第2話



男と出会ったのは今から13年前の高校入試の発表の時だった

高校の入試発表でもそいつは目立っていて、男女問わず見惚れているものが多かったのを覚えている

俺もその中の1人で随分とカッコいいやつがいたもんだと思った。今思えばあれは一目惚れだったなぁ

話しかける猛者なんかもいて、その人も合格したんだと言っているのをそばで聞いていた

春から同じ高校に通えるんだな、と密かに入学する楽しみが増えた瞬間でもあった


そして迎えた入学式

新入生代表の挨拶で壇上の上に立った時、こいつは顔がいいうえに頭もいいんだと世の中の不公平さを憎んだ

多分それはこの学年の男子全員が思ったことだろう

名前は神無月陽斗harutoというらしい

運がいいのか悪いのか、同じクラスの隣の席にそいつは座っていた

名前に相応しい陽キャで、たかだか隣の席の俺には縁がないだろうとたかを括っていたがそうではなかった


始まってわかったことだがこの学校の授業では、ペアワークというものが頻発している

そしてそのペアワークの相手というのが、隣の席ということだ

必然的に喋る機会も多くなり、つるむようになった

恋心を自覚するのも時間はかからなかったが、その好意がこちらへと向くことがないことは早々に理解した

それは同性同士だからとかいう理由ではない。

性別は関係なく、世の中にもたくさんの形でパートナーとしての在り方は様々だ

昔はどうしてなのか、同性同士はとやかく言われていたらしいのだがそれを世間でどうこう言われる時代でもない


それなら何故?と思われるかもしれないがこの男、陽斗は優しすぎるんだ

見た目はチャラくあるがそれでいて誰にでも優しいし、恋人も途切れている期間がないに等しい

ただしその優しさが自分だけに向かないことが、相手は悔しくて物足りなくなって長続きはしないらしいが。

ふと聞こえてくる会話の中ではアッチの方は相当極上らしくフリーであれば来るもの拒まずなスタンスの為、一夜限りのカラダの関係だけでもという人があとをたたないらしい


そういう噂だったり本人からその手の話を聞いても、何故か陽斗への嫌悪感とか嫉妬心なんてものは感じなかった

もちろん恋心を失くすということも。

これがすごく厄介な気持ちだということに気づいたのは、俺が突然陽斗の前から姿を消した半年前のことだったのだから結構手遅れにはなっていたけれども。ほんと相当のバカで、治ることのない重症だよな

そうして過ごした高校時代はいつしか、親友という立場に収まっていた


高校卒業を機に陽斗と離れて、未来では高校時代の青春として思い出に残るだろうと思っていたが、何故だか陽斗とは同じ大学に通うことになっていた

そこでも結構つるんでいたため、友人からは授業以外の時に陽斗が隣にいなければ不思議がられることが多かった

そうして過ごした4年、案の定恋心は消えず燻り続けることとなった

もう既にここまでで7年ちょっとという月日が経っていたことになる



それならば就職を機にこの恋心に終止符を。と思っていたがこの時もなし崩しで、押し切られる形でルームシェアをすることとなった

俺も今となっては1人で暮らしていくことができるくらいには稼ぎがあるが、当時はそうでもなかったからすごく助かってはいたが。

ちょくちょく書いてた小説がプチバズりして、本格的にそっちの道に進み始めようとしていた時期。

親とも喧嘩していたためにどうしようかなと悩んでいたら、あれよあれよという間に言いくるめられて陽斗の家に引きずり込まれていたのである 


陽斗の家もお金持ちだが、陽斗自身もやりたい仕事を見つけそこそこ金も持っていた

ゆくゆくは親の跡を継ぐそうだがそれもその教育方針の一貫であるらしい

家賃は気にしなくていいと言われたが、最初の方はお金を借りる形でお願いして必ず住んだ分は折半で払うから待ってくれと言い了承を得た

そこからの生活は楽しかった

相変わらず恋人とは長続きのしない陽斗ではあるが、俺との生活は2年も続いている


だけれどふと、俺は思った。

陽斗の恋人といる姿を見たとか、事後を匂わせてきたとか決定的な何かがあった訳ではない

ふと空を見た瞬間に、あと1年以内には陽斗とのルームシェアと己の恋心に終止符を打とうと決めたのだ

この頃になると小説家として、そこそこ収入が入っていたし前借りしていた家賃のお金も返すことができて毎月払うこともできていた

それに引っ越し費用も一応コツコツと貯めてきた分で足りるだろう

そしてそこからは、早かったように感じる

バレないように引っ越し先を探して。家を出る準備もゆっくりと、でも着実に進めていった

幸い向こうも忙しそうでバレることはなかった

引っ越しを伝えようとは思わなかった訳ではない。でも俺はたった一度その可能性に賭けてみたかった


近年人類の進化の中で現れてきた、一部の男性でも妊娠、出産ができるということ

これまではひっそりと知られていたが最近有名な芸能人の方が公表してパートナーとの子どもが生まれたということで、広く世間に知られるようになった

ただ見た目ではその人が妊娠できるのかは分かりにくい為、自分で申告してようやくわかるくらいだ

しかも本当に極一部の人間。幸いなことによりそのうちの1人に俺も入っていた

要は俺も愛する人の子どもが持てるということだ

だから出て行く前日の夜、抱いてもらってそこでこの恋心への思い出として子どもが出来たら幸せだなと思っている

もちろん妊娠、出産出来ることは親しか知らない

しかもこれは本人に関する重大なプライバシーなので、親もそれをバラせば法的措置がとられる

自分勝手なことをしているのはわかっているが子どもができたとしても一切迷惑をかけたりしないし、陽斗に認知してほしいとかそういうのは一切ないから安心して欲しい

知らないうちに子どもがいたら気持ち悪いかもしれないけれど、陽斗自身にも絶対に明かすことはないからバレるはずがない

男性出産は進んでいるとはいえまだまだ未知なことが多いから、もし授かれたら男性妊娠できる人にしか明かさない指定の病院で。そしてそこで産んでから遠いところに行こう


まだ抱いてくれると決まった訳ではないのに、こんなに調べがついてるなんて我ながら気持ち悪いな

そろそろ行動に移してもいいかもしれない

用意はそろそろ整いそうだしあいつも今はフリーだからな

日付は...

そうだな俺が一目惚れした入試の日がちょうど10日後だ

そしてその日を迎えれば、ちょうど片思い歴10年だから区切りをつけるにはちょうどいい

そうと決まれば陽斗に声をかけに行こう


返事は即答してもらえて、シンプルに嬉しかった。過去に何度か千影、俺に抱かれてみない?と言われたことはあったが揶揄うような口調だったので多分あれは間に受けてはいけない冗談だ。と軽くいなしていた

多分抱けたらラッキー、ぐらいの軽い気持ちで言ってきたんだろう

それをのらりくらりしてきた俺からのお誘いだったから、あんなに喜んでくれたのか?

まあどっちにしろ抱いてもらえるならよかった

男同士は色々あるらしいから、長い期間をかけて準備してきたし抜かりは無いと思う

あいつは優しいから多分男のハジメテだろうとその辺の準備は、しっかりしてくれているだろう

だけれど手は煩わせたくない

しかもそれを利用した上で俺は、とある小細工をすることにする

それが上手くいってくれることを願って。








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