王族でもド稀な怪物王女
ただのしかばね
プロローグ 怪物は性根から怪物である
いつも、妄想していた。
ここではない何処か。ありもしない別世界の情景。剣と魔法が衝突し合う、創作物だけに許された世界を。
この世界は退屈だ。朝起きて、学校に行き、家に帰り、寝る。そんな世界中で当たり前の毎日が、その繰り返しが、僕にとっては酷く苦痛でならない。
繰り返しの日々を望む者は、そこに幸せがあるからだ。誰も、繰り返しの日々を望まない者の事を考えはしない。自分が幸せだから、自分は満たされているから。
だから、僕はそんな彼等の事を思う。こんな退屈な世界で彼等が僕の脇役になる姿を妄想しながら、僕はこの胸の内に秘めた強い思いを秘かに馳せるのだ。
——授業中、ノートにペンを走らせる音だけが響く教室。そこに、突然として現れる魔法陣。誰もが騒ぎ、驚愕する中、僕だけが行動する。魔法陣に飛び込み、まだ見た事のない世界に一歩踏み出し、俺TUEEEする自分の姿を。
だけど、そんな妄想は非現実過ぎて臨場感に欠ける。勿論、起きて一番嬉しい非現実はそれだ。
だが、高望みは良くない。今から話す妄想が高望みでないかと言われれば高望みでしかないが、異世界を思うよりはずっとマシなものだ。
今よりずっと非現実で、ずっと臨場感があって、ずっと僕が退屈にならなくて済む世界。
——授業中、教室に投げ込まれる催涙弾。銃を所持したテロ集団にクラス全員が人質に取られ、恐怖に泣き出してしまう女の子が一人。痺れを切らしたテロリストの一人が、女の子の髪を鷲掴みにする。〝これは、見せしめだ〟。そう言いながら、女の子の頭を撃ち抜くテロリスト。
僕は、望んでしまう。どうしようもなく、それが現実であればと〝強く〟——。
——朝、いつもと同じ様に気さくに挨拶をしてくれる女の子。あいつと関わらない方がいい、そんな周りからの忠告も無視して、僕に話しかけに来てくれる優しい女の子。もし、そんな彼女が僕に挨拶をしに来てくれた時、もし、僕が彼女のお腹をナイフで突き刺したら、一体彼女はどんな顔をするだろうか。
僕は、望んでしまう。どうしようもなく、それが現実だったらと強く〟——。
——教室内、手を繋ぎ、二人だけの世界に酔いしれるカップル共、席をくっつけ、勉強を教え合うガリ勉共、机に腰を下ろし、それを中心に皆が囲んで会話をするリア充共、そうして和気藹々とクラスメイト達が過ごす休憩時間。そんな時間に、もし、クラスで浮いた存在の僕が爆弾を掲げたら、皆はどんな顔をするだろうか。
僕は、望んでしまう。どうしようもなく、それが現実になる様に〝強く〟——。
だけど、幾ら望んでも、僕の元に非現実は起こらない。僕の性根は酷く現実的で、人を貶めるなんて行為を起こすにはあまりにも合理性を重んじてしまう。
僕は、この退屈な世界が嫌いだ。数多の鎖で雁字搦めに拘束して来るこの世界が、どうしようもなく嫌いで、どうしようもなく退屈で、どうしようもなく、僕は妄想の中の世界を望んでしまう。
だから——。
——僕は、マンションの屋上から飛び降りた。
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