第2話
研究室で徹夜をしていたドフル大井は、けたたましい音で起こされた。
何だよーー気持ちよく寝てたのに。どうやら研究施設内に侵入者が現れたらしい。部屋の中でデカデカと警告と、侵入者の居場所が示されている。
「近くじゃないか。目を覚ますがてら見に行くか」
場所は、シールド研究棟四階にあるドルフの研究室から一階に出て、直ぐ目の前にある芝生だった。
ちょうど四階に止っていたエレベーターで下まで行き、そのままエントランスを出た。すると、警備員二人が並んでいるのが直ぐに目に入ってきた。
「まっぶしーー目にしみるわーー。お疲れさんです。侵入者だって?」
「ドルフ教授! いけません。今ここは立ち入り禁止区域になっています。警告を見ましたよね?」
まだ若い警備員が、焦った様子でドルフを追い返そうとする。
「気持ちよく寝てたのに起こされてさ。で? そこで寝ている女性が、侵入者か?」
警備員の後ろで倒れている、白銀なのか白髪なのか、とにかく髪の長い女性がいた。
「怪我、してるぞ」
むき出しになっている手足には裂傷のような傷があり、明らかに他害された物だった。
「何者か分からないので、怪我をしていようとも」
「はいはい。この女性は俺が医務室に連れて行く」
「え? 侵入者ですよ?!」
「どう見ても、脅威があるようには見えんし、何かあったら俺が責任を取るから」
「しかし……」
「オッケ! 交渉成立! 後で監視カメラの映像を俺のパソコンに送っておいてくれ」
止めてくる警備員を無視し、ドルフは倒れている女性を抱きかかえた。そしてそのまま施設内にある医務室に運んだ。
「しかしRPGゲームに出てくるキャラみたいな服だな。コスプレか?」
ドルフが出てきた研究棟の隣にある、事務局が集約された管理棟の三階に向かった。
「室井さーーん。怪我人を連れてきた」
「ドルフ教授って、あなた、とうとう女性を」
「違うわ! さっき侵入者の警告が出ただろ?」
「え? まさか」
「そのまさか、だ」
室井は呆れた顔しながら「とにかくベッドに」と指示を出す。
室井はドルフとは学生時代からの付き合いだ。眼鏡をかけてはいるが日本美人と言われる顔で持てていた。ただおっぱいはAカップマイナスの、ドルフにとっては残念体系だった。
ドルフが侵入者をベッドに寝かすと、室井が起動させた猫の顔の形をしたヘルススキャンが浮かびあがり、侵入者の体のデータをくまなく取っていく。
「スキャンヲハジメマス」
数秒後に今度は「スキャンヲシュウリョウシマス。ケッカ、イジョウハミアタリマセンデシタ。モウスグメザメルデショウ」と無事にデータを取り終えたようだ。
室井はケガをしている部分に、再生シートを手際よく貼り付けていく。
「ドルフ教授、どうすんのよこの女性。もしかしたらハニートラップかもしれないじゃない。あなたはこの国の国防を担う研究をしている重要な人間なの」
「まあまあ。そんなにカリカリしない。それにこの服装を見てみろよ。俺をハニートラップに掛けるなら、もっと露出の多い服にすると思うぞ」
「まあ、言われてみれば確かに」
納得はするんかい、と分かっていても自分の評価にドルフは肩を落とした。
「それで今日も徹夜だったんでしょ? シールドは出来上がりそう?」
室井が自身の目元に人差し指を当てながら、分かり切った事を聞いてくる。
「その質問、耳がタコを通り過ぎてイカになったわ。いや今、クラゲに変わった」
小競り合いが続く近隣諸国の脅威と、災害から国民を守るためにシールド、いわばバリアの研究をしているのが第一人者のドルフ大井だった。
これが出来そうでできないんだよな。あと一歩な気もするし、完成まで遠い気もするし。それでも必ず国民の為に完成させると、女に甘いと周りからからかわれても、胸の中で熱い炎をドルフは常に持っていた。
「それにしても」
室井がスキャンから読み取ったデータ画像を広げながら、首を傾げている。
「どうかしたのか?」
「この女性を見て、ドルフ教授はどう思う?」
「どう思うって」
見事な純白の髪、それと同じまつ毛。皮膚も白く胸の大きさもちょうど良さそうだった。
「胸の事は聞いてないんだけど」
「は? お、俺だって胸のことなんて」
「手つきがいやらしい」
どうやら自然と手が、胸の大きさを測っていたらしい。
「ゴホン。まあ、アルビノだろな」
「そう思うわよね。でもデータには出ていないのよ」
「は? どういう事だ。壊れんのか?」
「私の可愛い猫型スキャンロボットを馬鹿にしてるの?」
「いや、してないし。しかしデータに出ないってことは遺伝、という事か?」
遺伝でこんなにも真っ白な人間が生まれるだろうか。室生もその可能性は低いと考えているのが伝わってくる。しかしこの真っ白い瞼の下の瞳の色に興味があった。
瞳の色が気になったドルフは、無意識のうちに眠っている侵入者に顔を近づけていた。
「ちょっとドルフ教授」
「いやあ、どんな色をしてるのか気にならないか?」
「そうじゃなくて」
「ん、んん」
お、目を覚ますか? と瞼が開くのを、クリスマスプレゼントをもらう子供みたいな気分でドルフは待っていた。
「だから、ドルフ教授」
「ん……え?」
ゆっくりと開けられた瞼の下から姿を現したのは、見事なブルー系のアースアイだった。
「おお! 黒目からアンバーが放射状に広がりながらブルーに溶けこんでいる、見事な眼だな」
「あ、あ、あ、キャアァァーーーーッ!」
叫び声と同時に、バチンッ! という音が響いた。
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一日置きに投稿予定です。
すごく慣れないジャンルで、ファンタジー系を書いた事がないですが、
よろしくお願いいたします。
第6回ドラゴンノベルス小説コンテスト《中編》に応募しています。
☆やご声援のほどよろしくお願いいたします。
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