第3話 じいさんが何かやらかした!

何日か経って、じいさんの家の向かいのスピーカーおばさんが、かのじいさんは住居不法侵入者だと言い始めた。

「いえねぇ、大家さんが、そんな人に家を貸した覚えはない、と言うんですよ。私も気味が悪くてね。通報しようかと思うですけどね。」


そして本当に、警察がじいさんの家まで来た。その時、僕たちもじいさんの庭にいたのでびっくりした。

「ご近所の方から、通報がありまして。」と、警察官がじいさんに話しかけた。

その時、ひょっこり大家の富子ばあさんが現れた。

「ええ、ええ、敷金も礼金もいただいてますよ。ええ、今月の初めからです。何でしたら、家まであなた、契約書を見にいらっしゃいますか。」

と、富子ばあさんに言われて、その警察官は、

「いえ、ご近所から通報があったもので、ちょっと確認に参っただけです。失礼いたしました。」と、帰って行った。

この警察官は、赤ん坊の頃、富子ばあさんにおむつを替えてもらったこともある地元の人で、富子ばあさんには頭が上がらない。

スピーカーおばさんは、ばつが悪くなって、しばらくはご近所であれこれ吹聴しないようになった。


ところで、警察官が庭に来たのと同じ日に、窃盗事件が起きていた。

街の大きなスーパーマーケットで、お酒の瓶がケースごと盗まれたというのだ。以前にも盗まれたことがあるということだ。

そして、店員の目撃証言によると、犯人は隣のじいさんのようだったと言う。

刑事の前で店員は、

「あ、この人に間違いありません。」と、きっぱりとじいさんを指さした。

しかしその日の夕方は、じいさんは、あの警官と富子ばあさんと会っていた時だ。

「もう一度確認しますけど、あなたがこの人を見た時刻はいつですか。」

と、刑事は店員に聞いた。

「ええっと、五時ちょっと前ごろですね。時計を見ましたので間違いありません。」

「で、犯人はどの方角にどうやって逃走しましたか。車ですか。どんな車でした?」

と、刑事がまた聞くと、店員はもじもじしながら、

「それが、ケースを抱えたまま、空を飛んで行ったような気がするんですが...」

と、答えた。

ということで、アリバイ成立となり、じいさんはあっさりシロになった。


「ふあっ、ふあっ、ふあっ。」

なんだかじいさんは、警察を手玉に取っているような気がしてならないのだが、あのスーパーまで歩いて15分はかかる。たとえ車で行ったとしても、犯罪は不可能だ。

一方祐介は、じいさんのことを全く疑わなかった。


こんな事件もあった。

この辺りは路地が多くて曲がり角も多いのだが、スピードの出し過ぎで荒っぽい運転をする男が、町内に入り込んできた。

その時突然、その車に石つぶてがばらばらと降ってきた。車の窓ガラスは割れるし、ボディもぼこぼこにへこんだ。

「誰だ!」

と、男は怒鳴って、車を降りて辺りを見回したが、全く誰も見当たらない。

呆然としているうちに、またどこからともなく石つぶてがバラバラ降ってきて、男の顔や体に、ぼこぼこ当たった。

男は堪らず再び車に乗ったが、車が言うことを聞かず勝手に動き出して、思いっきり電柱にぶつかった。


男は「誰かに攻撃された!」と通報して、警察が現場検証をしたが、その時は石つぶてなどどこにも落ちておらず、自損事故として処理された。

男は納得がいかず、警察にもっと調べろと要求したが、結局男の交通違反行為が詳細になって、罰金が増えただけだった。


また、ある日大きな火事があった。

場所は、もうすぐ開店する予定のパチンコ店だった。

何台もの消防車が駆け付け、消火しようとするが、なかなか火が消えない。

野次馬がたくさん集まり、その中には僕もいた。

パチンコ店は轟轟と燃え盛るが、幸いにも隣のビルには燃え移らなかった。


僕は何気なく、後ろを振り返って空を見上げた。

驚いたことに、隣のじいさんが空中に舞い上がっていて、大きな団扇を持って炎を扇いでいる。

「ふあっ、ふあっ、ふあっ。」と、嬉しそうに扇いでいる。

『じいさん、何やってんだ?』

僕は回りの大人たちに、「ほら、あれ!」と、叫んでみたが、大人たちは火事ばかり見ていて、誰もじいさんに気が付かない。

いや、一人だけ気付いている人がいた。それは祐介だった。

祐介は、僕の方には一切目を向けず、黙ってどこかへ行ってしまった。


翌日、学校で僕は祐介に聞いてみた。

「昨日、じいさんが空に浮かんでいたよな。」

しかし、祐介は、

「俺は何も見てねぇ。」と、一言だけいった。

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