桜の上にのぼる月
しいず
桜の下の月
第1話 桜の下の少女
新入生がわたしの通う高校に入学して3日間ほど経った春の夜。
空には雲がなく、満月がきらめき、その姿が川面に映り、川沿いの桜並木は
満開は過ぎたがまだまだ見頃。
桜並木がある川の岸辺には、菜の花も咲きほこっている。
そんな夜の桜の下で、わたしは1人の少女の姿を見つけた。
長い髪にすらっとした身体、クールな雰囲気だが、空を見上げて何か寂しげ。
そんな少女が提灯の
距離は少しあるが、それでも同じ学校の制服という事はわかった。
ただ、こんな子は今まで学校で見た事も、聞いた事がない。
もしかしたら、新しく入学した1年生なのかもしれない。
こんな時間に桜の下のベンチに制服のまま座り、とても不思議な子だけど
親に急ぎの買い物を頼まれている。
だから、このまま見とれてる事も、声をかける事もできず、スーパーへと向かう。
ただ、その少女は月あかりと提灯の淡い灯につつまれて、まるで精霊の様な美しさだった。
そして、わたし
「はぁ……」
翌日、教室の席で昨日の女の子を思い出してため息をつくけど、スーパーからの帰りには女の子の姿はなかった。
もしかしたら、本当に桜の精霊だったかもしれないけど……精霊がうちの学校の制服を着ている訳がないよね。
距離があり、薄暗いので顔ははっきり見えてないけど、それでも可愛いと言うより綺麗だとわかる程だった。
身長も高そうで、クールでありながら、そんな女の子が夜桜の下で月明かりと提灯の灯にうっすら照らし出されていた。
妖艶というか幻想的というか……とにかく不思議な女の子だった。
でも、よく考えてみたら、夜の20時近くに制服で桜の下のベンチに座っている女の子は
不思議って言うか変な女の子だよね。
なんであんな所に座っていたか気になったけど……もしかしたら、本当にわたしにしか見えてなかったかも。
そして、精霊じゃなくて、幽霊だったかもしれないけど……あんな美少女の幽霊だったらウエルカムだよ。
「はぁ……」
わたしはまたため息をつく。
精霊だろうが、幽霊だろうが、生きた人間だろうが、あんな女の子が地方の学校にいたらぜひ友達になりたい。
「朝からため息をついて、相変わらずだね、さくら」
声をかけて来たのは友人の北山なこる。
わたしの少ない友達の1人で、高校入学後に出会い、1年生の時と同様に同じクラスになった。
「もしかして、また食べ過ぎ?」
「わたしは食いしん坊キャラじゃないって」
「わかってるよ。で、今日はどうしたの?」
「実は昨日の夜にね……」
なこるに昨晩見た、桜の下の少女の話をした。
「その子なら……聞いた事あるかも」
「え、本当に!?」
わたしは思わず、机の上に身を乗り出してしまう。
「さくら、落ち着いてよ。その子かわからないけど、1年生に髪が長くて背が高い子がいるのを見たって子がいたかな」
「そうなんだ」
「1年生ならわかるかもしれないけど……まだ、部活にも新入部員もいないからね。
ただ、そんなに目立つ子ならば、1年生の教室に行けばわかるんじゃないのかな?」
「確かにそうだけど……」
すでに噂になりつつあるのならば、1年の教室に行けばわかるかもしれない。
ただ、1年生に知り合いがいる訳でもなく、部活にも入ってないので、1年生とはまるで接点がない。
でも、1年生の教室は、わたしの教室から下駄箱へ行く通り道なので何気なく見てもいいかもしれない。
ただ、2年生が1年生の教室を覗くのは不自然だよね。
「2年生が1年生の教室を覗いて歩くのは変じゃない?どのクラスかわからないし」
「確かにそうだけど、目立つ子だからすぐにわかると思うよ」
「それじゃ……放課後に覗いてみるかな……」
「そうしてみなよ。あと、新入部員が入ったらわたしも何気なく聞き出してみるよ」
「うん、そうしてね。頼んだよ、なこる」
「まかしてちょうだい」
なこるはわたしと違って、部活に入っていて交流関係も広い。
なので、なこるに全てを任せてもいいけど、わたし自身も1年生の教室に行って確かめる事にした。
放課後、早速1年生の教室の様子を見に行くけど、1年生は殆ど下校済みでどの教室も数人が残っているだけだった。
桜の下で見た女の子は目立つ女の子だったので、見ればすぐわかるけど……教室に残っている
女の子は背格好も髪型も違っていて、それらしい女の子は見当たらない。
1年生のクラスは5クラスで、下駄箱の奥にもう2クラスあるのでそちらも
確かめに行ったけど……こちらの教室には男の子しかいなかった。
(今日はもう帰ったみたいだから、諦めるかな……)
どの教室にもいないので、今日は諦めて帰る事にしたけど、もしかしたら本当に幽霊か精霊で見えてるのはわたしだけだったりしないよね?
わたしが桜の下で見た女の子が本当に実在するのか不安になったのであった。
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