第2話


 ふ、と、違和感。

 滑り込んできた列車のラインが、光って見えた。

 緑色? 緑もあるが、それだけではない。あれは――虹だ。虹色だ。

 久しぶりに、心が躍った。色だ。色がある。

 目の前に、変化が走ってきた。わたしはその列車に、乗りたい、と思った。

 虹色ラインの列車が、たくさんの人を吐きだした。食われるたくさんの人に紛れて、わたしはそれに乗り込んだ。

 ガタタン、ガタタン――。

 滑らかとは言えない、すこし不安を覚える走り出し。けれど、スピードに乗ると、線路に触れていないかのように、滑らかに走る。

 ふ、と、窓の外を見た。

 そこは――宙だった。


 いつの間にやら線路を離れて、列車は宙を駆けていた。

 どんどんと、高く、高く。空高く舞い上がっていく列車内に、アナウンスが響く。

『次は――虹の上横丁。虹の上横丁――』

 聞いたことのない駅名。ワクワクする。降りないという選択肢など、わたしにはない。

 列車はキュルル、と異音を響かせながら、ホームに滑り込む。

 停車するときには、ぐわん、ぐわんと揺れた。

 扉が開くと、何人かの人が、降りていく。

 わたしも、それに混ざって、ホームの白い床に足を伸ばす。

 ――ぽわん。

 硬くない。ほのかに沈む。足跡が残る。それは少し待つと、消えてなくなる。

 クッションの上を歩いているみたい。

 ほわほわとモヤ。

 わたしは、あたりを見回した。

 列車が走った軌跡を見て、わたしは気づき、驚いた。

 虹だ。わたしがいま駆けてきたのは、虹のレールの上だった!

 そして、今。わたしが立っているのは、雲だ。雲の上にいる!

 

 改札を抜け、駅の外へ出る。

 駅だけではない。世界が雲でできている。

 とん、とんと歩いていく。

 時折ある雲の切れ目では、川を跳んで渡るように、足に力を込めた。

 雲はわたしが込めた力を食べて、弱めてしまう。けれど雲はわたしを、わたしが進みたい方へ飛ばしてくれる。どこから生み出されているのかわからない、不思議なパワーで、わたしの足を、身体を押してくれる。

 どこへ進めばいいのかわからないわたしは、誰かの背中を追って進む。

 頭上に見えた、『虹の上横丁』のアーチ。

 その先に、たくさんの人影。


 アーチをくぐる。と、そこにはカラフルな世界が広がっていた。

 懐かしの駄菓子屋さん。タコ焼きの屋台。美容室から出てくる人の髪の毛は虹色で、どうやったらそうなるのやら、不思議な形をしていた。

 小さな雲のトレーに載った、ステーキを食べながら歩く人がいる。ここではなんでも食べ歩けるらしい。

 占い屋さんに長蛇の列。

 並んでいる人は、雲の椅子に腰かけて、ぽわんぽわんと待っている。

 ああ、もう一人やってきた。

 すると雲から、ニョキニョキと椅子が生えてきた。


 どこかの店に、入ってみよう。

 そう考えたが、ふと思考が地に落ちた。

 ここで、地上で使っているお金は使えるのだろうか。

 ここには、ここ専用の通貨があるのだろうか。

 歩きながら、会計をしようとしている人の手元を見る。

 商品を受け取る。

 けれど、――何も払っていない!



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