白物家電

桶星 榮美OKEHOSIーEMI

第1話 洗濯機VS.冷蔵庫

とある休日


洗濯機

「ギィーギィッ・グゥギィン

 グゥゴンギィーグゥギィン

  ゴッゴッゴッゴッキィーー」

冷蔵庫

「おい、洗濯機!うるせぇよ!」


洗濯機

「仕方ないだろ

 今日は洗濯物が多いんだから」

冷蔵庫

「お前、最近ずっと五月蠅いぞ」


洗濯機

「それは僕が毎日休まずに

 真面目に働いているからだよ」

冷蔵庫

「はぁ~、俺も働いてます~

 なんなら24時間、年中無休で働いてます~

 家族旅行の最中も働いてま~す

 お前は奥様に操作してもらえなきゃ

 動けないだろうが」


洗濯機

「僕は、ご主人様の臭い靴下を洗っている!

 だから毎日、足の匂いを気にせず

 仕事に出掛けられるんだ!」

冷蔵庫

「何を言っちゃってるの?

 旦那様の至福の時は

 帰宅後に風呂に入った後のビールなの

 ビールを吞んで明日への活力をうんでるの

 俺が冷やしたビールで!」


洗濯機

「奥様のパンティーを

 優しく洗っているのは僕だ!」

冷蔵庫

「奥様のヘソクリを隠しているのは

 俺なんだよ!」

 

洗濯機

「さっ、最近は子供達も大きくなって

 洗濯物がかさばって力が要るんだ

 それを僕が頑張って綺麗に洗うから

 清潔な衣類が着られる

 それって子供達への癒しだ!」

冷蔵庫

「はぁん、子供達の癒しは

 春夏秋冬アイスなんですぅ

 俺が凍らせてるアイスなんですぅ

 俺こそが癒しの根源ですぅ!」


洗濯機

「洗濯物がいい匂になる!」

冷蔵庫

「それは柔軟剤のお陰だろうが!」


「はぁ~パパ~」

「どうしたママ?」


「最近、洗濯機が凄い音なのよ」

「そうだね」


「もう寿命かしら」

「う~ん、そろそろ買い替え時かな」


「新しい洗濯機が欲しいわ

 乾燥機付き洗濯機

 大きいサイズだと助かる~」

「そうだなぁ、僕は平日は洗濯できないし

 ママもパートで忙しいものね

 乾燥機が有ればお互いの負担も軽くなる」


「そうよ。それに容量が大きければ

 毛布も洗える」

「うん、休日に毛布を抱えて

 コインランドリーに行かなくて済めば

 僕も助かるな」


「買ってもいいでしょ?」

「もちろんだよ。善は急げだ

 早速コヤマ電気店へ行こう」


洗濯機

「・・・・・・・・・・」

冷蔵庫

「おい洗濯機、気絶してんのかよ」


洗濯機

「そんなぁ・・・僕を捨てるの?

 頑張って洗ってきたのに・・・」

冷蔵庫

「まぁ仕方ないよなぁ

 その音は寿命が近づいているんだろ」


洗濯機

「確かに変な音は立ててるけど 

 けど僕は、まだまだ働ける!・・・のに」

冷蔵庫

「まぁそう落ち込むなよ

 いつかは白物家電は捨てられる運命だ

 黙して受け入れろ

 最新式の俺には無縁な話しだけどな」


洗濯機

「なに言ってるの?

 白物家電は毎年、新しい物が開発されてる

 君だって型落ちしてるんだよ

 僕と一緒に捨てられるかもね!」

冷蔵庫

「アッハッハッハ、笑わせるな

 洗濯機は壊れても

 コインランドリーがある

 だが冷蔵庫は無いと食材が腐る

 だから、そうそう捨てられないし

 愛着が有る俺を手放す訳がない」

 

********


次の休日


アホ~、アホ~、アホ~~


洗濯機

「空って、こんなに青いんだね

 烏が気持ち良さそうに飛んでるよ」

冷蔵庫

「ああ、そうだな・・・」


洗濯機

「ここが噂の粗大ゴミ集積場かぁ・・・」

冷蔵庫

「ああ、そうだな・・・」


洗濯機

「あの破砕機で粉々にされるんだね・・・」

冷蔵庫

「言われなくても破砕機は見えてるよ!」


洗濯機

「僕たちの白いボディーは青空に映えるよね」

冷蔵庫

「あぁ、映えるよな・・・

 って、お前、腹の中で俺を笑ってるんだろ

 自分は捨てられないって豪語してた俺を」


洗濯機

「そんな事はないさ

 今更そんな事どうでもいい事だよ

 それに僕の腹の中は空っぽだし・・・」

冷蔵庫

「・・・・・・・・そうか・・・」


洗濯機

「それに僕たち、もう直ぐ破砕はさいされる

 白物家電の逃れられない終着点だよね」

冷蔵庫

「破砕されて元の姿は微塵も残らないかぁ」


洗濯機

「ねぇ覚えているかい?コヤマ電気量販店から

 一緒にトラックの荷台で揺られて

 届けられた日のことを」

冷蔵庫

「憶えているさ」


洗濯機

「あの日はワクワクしたなぁ

 これから洗濯機として

 一生懸命働いて喜んでもらえるんだって」

冷蔵庫

「お前は真面目すぎなんだよ」


洗濯機

「ハッハッ、真面目か・・・

 真面目に働いたよねぇ僕たち」

冷蔵庫

「そりゃ家電だもの当たり前だろ」


洗濯機

「始めは、ご主人と奥さんは同棲していて

 結婚して子供達が生まれて・・・

 いつの間にか、あの子たちも小学生かぁ」

冷蔵庫

「そうだな、大きく成ったよなぁ」


洗濯機

「毎日、働くことだけで精一杯で

 時が流れて自分が老朽化したことに

 気が付かなかったよ」

冷蔵庫

「それは俺だって同じさ。

 毎日毎日、一日も休まず働いて・・・

 最後に感謝の言葉くらい欲しかったな」


洗濯機

「そうだよね、でも仕方ないさぁ

 人間にとって僕たち白物家電なんて

 ただの家電なんだから」

冷蔵庫

「壊れたり古くなったら捨てて

 新しい便利な家電に買い替える

 それが人間だものな」


洗濯機

「家電が、どんなに心を込めて働いても

 人間にとっては当たり前のこと」

冷蔵庫

「当たり前のこと、かぁ。

 俺達は頑張ったよな!

 家電の使命を全うしたよな⁉」


洗濯機

「うん!僕達いい家電人生を送ったよ!

 ・・・・・あぁ、一度でいいから

 一度でいいから・・・・・

 毛布を洗ってみたかったー!」

冷蔵庫

「お前、そんな夢を持ってたのか?」


洗濯機

「可笑しいだろ、笑えるだろ

 5㎏容量の僕が毛布を洗いたいなんて

 叶うはずのない儚い夢さ」

冷蔵庫

「可笑しくなんて無いぞ洗濯機!」

 

洗濯機

「ダメだ・・・だんだん意識が薄れていく

 僕はもう終わりみたいだ

 さようなら冷蔵庫くん・・・」

冷蔵庫

「おい!しっかりしろ洗濯機!

 おい・・・あぁ返事が無い

 先に蓄積電力無くなりやがって・・・

 俺だって、俺だって、

 叶えたい夢は有ったんだ・・・

 一度でいいから

 A5ランクの和牛を瞬間冷凍したかったー!

 そんな機能は持ってないけど、でも

 でも瞬間冷凍してみたか・・っ・・た・・・」


    集積場、強者達が夢の跡

    響くは破砕機の音と

    白物家電を弔う烏の鳴き声

    カ~、カ~、カ~、アホ~、



  ————お後がよろしいようで————

 



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