第7話







そこから紡がれた言葉は、何故だか俺が千影から千斗星を取り上げるという勘違いが起きていた。何故そういう話になったんだ?

『は!?そういう話はしてないだろう?』

「早く質問に答えてくれ」

俺はずっと千影と千斗星と一緒にいたいと伝えてたはずだろう?こんなにも愛し合ってる親と子を引き離すなんてどうかしてる

そりゃもしかしたら千影を取り合って千斗星と喧嘩するかもしれないけど?それはまた別の話でしょ?

なぜか思い詰めていたようなデカいため息を吐いて急にへたり込んだ千影に駆け寄る

情けなくも千影の涙を前に抱きしめたいのに怖気付いて弱気な思考になってしまう

千影の涙なんて今まで一度たりとも見たことなかったし、自分が今どう思われてるかもわからないからどうしていいかわからなかった


「俺ね10年間好きだった人がいたんだよ」

何故か突然巨大な爆弾を投げつけられた

息の吸い方を忘れるくらいのそんな衝撃

俺は千影が恋をしてたのすら気づいてなかった

しかも10年間というそんなに長い月日をかけて。ソイツとは恋人だったりしたのか、なんて音を発することのできない口から問われることすらなかった

やはり初恋なんて実らないのか


「別に報われなくてもいい、そう思ってた。傍にいるだけでも十分幸せだったから、そのおもいは伝えたことなかったしそもそも伝える気が俺にはなかった」

こんなの勝てるわけないじゃん

そんなに千影から思われてるなんて羨ましい

最初から俺はその土俵すら立ててなかったんだ


「だけどね俺の欲張りな心がね、ふいにひょっこりとでできたからもう大変。どうしても恋心を終わらせる思い出が欲しくなっちゃって。どうせなら俺のこのカラダを使おうって」

少し楽しそうな顔をして話すその顔は綺麗で見惚れてしまった

思い出にカラダを使おうってやっぱり、俺より先に千影を抱いたやつがいたんだ。あの時の答え合わせを3年越しにされている気分だった

嫉妬に加え絶望感が加わる制御できない心

でもまだ続きそうな話にグッと堪えて話を聞く


「すっごく大切にしてたわけではないんだけどね?一生に一度のこのハジメテの時に、大好きな人の子どもが出来たらいいな。でもそいつ優しいやつらしいから避妊具でもつけられたら俺の計画が台無しになっちゃう。だから卑怯だけど俺、小細工までしたんだよ?

でもさこういう時男だから疑われなくてすんでよかったんだけど、ね?そんな小細工なんていらないくらい、その人は中にいっぱい注いでくれたんだ

あの時は嬉しかったな。

ああ、これで確率は上がったなって。

今後この人とは会うつもりもないから最初で最後だと思ってたけど、まさかあんなにだき潰されるとは思わなかったな。何日間か腰がだるくてアレは大誤算だった……

ね、陽斗。

俺さ自惚れてもいいの、か?

俺の心の奥底で考えないようにしていた燻ぶり続けてるこの恋心がまた欲張りになってる。大好きな人との子どもが出来てそれで充分だったはずなのに。


責任、とってくれる?」



あぁこれは夢かもしれない

俺にとってものすごく都合の良い夢。だけどもう夢でもなんでもいいから永遠に醒めないでくれ

俺にとっても忘れられない一生に一度の日に、ハジメテを捧げてくれていた大事な人。それを勘違いして暴走して優しくなんてした覚えがない

手加減なんてない本気の俺の気持ちと欲望の限りを尽くしたあの夜。まさか避妊具に細工をされているなんて夢にも思わなかった

耐えきれなくて許可も得ずしてしまったその行為は千影も望んでくれていたもので、俺との思い出が欲しくて子どもを望んでくれてたんだ。

会うつもりないなんて言わないで?自惚れてよ、それならもう俺も勝手に自惚れるから。


いつも格好つかない俺にちゃんと責任とらせて?

‘千影、俺と結婚してパートナーになってください’



泣いてしまった千影を今度は迷うことなく隙間を埋めるように強く強くギュッと抱きしめる

もう逃さないように、そして悲しい涙を流させないように。俺たち随分遠回りしたんだな

挟まれて突然泣き出してしまった小さな愛しい子に2人して驚いて涙は引っ込んでしまった

涙の膜が張った目で見つめ合いそしてどちらからともなく微笑んだ


『ちーちゃん、あのね』

これからは一緒にいれなかった三年間を埋めるようにたくさん話をしよう

そしてちゃんと言葉にして伝えよう


大好きだよ、千影。愛してる

そして千斗星、生まれてきてくれてありがとう



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