家に本当に近づいているのか不安になるくらいだった。
走るのを諦めて歩いてるうちに、泣いている女の子が居るのに気づく。
「どうしたの?」
「まいこ、おばあちゃんちにずっといたんだけど、おうちにかえるところなんだけど、くらいからこわいの!」
「お父さんとお母さんは?」
「おかあさんはおばあちゃんち! おとうさんはまいこのまえのおうち! まいこおばあちゃんちにかえるの!」
たどたどしい日本語で答えながら不安そうにキョロキョロとするその子から少しだけ視線をふと逸らすと
「まいこ、さがしています」
例の張り紙があった。
長年経っていそうに見えた張り紙だったが、コビー機の加減なのかもしれないと気づく。
母親と共に祖母の家にいった少女。
父親のみが残されていたとしたら。
父親がずっとこの子を探しているのではないだろうか。
「見つけたら、すぐ行きます」、「ずっと待ってるよ」
そう考えるとこの文字から感じられる執念に怖くなった。
一瞬携帯で連絡しようかと思ったが、思いとどまる。
「おにいちゃん! こっちー!」
一緒に来て、と少女は手を引く。
「くらいからいっしょにきてね、まいこもうばしょはわかるから!」
暗さゆえの不安だったのか、少女は一人ではないことに安心して先を行く。
「ここ! おにいちゃん、ありがとう!」
気がつくと広めの一軒家の前に連れてこられていた。
少女は首から下げていた鍵でドアを開け、ぺこっと深いお辞儀をした。
少女の「ただいま」という声とその後の母親の「まいここんな時間までどこいってたの」と怒る声に安心し、自分も帰ろうとする。
が、少女に手を引かれていったため自分が今どこにいるのかの把握が出来なくなっていた。
帰り道が分からない。
来た方を戻ってみるが、元々見覚えのない道を通っているため道は分からないままだった。
ため息をついた時、電話が鳴った。
いよいよ時刻もごはんどきを過ぎたので、きっとおかしく思った母親が怒りか心配の電話をくれたのだろう。
慌てて電話に出る。
「いっしょにかえろうね」
知らない男性の声が聞こえた。
「まいご、さがしています。みつけたら、すぐいきます。いっしょにおうちへかえろう、ずっとまってるよ」
男性は無機質な声で続けた。
どこかでこの文言を知っている。
そう思った時、目の前の張り紙が目につく。
張り紙の文言をなぞる。
まいこ、さがしています
みつけたら、すくいきます
いっしょにおうちへかえろう
ずっと、まってるよ
れんらくさき XXX-XXXX-XXXX
取れている濁点がひとつでないことに気づく。
すくいきます、すぐいきます
そして
-まいこ、まいご
「すぐいきます、いっしょにおうちへかえろう」
後ろから声が聞こえた。
振り返ると、張り紙の男がニタニタと笑っていた。
慌てて家に電話しようとする。
携帯の電源は切れたままだった。
「ずっと、まってたよ」
まいこ、さがしています すみはし @sumikko0020
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