SNSから始める私たちの遅い遅い青春生活!

くうはく

第1話

 昔、私は両親を亡くした。

 交通事故だったという。


 今だ幼かった妹と二人きりになってしまった、その時は人生に絶望してしまったものだ。


 私の名前は、観音寺芒かんおんじすすき

 妹の名前は観音寺きらり。


 両親の棺桶の前で、涙を流す妹とは対照的に私は、その場でも、泣きはしなかった。

 覚悟はできたからだ。

 これから私は両親に代わって、妹と支えあいながら生きていく。


 泣いている妹を横目に見ながら、私は妹を抱き寄せ。


 そう、両親に誓った。




 そこから、10年時はたった。


 当時18歳だった私は、28歳になり、OLをしている。

 6歳だった妹も16歳になり、高校生だ。

 いやはや、若いってのはいいねぇ。

 今では、立派なギャルに育ってしまった。


 悪い、両親よ。


 しかし、まだまだ姉離れができない様子で、家に帰ってくるたびに抱き着いてくるのは勘弁してほしいものだ。


 さて、ここで話が180度変わってしまうが、私には趣味がある。

 それは、アニメ、漫画鑑賞。

 俗にいうオタクというやつだ。


 最近沼っている、アニメは「わんないとかーにばる!」という題名のアニメ。

 定時制高校に通う四人組の女子高生の日常を描いた、割と尖った設定をしている作品。

 その作品にどっぷりとハマってしまった私は、日々、SNSで二次創作小説を投稿している。

 ジャンルは百合。マイセンという名前で活動をしている。

 まあ、そういう作品だから仕方ないね。


 日々、推しカプに狂っていたら、SNSでも友達ができた。


 主に、絡んでいるのは、せっ太、ラーク、らきすとの三人。


 せっ太は本人こそ、創作活動はしていないが、よく私の投稿した作品にたいして、コメントをくれる、良い奴だ。

 SNSでもたいした投稿じゃない言葉にも、返信を貰ったりする。

 よく絡む相手の一人。

 おそらく、文体が若いので男子高校生だろう。


 らきすとは変態。

 イラストを投稿しているが、その大半は、わんかに(わんないとかーにばる! の略)主人公の妹のあられもない姿を主に描いている。

 ロリコンなので危ない奴だ。

 しかし、悲しいかな私とよく話が合うのでお互い砕けた口調で、絡んでいる。

 本人曰く女とのたまっているが、確実におっさんだろう。


 ラークは癒し。

 せっ太同様、私の作品にたいして、毎回コメントをつけてくれる優しい奴。

 SNSの投稿はいつも女子力の高そうな、料理の写真や、推しのアクスタを持って風景の写真を撮っているものが多く、この子こそ女の子だと私はにらんでいる。

 返信も可愛らしい、敬語スタイルだし、とにかく多分かわいい。


 そんな感じで、いつも四人で面白おかしく、SNSという魔境を楽しんでいる、最中のことだった。



『みんなでオフ会しませんか?』


 せっ太から、急にそんなメッセージが送られてきた。


 開催場所は、都内。

 全員、都内住みだとのこともあり、その提案はすんなりと、みんな受け入れた。


 いや、なぜからきすとだけ、妙に渋っていたが、私が会うのを楽しみにしていると伝えたら、承諾した。

 かわいいところがあるじゃないかおっさんめ。


 こうして、オフ会当日。


「おねぇ、本当に大丈夫?」


 11時ごろようやく起きてきたきらりが、パジャマ姿のまま、心配そうに、私に言ってきた。


「ん? なにが?」


「いや、おねぇ、これまであんまり休みの日にお出かけしたりしていなかったから……」


 私が少しおめかしして、出かけることに違和感を覚えたのだろう。

 きらりは私の服をすこし控えめにつまみ、眉をひそめながら私に言ってきた。


「大丈夫だって、私だって出かけるときくらいあるさ」


「でも、おしゃれして行くなんて……」


「おおう、妹よ、私だっておしゃれぐらいはするぞ?」


 きらりは私のことをなんだと思っているのだろう。

 芋女が、急に色気づいたから悪い男に騙されているとでも思っているのだろうか。

 まあ、そんな奴がいたら、私はグーパンで殴り飛ばすくらいの胆力は持ち合わせているから、大丈夫なんだけど。


「まあ、夕飯までには帰ってくるから、心配しなさんなって」


 そう言いながら、私はきらりの頭を撫でる。

 納得はしていないようだが、きらりはすこし砕けた表情になり、渋々といった感じだが、見送ってくれるようだ。


「行ってらっしゃい、おねぇ。車には気を付けてね」


「ああ、行ってくるぜ、我が妹よ」


 ────


 こうして、私は約束の時間より、少し早く到着したことで、事前に交換したメッセージアプリに、私の服装を書き込む。


『先に着いてるからなー。ちなみに服装は白のシャツワンピース』


 打ち込んで、数分待つと返信が返ってくる。


『は? 通報した』


 らきすとからだった。

 なんで通報されなきゃならんのだよ。


「特段、おかしいところ無いよな?」


 来る前に最低限、化粧もしたし、見た目は悪くないはずなんだけど……。


『なんで、女装してんの?』


『失礼だな、私女だよ』


『は?』


 らきすとから続けてメッセージが送られて来たので、とりあえず返信する。

 なぜか信じられないといった様子だ。


 え? 私、女だって思われてなかったってこと?

 そういえば、SNSで女だってこと明かしてなかったような気がしてきた。

 ま、まあ、今更意識することでもないだろうに、らきすとめ、 さては女性経験がないタイプだな?


『驚きましたね、私はてっきりマイセンさんは男性かと』


 続けてラークもメッセージを飛ばしてきた。

 なるほど、私はずっと男だと思われてきたわけか。

 まあ、それもギャップがあっていいとは思わんかね?


 私はラークがどんな可愛い格好で来るのか妄想しながら、待っていると、後ろから声が聞こえてくる。


「あ、あの」


「はいはい」


 女の声だ! やはり、ラークは女の子だった!

 そう思い私は嬉々として振り返った。

 そしてそこにいたのはバンギャだった。


 いや、急にごめん、分かりにくい例え出しちゃって。


 そこに立っていたのは黒髪ボブの女の子。前髪にところどころ赤のメッシュが入っており、背は少し小さめ。

 格好はパンクロッカー風の黒を基調とした服に、ところどころアクセサリー的なものが服に引っ付いている。

 度肝を抜かれたのは、耳にピアスが何個もぶっ刺さっているというとこ。


 やべぇ、怖い人だ。


「え、えーと。もしかしてラーク?」


「え? ああ、違うよ。僕はらきすと、マイセン……であってるよね?」


 まさかの変態のらきすとだった。

 そっかー。これには数分前、ギャップがどうのこうの言ってた自分が霞むくらいの衝撃である。

 そうか、これが日々、主人公の妹に絶大な性欲をぶつけているらきすとだったのか。

 しかし、服装も恐れ入った。パンクロックで登場してくるとは。


「……ごめん、やっぱ帰る」


「え!? なんでなんで!?」


「やっぱ、僕、人と喋るの得意じゃないし、怖がらせちゃうから」


「いやいやいや、そりゃ最初はびっくりしたけど、会えてうれしいぜ? らきすと! だから、な? 帰るとか言わずにさ!」


 私は、思い切って、らきすとの手をつかむ。

 そうだぞ、私、勝手におっさんだと思っていた、らきすとが女の子で何が悪いんだ、逆に美味しいくらいではないか。

 それにちゃんと見ると、かなりかわいいし。


 私はかわいい女が大好きなのだ。異論は認めない。


「え? 手……」


「そうだよ、らきすと、毎日イラスト投稿してくれてありがとな! いやー、妹ちゃんの絵を描いてくれる人なんて、あんまり居ないから、めちゃくちゃ助かってるぜ!」


「え? え?」


「そーだ! 今度、絵チャでもしない? 私も下手だけど、ちょっとは描けるからさ!」


 そんなことを言っているうちに、らきすとは少し、伏目がちにになりはじめた。

 心配して、私が顔を覗き込むと、ちらりと顔が赤くなった、らきすとが見える。

 風邪か?


「どうしたよ?」


「……ううん、なんでもない。まあ、さすがにワンピース着てるって言われた時、本気で通報しようかと悩んだけど」


「なんでだよ」


 軽口もたたき合い、いつもの話しているらきすとの調子に戻ってきたみたいだ。

 二人してぎゃははと笑いあった。


「おや、もしかしてマイセンさんとらきすとさんですか?」


 二人で軽く話していたら、またもや声をかけられたため、後ろを振り向く。

 しかし、なんだこのダンディーな低音ボイスは。

 気品のあふれる、男の声の元へ振り向くと、そこには白髪をオールバックにした、背の高い渋い感じの男性が立っていた。

 年齢は50代くらいだろうか、いつものメンバーとイメージ一致せずに少し固まってしまった。


「え? だ、だれ?」


 すこし、らきすとが怯えながら声をかける。


「ああ、申し遅れました、私、ラークです」


 なんと、女の子だと思っていたラークが男だった。しかも、少し御年輩の。


「え? ラークっておっさんだったの?」


 思わず、私が失礼なことを言ってしまう。

 許せ、衝撃で頭が混乱しているのだ。


「ははは、マイセンさんはリアルでも変わりませんね、ええ、おっさんですよ」


「ご、ごめん、失礼なこと言って」


「いえいえ、こうして会えただけでも嬉しいものですのでお気になさらず」


 ラークは柔和な笑顔を私たちに向ける。

 おおう、この人今でもダンディーでかっこいいが、昔はすげぇイケメンだったんだろうな。

 そんな、感じがする。


「ら、ラークさんは今、何歳なんですか?」


「ああ、らきすとさん、今更私たちの間に敬語など不要ですよ、友達ではないですか。それと私は今年で還暦を迎えました」


 ラークさん、還暦だった。

 いやはや、オタクの高齢化が進んでいると昨今では聞くが、ここまで気合の入ったご年配のオタクは見たことがない。

 むしろ尊敬である。

 てっきり、行動が若いので普通に女子高生だと思っていたくらいだ。


「わ、わかった……じゃ、ラークって呼ぶ」


「ぜひそうしてください」


「じゃあ、私はおっさんって呼ぼうかな」


「マイセンさんは少しは手心をください」


 この切り返し、うん、SNSで知るラークそのものだ。

 私は少し安心する。

 ヤバめの人だったら、すぐさま、らきすとと一緒に逃げていた。


「そういえば、せっ太さんはまだいらっしゃらないようですね?」


「ん? ああ、そうだなーちょっと時間過ぎてるし、もう来てもいいころ合いなんだけど」


 そう言いながら私たちがあたりを見渡していると、遠くから小走りでこちらへ走ってくる、小柄な人がいた。

 おそらく学校指定であろう制服、姿は女子高生だが、私たちはその姿に度肝を抜かれる。

 サングラスにマスク、そしてニット帽をかぶっており、完全に、不審者スタイルでこちらへと走ってくるのだ。


「やべぇ、不審者だ」


「ま、まじか」


「ああ……どこに出しても恥ずかしくないくらい不審者ですね」


 いつでも逃げられるように、私たちは少し後ずさる。

 これで中身がおっさんだったら通報案件だ。


「はぁはぁ……お、お待たせしました~!」


 そんな懸念をする必要はなかったようで、声が女の子だったことを確認した。

 というか、めちゃくちゃかわいい声だな。不審者だけど。


「あ、あの、マイセンさんにらきすとさん、そしてラークさんですね? 私、せっ太って言います! 急にこんな格好で来ちゃってごめんなさい!」


「いやいや、気にしないで、あ、私がマイセンね、こっちのいかついのが、らきすとでおじさんがラークだから」


「いかついって」


「おじさんって」


 雑に紹介されたことを不服に思ったのか軽く抗議してくる二人。

 そんな二人を受け流し、あらためて格好を見る。

 しかし、せっ太は男子高校生くらいに思ってたからこちらもびっくりした。

 いやぁ、SNSの印象ってあてにならないなぁ。


 小柄な背にどこかの高校の制服だろうか。可愛らしい大きなリボンが胸元についている。


「訳あって、往来に顔は出せないので、こんな感じで申し訳ないのですが……」


「うん、流石に不審者にしか見えないなぁ」


「や、やっぱり……」


 分かりやすくしょんぼりといった感じで、顔を伏せる不審者。

 うーむ、このまま一日過ごすとなると、この不審者っぷりには少し難しい所がある。

 どうしたものかと私が頭をひねっていると、横からラークが提案してきた。


「そういえば、私の知り合いにカフェを営んでいる方がいらっしゃって、そこなら貸し切りに今から出来ると思うので、そこへ行きませんか?」


「それが、出来るのなら僕もそこがいい。あんまり歩きたくないし」


「あーじゃあ決まりだな、せっ太もそれでいい?」


「は、はい! すごく助かります!」


 こうして、私たちは、ラークの知り合いだという店に、赴くことになったのだった。


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