第13話ラスタン襲撃編②
聖教騎士団がこの町、ラスタンに到着したのはマチルダの噂話を聞いてから2日後のことだった。
伝い歩きから少しづつ自分で歩けるようになった俺のそばに、1人の女騎士が近づいてきた。美人ではあるが中性的に見える長身の女騎士は、キラキラ光る銀髪の長い髪を後頭部で1つにまとめ垂らしている。所作に無駄なく洗練されたイメージの彼女は、俺の前に膝をつき「こんにちは」とあいさつした。
顔は決して笑ってはいないが、眼差しに悪意は感じられない。
「にゃんにゃん」
「すごいね。お話もできるんだ。にゃんにゃんが好きなのかな?」
俺の発した言葉に彼女はうなずき、静かに語った。
女性にしては低めで落ち着いた声だ。物腰の柔らかさの中に、気品と気高さを感じる。
俺は女騎士と目を合わせた。
青みがかった鮮やかな緑色の瞳。一瞬、吸い込まれてしまいそうな感覚に陥り、バランスを崩した俺はその場に尻もちをついた。
「ダーク、大丈夫?」
シャーロットが心配そうに駆け寄ってくる。
「ママ、ママ」
俺はすぐに立ち上がり、シャーロットの腕に抱きついた。
「すまない。怖がらせてしまったかな? 悪かったね」
「この子は……ダークは人間です。普通の子供です。洗礼も済んでおります。決して魔族に縁などございません!」
シャーロットが語気を強めて訴えた。
シャーロットがこんなに大きな声を出すところは初めて見た。
なんとなく察しはついていたが、聖教騎士団は俺を探しにこの辺境の町ラスタンまで来たわけだ。
魔力の気配も消えたと言うのに、大した奴らだ。いや、大した女と言うのが正確か。
「奴隷商の館から赤子が失踪した日と、その赤子がここに捨てられた日がピッタリ合致している。十分に魔族の疑いありだ。その子をこちらに渡しなさいっ」
「アルバン、この子は違う」
前に出た男の騎士を女騎士が制止した。
「クロエ団長、しかし……」
アルバンがもどかし気に下がる。
なるほど、やはり彼女が有名な聖教騎士団長、クロエ・シュバリエか。
魔法、物理共にトップクラスの攻撃力を誇る、聖教騎士団の最高司令官。ヒーラーやバッファーをもこなす実質オールラウンダーであり、指揮能力もずば抜けている。
彼女の実力は大陸でも5本の指に入ると言われている。
ホント、やっかいな奴に目をつけられたもんだ。
警視庁捜査一課長との攻防を思い出すな……。
「見たところ、この子に魔力は無いよ。覇気も感じられない。洗礼を済ませている時点で人間であることは間違いないしね。心配させてすまなかった。非礼をお詫びする」
クロエが丁寧に頭を下げる。
「いえ、わかっていただけたのなら構いません」
「よかった。それでは失礼する」
クロエは微笑み、部下に指示すると孤児院をあとにした。
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