第3話

 せっ太が衝撃の告白をしたので、私たちは帰るに帰れなくなった。

 ラークは店の店主に事情を話し、営業時間を少し伸ばしてくれることになった。

 名前も知らない店主さんマジあざっす。


 私も妹に、少し遅れる旨をメッセージに残す。

 すると、数秒も経たないうちに、何十件も返信が来た。


『なんで???』

『今日は早く帰るって』

『いまどこ?』


爆速で流れていくメッセージアプリ。通知がどんどん加算されていく。

 おいおい妹よ、お前は私の保護者か何かかな?

 私は見て向ぬふりをして、スマホをしまう。


「あ、あのすいません。わざわざ……」


「いえいえ、それにしても、友達が居ないのですか?」


 ラークが席に戻ってきて、改めて、信じられないといった様子で、問いかける。

 正直私も半信半疑だ。

 今をときめくアイドル、高瀬まなみが、友達が居ないだなんて、にわかには信じられない。

 てっきり、学校でも周りが放っておかずに、逆に辟易しているものかと思っていた。

 いや、私の主観なんだけどね?


「はい……アイドルとしてデビューして以来、周りが若干私のことを避けてるような気がして……。で、でもいじめとかでは無いんです! なぜか、みんな私に遠慮しているというか……」


「ああ、それは少しわかるなぁ」


 そうか、せっ太のクラスメイト達は、急に遠い存在になってしまった彼女に対して、どう接していいのか分からないのだろう。

 確かに、よほど度胸のある奴じゃないと、話しかけるのは相当困難だ。私とてクラスメイトにアイドルが居たら、少し避けてたかもしれない。


「う、うん、僕だったら恐れ多くて話しかけられないもん」


「やっぱり、そうなんですかねぇ……はぁ」


「せっ太さんは、クラスの人には、いつも通りに接してほしいとは言ってないのですか?」


「正直、仕事が忙しくて、学校に行けてないので、お話どころでは……。今日だって事務所がオフにしてくれただけなんです」


 しょんぼりとうなだれるせっ太。

 正直デリケートな話題なだけに、四人とも口を塞ぎ黙り込んでしまう。

 うーむ、しかし、この空気耐えられんな……。


「うん、そうだな、とにかくせっ太は友達を作りたいってわけだな?」


「はい、そしてあわよくば、わんかにのキャラのように友達といちゃいちゃしたいです……」


「友達といちゃいちゃする奴はめったに居ないぞ?」


「そんな!?」


 最後の最後で、とんでもない欲望を口走ったなせっ太よ。

 まあ、ああいう日常系アニメはよく友達といちゃいちゃしているが。そのせいで百合二次創作を書き始めた奴がここに一人いるし。


「うう……やっぱり私には無理なんでしょうか」


「あ、そういえば、ゆかたそは? 同じメンバーでしょ?」


 らきすとがせっ太に聞く。

 ああ、そうだ同じユニット組んでるゆかちゃんがいるじゃないか! 割と距離も近い。よくテレビでも仲良しアピールをしてるしな。


「ゆかちゃんは、収録が終わるととたんに喋らなくなってしまって……彼女も私を避けてるんです……」


 両手で顔を覆い、机に突っ伏するせっ太。

 おおう、そんな裏話聞きとう無かった……。

 らきすとも自分で聞いておいて、勝手にショックを受けてるし。何がしたかったんんだこいつは。


 くぅ、ここまで来たら腹を括るしかないか。


「結構重い話を聞いてお腹いっぱいなので、纏めると、せっ太は普通の女子高生として青春を送りたいわけなんだな?」


「はい、その通りです」


「それで、私たちと青春を送りたいと」


「はい……」


「私たち、結構大人だけど、青春送れるかな……?」


「わ、私は流石に無理でしょう……だって還暦ですし」


「ぼ、僕も24歳だし……ちょっと……」


 大人勢がそろいもそろって情けない限りである。

 いや、だって私もそろそろアラサーだし、今から青春ってのもなと思うこともある。

 というより、大人が青春って送っていいの? 捕まらない?


 というか、そもそも青春ってなんだ?


 三人揃って、うんうんと頭をひねっていると、せっ太が少し諦めた表情を浮かべながら、寂しそうな笑顔でしゃべり始める。


「あ、あの、皆さんありがとうございます。そんなに真剣に考えてくださって。で、でももう大丈夫です! 皆さんとお友達になれて嬉しいですし、そんな青春ってものに拘らなくても、皆さんとおしゃべりするだけで……楽しいです……」


 徐々に、せっ太の目じりに涙が浮かび始める。

 ああ、くそ。まったく、大人が子供を泣かせるとか、マジであり得ねぇ。


 簡単な事だろうがよ、観音寺芒、せっ太の友達になって、もう一回、学生の頃に捨てたはずの青春って奴をこの子と一緒に送り返せばいいって話だろ?


 何ビビってんだよ、情けねぇ。

 大人だったらガキの願いなんざ、1000回以上叶えてやらねぇとな。


 大人だったらなんだ? 青春は送れねぇってか?

 ふざけんな誰が決めたんだ? そんな固定概念吹き飛ばしちまえよ、私らしくねぇ。


 私は、せっ太……。いや、高瀬まなみの目の前に歩み寄る。


 そして、乱雑にまなみの頭を撫でた。


 急なことにびっくりしたのかまなみはポカンと口をあけ、こちらを見る。


「おーけ、おーけ! 青春上等! そういうことならこの観音寺芒にまかせな! もうちょいでアラサーだけど、おばさんでもいいなら、いくらでもいちゃいちゃしてやるよ!」


「……す、すすきさん?」


「うん! 私の名前! 本名! これからよろしくな、まなみ」


「え、あ、ありがとうございます!」


 私が、啖呵を切ると、まなみは目にいっぱいの涙を浮かべながら、嬉しそうに笑う。

 うん、やっぱり、子供は笑顔が一番だな。


「……ふふ、そうですね、マイセンさんがここまで言うのなら、一番の年長者の私も一肌脱ぎましょう。せっ太さん……いや、まなみさん、これから寂しくなどさせませんからね?」


 ラークも覚悟を決めたのか、笑顔を浮かべ、まなみにそう告げる。

 さて、あとはらきすとの奴だけだが。


「……あ、あの」


「ん~? いいのか~? らきすと~? このままだと、私たち、お前の前でいちゃいちゃしちゃうぞ~?」


 そう言いつつ、私はまなみをギュッと抱きしめる。

 正直お金も支払わず、こんなことをしてもいいのかと若干罪悪感は沸くが、まなみと私はもう友達なのだ、だから抱き着いちゃったりしてもいいのだよ。


 あーいいにおいする。これが現役アイドルのにおいかー。


「ぐ、ぐぬぬ……わ、分かった! 僕も、青春を送ってやる! だから、僕も抱かせろ!」


 やべぇ、調子に乗りすぎた。らきすとまでも、まなみに抱き着いてくる。

 今の状況は、私とらきすとの間にまなみが挟まっている状態だ。

 しかも、なんからきすとの鼻息荒いし。やべぇ気持ち悪い。

 ラークは、横で「いいですねぇ、素晴らしいですねぇ」とニヤニヤしながら言っている。


 腐ってもオタクの集まりだ。なるほど、言動がすべからずキモイ。


 そして、当のまなみはというと。


「うへへ、おっぱい気持ちいい、いい匂い、幸せ」


 私たちの胸の感触を堪能しており、アイドルが見せちゃいけないようなニヤケ顔で顔を埋めていた。


うん、現役アイドルとは思えないほどキモイ。


 ──ー


 こうして、第一回オフ会は幕をとじ、私は家に帰りついたのだが。


「どうして、私のメッセージ無視するの? 私の事嫌いになっちゃったの? ねぇ、おねぇ答えてよ」


 きらりから、めちゃくちゃ詰められるのであった。


「おねぇから、他の女の匂いがするんだけど、どういうこと? 私以外の女とくっついたってこと?」


 この調子で、妹による詰問が夜通し行われたのであった。

 うん、今度からメッセージの無視はしない。私はそう結論付けざる負えなかった。



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