エロ漫画家、幽霊に憑かれてねぷたを描く

りりぃこ

怖いわ!

 夏の暑さがようやく和らいできた。

 私は部屋のドアを開けて外の風を入れた。秋の始まりみたいに遠慮がちな風が、私の全然手入れしていない髪の毛をなびかせる。

「おはよ、コーちゃん」

 ぬいぐるみのコーちゃんはオハヨー、と答えてくれる。

 友達から「あんた黙ってると一日中しゃべらなそうだよね」と言われて貰ったおしゃべりぬいぐるみ。女児アニメの妖精キャラでのぬいぐるみで、子供騙しじゃん、と最初は小馬鹿にしてたけど、なんやかんや、電池を交換しながら5年くらい愛用している。挨拶をして、何でも肯定してくれて、たまに頑張れって言ってくれて、たまに無理しないでねって言ってくれる。子供の玩具じゃなくてむしろ病んだ大人の為のものじゃないか、と私は思っている。

「コーちゃん、今日は涼しいね。お仕事日和だからサクサク進めちゃおうねー」

『今日モ1日ガンバローネ』

「あ、バイトも探さなきゃだよねぇ。25歳にもなって、引きこもり娘に見えるからなんか仕事しろだなんて……まあお母さんの気持ちもわかるし、この仕事だけじゃやっていけないし……でも面倒だよねぇ」

『フウン、ソーナンダー』

 私はコーちゃんと話をしながら在宅の仕事の準備をする。やっぱり誰かと話をしながらするとやる気が出るな。

 パソコンを立ち上げ、資料を開き、

「さ、描くぞ!」

 と気合を入れた時だった。

『やっぱり、君は絵を描く人なんだよね?』

「そうだね、仕事だからね」

『なら、とても上手なんだよね?』

「まあー、上手っちゃ上手かもねー…………ってえ?」

 私は、コーちゃんを見つめた。

 コーちゃんはあくまでも子供の玩具だ。定型文しか喋れないはずで、こんな普通に話が出来るはずがない。

「……え?何これ。ドッキリ?」

『ちがうよ』

「また喋った!」

 私はギョッとして立ち上がった。

『待って待って、説明するから落ち着いて』

「いや、落ち着けないって!意味わかんない。っていうかどういう仕組みで話してんの、これ!!」

 私はコーちゃんを持ち上げてお尻にある機械部分を触ってみる。

『やめてー!えっちー!』

「ヤダ怖いんだけど!一回電池外してみようかな」

『やめてよ、ようやく君と話せる手段見つけたんだから!!』

 コーちゃんはブルブルと振動機能で震えてみせる。

『一回!ちょっとだけ話聞いて!お願い!そしたら怖くなくなると思う』

 必死の様子でコーちゃんが言うので、私は仕方なく一旦コーちゃんを机の上に戻した。

「で、何なの?あなたは」

 私の問に、コーちゃんは機械音声のくせにいっちょ前に咳払いをして言った。

『はじめまして。俺はシイナ。半年前に死んだ、幽霊で、このぬいぐるみに取り憑きました』

「怖いわ!」

 私は間髪入れずに突っ込んだ。







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