カリスマ店員
クライングフリーマン
うちのカリスマ店員。
それは、私の母だった。うちは『店舗付き住宅』で、家と店のはっきりした区別がなかった。母は、家の世話、子供の世話をしながら、店を切り盛りしていた。
母の『天才的作業』は、ソロバンの右と左のエリアで、お客が品物を手にするのを確認しながら、ソロバンを置く。そして、3番目のお客の質問には口頭で応える。
商売をやった事がない人には、想像が付かない技だ。
半世紀近くやっていた商売(八百屋)は、娘達の強引な説得で、急に辞めた。
私は、結局家業を継がなかったので、口出し出来なかった。
健康を慮ったことだったが、結局、いきなり『はしごを外された』2人は、目標を失った。
後年、交通事故に遭って、2度と家に帰れなかった父。
父の死後、母と同居したが、家の外には出なくなった。あれだけ、社交的だったのに。
そして、母は今、「寝たきり老人」だ。一応、「認知症進行中」となっているが、私が判別出来ない訳ではない。少ない面会時間に、たまにしゃべるが、私と同居していた時と変わらない。
以前、母と同じ介護施設に入っていた、元魚屋の老婦人も、ある日突然、人生が変わった。
歩くことも困難で、寝返りさせに看護師が来る。
息子さんの懸命な介護もむなしく、ある日突然亡くなった。別々の施設になったので、母の代わり見舞っていた私の仕事も突然終った。
人の寿命は分からない。2度の危篤状態を経て、鼻から栄養剤を投与され、かろうじて生きている母。不憫だと思っても、もうどうしようもない。
私自身、『カウントダウン』が始まっている、と時々思う。
それでも、母はまだ生きている。母は90歳くらいまで暗算が出来た。
「うちのカリスマ店員」は。
―完―
カリスマ店員 クライングフリーマン @dansan01
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